第45話 待ち伏せ

 まだ起き上がろうと動く兄ちゃんの首裏にスネを乗せ、体重をかけて地面に押さえ付けている。


 そこにアンラがやって来て、兄ちゃんの装備している物を見ている。


(ああ~、色々と魔道具持ってるね~、あっ、ここにナイフとかも隠し持ってるじゃん、おっ、お財布見っけ~)


 アンラ、盗賊なんだ、そんないちいち確かめるんじゃなくて、パンツだけ残して服も回収しておけよ。


(ケント賢いじゃん♪ ほいほ~い)


 俺の下にいる兄ちゃんが装備していた、金属製の胸当てやグローブはもちろん、革製のブーツなんかも全部収納したアンラ。


 俺は、それを見ても何も言わねえ隊長に目を向ける。


 隊長は重心を落とし、腰の剣に手を掛け、俺を睨んでいた。


「なんだ? もう盗賊は捕まえたから大丈夫だぞ、隊長もこんな部下がいたんだ、災難だったな」


「すぐにその者を解放しなさい」


 怒りをなんとか爆発しないようにしているような……じりっと足をすらせるようにして、じわりじわりと間合いを詰めてくる。


「なんだよ、隊長、あんたも盗賊だったのか? 見てただろ、こいつがクローセの肉を何も言わずに俺の手から皿ごと奪って食いやがった」


 ゆっくり立ち上がり、俺も背中のクロセルに手をやる。


「その程度で盗賊とは言わん! 即刻解放せよ! せぬなら力ずくで――」


 さらに間合いを詰めながら、シャランと鞘から剣を抜いて構えを取った。


 それに言い返してきたところを遮るようにクロセルを抜き構え、言い返してやる。


「やかましい! あんたらは食うものがなく、やっとの思いで手に入れた食べ物を取るのは良いって考えなんか!」


 俺の言葉に顔をしかめながら、少し切っ先が下がる。


「そ、そうではない! その者は公爵の兵士なのだぞ!」


「へえ。じゃあ公爵様も捕まえねえといけねえのか? 貴族が暗殺ギルドのギルドマスターしてるくらいだ、盗賊の親玉が公爵様でも驚かねえぞ」


 剣を構え合う俺達。


「公爵様を盗賊呼ばわりするとは! 不敬罪だ! 即刻その首切り落としてくれる!」


「やれるもんなら――は? ギルマス?」


 焚き火横のテントから、騒ぎを聞き付け出てきてこっちの様子を見てる兄ちゃん達……装備をやっぱり外してるじゃねえかよ。


 兵士達も駆け付けてきたな、パラパラと隊長の背後に集まってきていたんだが、一人見たことがあるおっさんがいた。


 俺が目を疑ったおっさん、冒険者ギルドのギルマスだ。


「ケント、なんの騒ぎだ? その裸の野郎は、盗賊と聞こえたが」


「おう、なんでここにあんたがいるのか分かんねえが、こいつは俺らの食料を強奪して食いやがった。だから捕まえたんだ」


「だからその程度で盗賊とは言わん! ん? ギルマス? それに今の声は……なっ!」


 隊長は背後のギルマスに気付いて振り返って驚いてるようだが、まあギルマスだから知っててもおかしくないか。


「こ、公爵様、この少年が部下を無実の罪で捕らえ、盗賊と言うのです。それに私や、公爵様の事まで盗賊と発言しました。これは不敬罪です」


 隊長は完全に俺に背を向け、ギルマスに向いている……。


「なあギルマスって公爵様なんか?」


「おう、そうだぞ、王都にケントの事を王に報告しに行く途中だ」


 ギルマスは隊長の横を通り過ぎ、俺のところまで来た。


「隊長、こいつがケントの肉を取ったんだな?」


 裸の兄ちゃんは俺の押さえが無くなったからこちらに顔を向けている。


 それを見下ろしながらギルマスは問いただす。


「はっ、た、確かにそうですが、その程度で盗賊とは」


「ケント、すまない、私の兵が迷惑をかけた、こいつは盗賊で処理する、隊長もだな」


「「こ、公爵様!?へ? 何故ですか!」」


「馬鹿野郎共が! 銅貨一枚盗むだけでも犯罪だ! それが分からないのか!」


 隊長に顔を向け、ギルマスは声を上げた。


「隊長の隊長職を剥奪! 副隊長は、隊長装備を全て外し、拘束せよ!」


「は、はっ!」


「ま、待って下さい! なぜ私まで!」


「分からないのか? 無実の冒険者に剣を向けたのだ、それも、強奪した者を庇うためにだ」


 副隊長と呼ばれた兄ちゃんは、隊長のところへ走りより、握っていた剣を取り、胸当ての留め具を外し始めた。


 公爵様の言葉で、何も言えなくなる隊長は、棒立ちで下を向いて黙っている。


「ギルマス、いや、公爵様って言った方が良いんか?」


「ん~、今は冒険者ギルドの仕事中だからギルマスで良いぞ。私は乗り合い馬車で行くつもりだったのだが……それなのにこいつらは勝手について来てこれだ、すまないな」


 ギルマスは裸にされ、ロープで拘束されていく隊長を見て情けない顔をしながら謝った。


「こいつらはしっかりと罰を与えておく」


「おう。それより後三十分ちょっとで森から五十人出てくるぞ」


「ん? どういう事だそれは、そんな事は報告されていないが」


「何でだよ、俺は兵士達に聞こえるようちゃんと言ったんだぞ?」


 ギルマスは近くにいた兵士にその事を聞いてる。


 まあ、あそこにいた者なら聞こえてない方がおかしいからよ。


 ギルマスが何人かに質問している間に、プリムが焚き火から離してくれたフライパンの肉を確かめる。


 良い感じに焼けたみたいだ。クローセの取られた分を、俺の肉から切り取って分けておく。


(ぬふふふ♪ どのワインにしようかな~♪)


「ふおぉぉ! 柔らかいですし、ニンニクが効いていて凄く美味しいですよケントさん!」


「マジだ、こりゃ上手く焼けたし味付けも成功だな」


 プリムの肩に乗ってるソラーレにもステーキを乗せて、ちとゴタゴタしたが、ボア肉を味わう。


「ケント、俺ですら言われ、集中してやっと微かにしか感じられないが、それをお前はそんな遠い時点で感じ取れたのか」


 ギルマスには気配が分かったようだ。


「ん、ほふはほそうだぞ


「すまん、食べ終わってからで良い」


 頷き俺から少し離れ、隊長と兄ちゃんを連れていくように指示し、兵士達に待ち構えるように指示した。


 それを聞いた途端に動き出す兵士達は、森に向けて陣形を取るんじゃなく、普通に夜営をしているように見せかけるようだ。


「ふぅ、おい、そっちのお前達も、装備を整えておけよ、それから何事もないように見せるために隠れておけ」


 ステーキも食べ終わり、兵士数人と俺達が焚き火前で待ち構えていると、森の中に沢山の光が見えてきた。


「プリム、来たようだ、馬車の影に隠れておけよ」


「は、はい。ケントさん気を付けて下さいね、ソラーレちゃん、クローセちゃんと待ってますね」


 立ち上がって馬車に向かったプリムを見送り、薪を一本加えた。


 さあ、夜の森を来る奴らは敵か見方か……。

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