第24話 ランクアップだぜ
プリムの驚きの声と動きででハッと気が付いたギルマスは、俺と司祭のおっさんの顔を見てきたから頷いてやる。
「マジかよ……この数はひとつの群れじゃない、少なくとも二つの群れを倒したのか? それにどのグールも切り口は一つしかない、一撃で倒してるって事だ」
「おう。その通りだぜ、数が多かったからよ、二手、三手なんてしてたら囓られちまうぞ」
「……ケント、素材の査定はこの量では時間がかかる。その分は明日の朝で良いか? とりあえず常時出ているグール討伐の依頼だけでランクが上がるか……よし、討伐依頼が七十八回分だ、それだけは今日もらえる。そうだな……ランクアップも一緒にしてやろう、付いてこい」
そう言うと、ギルマスは横にいた買い取り担当のおっさんに『奥に片付けておけ』と言われ『え? これを全部ですか?』とか言ってたが、受け付けに向かうギルマスに続き俺達が付いていくと、いつの間にかできていた人垣が左右に分かれ、道ができた。
「おい、この依頼完了を登録して、ランクアップの処理もしてくれ、あー、ちょっと待て。ケント」
ギルマスは首から上だけ俺に向けて聞いてきた。
「ん? なんだ?」
「聞いてなかったが今回のグールはそっちの嬢ちゃんが一緒にいる時に倒してはいないんだよな?」
「おう。そん時は俺だけだな」
「分かった。ケントだけだ、Dランクに上げる。実績だけならもっと上げたいところだが、仕方あるまい」
「は、はい。あの数ですからね。ではすぐに。えっと、な、七十八匹ですか······」
姉ちゃんはギルマスが渡した紙切れを見て、魔道具を操作している。
ギルドカードを出しておけと言われカウンターに出して待つ。
(なんだ、もっと上がるのかと思ってたけど、ケチ臭いわね~、一つしか上がらないなんて)
あのな、確かCランクに上がるには試験みたいな依頼があって、それをやらないと上がれないはずだぜ。どんな依頼か秘密らしいから教えてはくれなかったけどよ。
アンラはあきれ顔で横にいるギルマスのシャツに、カウンターの上にあったペンで『ケチ』とか『ハゲ』とか書いてる……おいアンラ……まあ思わないでもないが可哀想だろ……。
(ふ~ん。そうなんだ。まあケントってば二回目だもんね、完了依頼も、ってグールを入れれば八十回だけど、捕獲、掃除に討伐だけじゃないのね)
俺はまだ何か書こうとしてるアンラの手を引き、引き寄せておく。
まあ、グールの依頼で結構儲かったし、ランクも上がったからよ、ちと早いが村に報告しに帰るか。
(にゃ、にゃにするのよ! プリムが見てるのよ! こんな事は――)
アンラ。悪戯はやめとけ。そのペンは洗っても中々落ちないだろうからな。ギルマスの奥さん······いるかどうか知らねえが『ヘンタイ』『スケベ』は駄目だろ。俺もクソ爺の服に落書きはしたけどよ、マジで落ちねえんだ。
(そ、そうね、このくらいで許してあげるわ。そうだ、なにかあげるって村から旅立つ前にケントのお爺ちゃんが言ってたし、それで良いんじゃない)
「登録終わりました。まずは報酬ですね、グール一匹が大銅貨五枚ですので大銅貨三枚と銀貨が九枚っと、はい。収め下さい」
アンラの悪戯を見て、止めていたら登録が終わったようだ。
「ひょぇー! ケ、ケントさんが大金持ちですよ!」
「おお! これならプリムの金は払えっよな。銀貨五枚だったろ?」
「あ、あの、良いのですか? 今回凄く沢山の報酬でしたけど、私なんかにそんな大金を使うなんて」
申し訳なさそうな顔のプリムの頭に、空いてる手を置いてグリグリと撫でてやる。
「行くとこねえんだし、遠慮すんな、パーティーも組んだんだしよ。うっし、宿は昨日の冒険者用でいっか、二部屋空いてっかな」
俺達はギルマス達に礼を言った後、昨日の宿に行ったんだが一部屋しかなかったが、まあ、プリムは小せえから二人で寝れっだろ。
晩飯前に管理監のおっさんに金だけ返すため、管理監邸に行くことに。
「ってかよ、プリムこんなところに住んでたんだな。金持ちじゃねえか」
「いえ。私は住ませてもらっていただけですし······お母さんがリチウム管理監に臨時の護衛として雇われてね、気に入られちゃって、貴族の方に言われたら断われないし、仕方なく結婚したの。それで私も住込みで下働きしていたのですけど、一ヶ月ほど前盗賊に――」
プリムの母ちゃんはこの街にもっと幼い頃のプリムと一緒に流れ着いて、定住できるところを探して冒険者をしながら旅をしていたそうだ。そこであの管理監の
それから管理監の仕事で、近くの村を回る護衛として魔法が使え、Cランク冒険者だったらしい母ちゃんは、妾って奥さんだろ? それなのに護衛して、盗賊に殺されたらしい。
(ふ~ん。腑に落ちない流れね。妾の子だとして、血の繋がらない子供を住まわせていたのは良いんだけど、スキルが駄目だったからって、すぐに放り出すって気にいらないわね。まあ普通なら住まわせる事もしないわ。何か企んでたんじゃないの?)
アンラの言う通りだな。貴族ってのは魔法が使える奴が多いって言うしよ、プリムに魔法の才能が無かったから捨てたってのは当たってるか。
そして、管理監邸に到着したんだが。
「止まれ! ぬ!? 貴様はプリム。旦那様より、貴様は入れるなと言われておる」
槍を持った二人のおっさんが、行く手を阻むようにお互いの槍を交差させて俺達を止めた。
「おう。それは知ってる。プリムのよう······よういくひ? だっけか、それの銀貨五枚を払いに来たんだが、門番のおっさんに渡せば良いんか?」
おっさん達は顔を見合わせ『少し待て、確認を取る』と言って、屋敷に走っていった。
アンラは冒険者ギルドからペンを持ってきていたみたいで、門番のおっさんのお腹の部分に『ぷよんぷよん』と書いてる……俺は動けねえし、止めらんねえ……。
アンラ、後でそのペン返してこい。勝手に待ってきたら泥棒だぞ。
(え~、このペン勝手に墨が出てくるから気に入ってるのに一本くらい良いじゃん)
はぁ、後で魔道具屋によってやるからよ、それは返しておけ、分かったな。
(あ~い。そうだ、目を描いて~、口でしょ~それから――)
横でプリムがはらはらオロオロしながら見ている内に屋敷に向かった門番が帰ってきた。
「確認したところ、貴様が言った通り銀貨五枚を受け取っておけとの事だ。荷物はこちらで処分しておく」
「荷物? プリム、お前の荷物は何かあんのか?」
俺は門番に金を私ながら、プリムに聞いてみると、情けなさそうにポツリと……。
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