第38話 地下の残党
(
走り込んで来た兵士達に
「なんだこれは、どうなってる! この倒れている者達は誰なのだ!」
囲ってきた中の一人が剣を構えながらそう聞いてきた。
だが、動くものが俺達だけと分かったのか、険しい顔が少し緩んだ。
「おいプリム、屋敷には入るなと言っただろう、裏口からこっそり忍び込んだのか?」
なんだ? コイツらは暗殺ギルドじゃねえのか? それに……。
「あの服はリチウム男爵様の物だが、別人?」
「本当だ、だがガリガリだぞ、リチウム男爵様は太……ふくよかな体型、別人だろう」
だよな。でっぷりした腹に刺さったと思ったのによ、中身がこんなガリガリなら刺した感覚もおかしいってもんだぜ。
それに、もう一人はおばちゃんだしな。爺さんでも女の子でもなかったのにはビビったがよ。
ホールには沢山の男達が手足を縛られ転がっており、立っている者がプリムと俺だから警戒を緩め、抜き身の剣は下げられ現状を把握するのにキョロキョロとしている。
『そのようですが、油断させようとしているだけなのかもしれません』
(あっ、魔道具持ってた。へぇ~、毒に眠りを防ぐ魔道具だね。これをちょっと拝借してぇ~)
アンラは十二人いた者達の腰につけていた小さな水晶でできた魔道具を気付かれる事なく取ってしまい、
「まあ、それが良いよな。暗殺ギルドかどうか、まだ分かんねえし、とりあえず縛っておくか」
「後は地下だけだね~。暗殺ギルドの奴らはこの前、忍び込むようにしてたから本当に知らないだろうね」
「そうなのですか? そう言えば夜間、見張りの方達は屋敷には入るなと言われてましたね」
そうだとすれば、暗殺ギルドの線は限りなく薄くなりそうだ。
それでも一応十二人を縛り、地下へ向かうことにする。
奴らが出てきた通路に向かい、なにもない壁のところで止まる。
「この場所なんだが……」
気配が現れた場所は通路の途中、壁しかない。
アンラはその壁に近付きコンコンと壁を叩いてる。
「そうだね、私が忍び込んだ時、ここに入っていったしね~」
アンラが言うには魔法の言葉で鍵で開くそうだが、その言葉は分からないそうだ。
「だから無理やり入っちゃおう♪ せ~の、ほいっと!」
ドガンと軽く出した蹴りなのに壁は崩れ、その先に地下への階段が現れた。
「おい! まだ暗殺ギルドの奴らが残ってるかもしんねえんだぞ!」
「え~、大丈夫だってぇ~、ほら、気配も動いてないし~」
確かにまとまってある気配に動きはないが、あれで全員が出てきたとは考えられねえんだよな。
「まあ、とりあえず行くか、ほらプリム、足元がぐちゃぐちゃだから気を付けろよ」
アンラは崩れた壁はふよふよと浮かびながら穴を通り抜けたが、俺やプリムはそうは行かない。
手を引いてやり、なんとか乗り越え階段を下りていく。
下りたところにあった扉を開けて中に進む。
(ん~と、あったあった、扉の鍵見つけたよ~)
アンラが入ったところの壁にかかっていた鍵の束をくるくる回しながら持ってきた。
また念話に変えたって事は……暗殺ギルドの奴らがまだ残っている可能性も少ないがあるかもって事だな。
だが、アンラは奥に続く通路の途中にある扉を次々と開けて中を物色してる。
(お酒見~つけた。もらって良いでしょ? 駄目って言われても~もらうんだけどね~。あっ、こっちはチーズに干し肉もあるじゃん♪)
悪者の物だから良いけどよ、先に閉じ込められてる人を助けるぞ。
アンラは『は~い』と念話で返してきたが、次から次へと扉を開け『魔道書見っけ、これはケントのね』『おおー! お宝だ♪』『ここは拷問部屋か~ハズレ~』『ここは誰かの部屋ね、良いの無さそう』と少し先行しながら五十メートルほど進んだ先、他の木で作られた扉ではなく、鉄でできた扉前にアンラは到着した。
(地下にいる人はここだけね。奴らみたいに完全に気配を惑わす奴がいない限りだけど)
そう言いながら鍵穴に鍵を挿し込み、何度目かでガチャと鍵の開く音がした。
そのまま警戒することなく扉を開けるアンラ。
「なっ! 誰もいねえ! どうやって開いた! チッ、ガキが二人だけだと? 出ていった奴らは何をしてやがる」
短剣を構えた男が一人いたが、俺とプリムはまだ扉まで数メートルのところにいるからな。
男は部屋から警戒しながら出てきたんだが、アンラの横を通り抜けようとして、
「な~にをしてやがる。酔いでも回ったか? おい、ガキが二人いる、好きにして構わねえからさっさと捕まえろ」
「チッ、なにやってんだかよ、おら、サブマスからの依頼だ、みんな働きな」
野太い男の声が俺達を捕まえるように言った後、女の声が聞こえた。
サズマスか、ギルマスとあのおばちゃんがあの強さなんだ、部屋の中で椅子に座り酒を飲んでるおっさんには、気を引き締めてかからねえとな。
(武器持ってるのは五人だね~、奥に牢屋があるから早く助けちゃおうよ)
扉を押し開けたままアンラは中にてくてくと歩いて入り込んでそう教えてくれた。
入れ違いで三人の男が部屋から出てきたんだが……。
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