第42話 夜営地の夜

 グリーンウルフの毛皮を渡したプリムを残して立ち上がり、公爵様の護衛達が焚き火をしている場所に向かう。


 クロセル、方角と距離、数はどんなもんだ?


『方角は街道を挟んだ森からですね、距離は五キロもないです、数は五匹ですからそう慌てる事はないですが、遠吠えなどされれば範囲外から集まる可能性はありますね』


 そうか、ありがとうな。


 数は気にしなくても良いが、不意を突かれるか、味方を呼ばれ数が増えた時はちと手間がかかるだろうな。


「止まれ。なに用だ、こちらには近付くなとこの夜営地についた時に周知してあるはずだが」


 護衛の兵士が近付いた俺に向かって、奥の大きなテントを護るよう立ちふさがり聞いてくる。


 そして森の奥から小さく遠吠えが微かに聞こえた。


「おう、騒がせてすまねえな、ちと伝えておこうと思ってたんだがよ、この方向約五キロに魔物が五匹、こちらに向かって近付いてきている」


「ぬ!?」


 俺が言った方向を指差すと、少し顔をその方向に向け、何かを探るように目を細めている。


「隊長、離れていますし、たった五匹なら――」


 話しかけていた隊長と呼ばれたおっちゃんについてきていた兄ちゃんは、俺を胡散臭そうに見てくるが……。


『七匹増えました、それにこちらに向かう速度が上がっていますね、このままですと一時間はかからずこちらに接触します』


 クロセルがさらに増えた事を教えてくれた。


「おっちゃん、すまねえな、さっきの遠吠え後、七匹ほど増えて、こちらに向かう速度が上がったみたいだ」


「小僧、まだ言うか!」


「待て、その少年のいう事は本当の用だ、私にも気配が感じられた、が、少年、君の能力は私よりも強いようだ、私には複数の魔物の気配は分かるが……」


「まさか隊長より上などあろうはずがありません」


 隊長さんが森に向けていた顔を俺の方に向け直し、少し戸惑うような顔を見せ、兄ちゃんは疑うような顔で二人とも見下ろしてくる。


 くそ、俺も背が高くなるかな、今んところアシア、エリスにも負けてんもんな、プリムにはギリギリ……一緒くらいか、いや、俺はこれからだ、にょきにょき背も伸びるはずだぜ!


「おっと、すまねえが、迎え撃つ準備を頼むぞ、俺も寝てる奴らを起こしてくっからよ」


「うむ、知らせてくれてありがとう、我々も休んでいる者を起こすとしよう」


「隊長、私が起こして回ります、隊長は公爵様の所へ」


 兄ちゃんはそう言った後馬車を囲むように立てられているテントに走り、隊長は馬車に向かった。


『今のところ、さらには増えていませんが急ぎましょう、思ったより速いです』


「おう」


 俺はプリムの元に戻り、寝ている奴らを起こして状況を話す。


「マジかよ……ちっ、本当みたいだ、確かに魔物の気配が近付いてくる! おい、外している装備を早く整えるんだ、時間がないぞ!」


「おう! ケント、知らせてくれてありがとうな、カルパさんにも知らせてくれ、箱馬車の屋根に乗っていて貰おう!」


 あわただしく羽織っていた毛布を脱ぎ去り緩めていた胸当てを絞め直し、小手や武器を装備し始めた。


「おう、二台ある箱馬車屋根だな、分かった」


『急いで下さい、もうすぐに街道へ出てきますよ』


(なになに~、魔物を倒すの? 今から来るのってレッドボアかな? ステーキね♪)


「レッドボア! あの!」


「分かんねえけど食えるんなら――じゃねえ! のんきなこと言ってる場合かよ、俺はカルパのおっさんを叩き起こしてくっからよ、ついてこい!」


 横にある大きめのテントに向かい、入口の布を開けようとしたが、俺が手を出す前に布が横に開けられカルパのおっさんと御者達がぞろぞろと出てきた。


「話は聞こえてました、箱馬車ですね、屋根の上に避難しておきます」


「おう、話が早くて助かる。プリム、お前は一緒に屋根の上だ」


 カルパのおっさんはすぐに馬車に向けて走りより、二台の屋根に分かれて登り始めた。


「はい、そこから魔法を撃つのですね!」


「分かってんじゃねえか、俺は前に出る、あっちの兵士達とな、頼むぞ」


「任せて下さい! げほげほ……」


 プリムは任せろってドンと胸を叩きむせたが……。


 ま、まあ大丈夫だろう、高いところから魔法での攻撃ならそう危険でもないからな。


 自分で叩いておいて、痛かったのか、胸をさすりながら箱馬車の屋根になんとか登り上り、一番街道側に陣取った。


 装備を整えた兄ちゃん達は魔法使いの二人は同じように馬車の上に、残りの四人は俺と共に公爵様の兵士達と共に街道に向けて迎え撃つ姿勢を取る。


『後五分もかからず森から出てきます、ケント解放して下さい』


「おう! 後五分くらいで出てくるぞ! 解放!」


 クロセルの言った通り、五分もかからないだろう。解放して分かったが、確かに十二匹いる。


 それより、デカいんじゃねえのかこれ……。


(おっきいよ~、レッドボアは馬車と変わらない大きさあるからね~、でも凄く美味しいからさ、一匹は私達で貰おうね♪ くふふふ、楽しみだなあ~)


「んなぁ~」


 いつの間にか足元にすり寄ってきたクローセは行儀良くお座りして街道の向こうを見つめている。


 そっか、馬車ほども……だがよ、近付く巨大な魔物がいるってのに、肩の力が抜けるような雰囲気だ、気を引き締め直して怪我も無いようにしねえとな。


「クローセ、大人しくしてろよ、美味いらしいし、腹いっぱい食おうぜ」


 しゃがみこんでクローセに話かけている間にどんどん近付いて、バキバキと木が折れるような音が鳴り響き、その巨大な姿を現した。

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