第21話 ソラーレはすげえんだぞ
そこそこデカい魚の焼き串を二本持って、こっちを向いたおっさんが、ツボを見て驚いて小さくだが叫んだ。
それに俺の事は見ないで……壺か!
「なんだよこのピカピカなツボは! おい! ソラーレ大丈夫か!」
ソラーレを入れた壺がおかしいと、おっさんも一緒にツボの中を覗き見たんだが、中身もツルツルピカピカになって、プルンとソラーレがツボから出てくるところだった。
「こりゃたまげたぜ。このスライムはソラーレって言うのか。ここまで綺麗に食ってくれるとは思いもしなかったぜ。ありがとうなソラーレ」
プルプル震えてなんか得意気に見える。
「俺も驚いたぜ。やるなソラーレ」
「ほう。すげえな、俺のゴミツボも食べねえか? スライムはいくらでも食えるんだろ?」
「マジかよ! 新品みたいじゃねえか! おい坊主、そのスライムに俺のところも頼んでくれねえか!?」
広場の一角で商いをしていた五台の屋台主が集まって俺と魚のおっさんの後ろから覗き込んで口々にそんな事を言いやがるが……。
「ソラーレ、こんな事言ってっけどお前食えんのかそんなに」
『任せろと言ってますね……たぶん』
マジか! んじゃ……。
「良いらしいぞ。ソラーレ、後五つあっけど食べて来て良いぞ」
俺がそう言うとソラーレはみよんぷよんと弾みながら隣の屋台へ移動してゴミのツボに取り付き、ポロンと中に入ってしまった。
「すげえな、ちゃんと言うこと聞くなんざ、腕の良いテイマーって事か、やるな坊主」
「おう。本当にな。俺もスライム見付けてくるかな。今なら草原に集まってるだろ?」
「はふっはふっ。んくっ。おう、そうだぜ。俺もソラーレはそこで見付けたからな。探せばまだいるんじゃねえか? はぐっ」
俺は魚の焼き串を受け取り齧り付きながらソラーレ勇姿を見ているおっさん達に教えてやる。
ってか商売しろよな、客が待ってるぜ。
昼飯も食い終わり、もちろんソラーレも五つのツボを食べきりおっさん達に絶賛されて今は俺の頭の上でご機嫌にプルプルしてる。
(流石グラトニースライムね。底無しに食べれるからまだまだ余裕みたいよ)
「そうなんか。やるなソラーレ。俺も負けてらんねえな、誰にでも認められる最強の冒険者になってやるぜ。ってかあの馬車ってさっき屋台前を走っていったやつだよな?」
教会の前に停まってる馬車と数頭の馬。
「あらそうね。何しに来たのかしら貴族の馬車っぽいけど……」
(あっ、あの本を借りてきた貴族じゃないの! もしかしてグールをやっつけたケントを見に来たのかな? それとも本を持ち出した時のあの子がいたわね。年の頃はケントと同じくらいだし、洗礼を受けに来たとかかな?)
「しゃあねえな、貴族のいるところなんざ通ってなんか言われんのも嫌だしなぁ。でも表から回るにはちと遠回りになっちまうし……まあ、こそっと通り抜ければ良いだろ」
(ん~、まあ行ってみなきゃ分かんないわね)
なんかアンラは考え事してっけど、ふらふらついてくるし、貴族の馬車の横を通って教会の中に入ると、司祭のおっさんと俺と同じで真っ黒なボサボサ髪の女……の子だな、スカート履いてっし。
チラッと横顔が見えたが、目も俺と同じ茶色で······耳がとんがってるな? まあ良いけどよ。ちょうど洗礼を受けたところみたいだ。
「これは……スキル『物造り』です。ガルシア男爵様……このスキルは何かを造る際に役立つスキルです」
「なんだと! 貴族の子に何かを造れと言うのか! プリム! 役にもたたんスキルを授かりおって! 今ままでお前を育ててきたのは死んだ
おいおい、なんだよこの貴族のおっさん。妾の娘がちいとばかり残念な……残念なスキルなんか? 物造りなら良いスキルじゃねえかよ。
「おい司祭! コイツはここの孤児院に入れるなり、奴隷として売るなり好きにしろ! 無駄金を使わせおって!」
(あらあら、物造り、ドワーフなら飛び跳ねるくらい喜ぶスキルなのに勿体ないわね~、ケント、あの子を引き取りなさいな、強くなるわよ。今見たんだけどこの子ドワーフとエルフのハーフなんて良いとこ取りじゃない)
「なあ貴族様、この子、俺の冒険者パーティーにしても良いか? 捨てちまうんだろ?」
「なんだ貴様は!? ……ふむ。この役立たずを冒険者にか、好きにすれば良い。どこにでも連れていけ、二度と私の前に顔を見せないようにな。いや、今まで育てるのにかかった銀貨五枚は返しに来い。それと小僧。言葉遣いに気を付けろ、私はこの街の管理監だ、今日のところは許してやるが、次は不敬罪だ」
そう言い、俺を睨み付けると、兵士を連れて教会を出ていった。
(ふ~ん、まだグールが倒されちゃった報告は聞いてない? でももうお昼も回ったし、聞いててもおかしくないんだけどなぁ~まあ気にしても仕方ないか)
「銀貨かよ。えらく安いじゃねえか。まあその内稼いで返せば良いよな」
「ケント君。良いのかい? 君も冒険者を始めたところだが、あの強さがあれば、どんどん先に進めると思いますよ?」
「ん? 何言ってんだ? 物を造れんのはすげえ事だぞ? 飯も物造りに入んだろ? すげえ冒険者にも役立つぞ」
俺は司祭のおっさんから女の子に向き直って挨拶からだな。
「俺はケントだ。なんだか捨てられちまったみたいだが、俺についてこい」
「え、えと、プリム……ふぇ……ふぇぇぇぇーん」
「お、おい、なんだよいきなり。泣くんじゃねえ。ったく子供かよ······あっ、子供だよな俺と同じ年みたいだからよ、んじゃ、もっと泣け。泣くだけ泣いたら楽になるってアシアが言ってたぞ」
(あんたねぇ。慰めの言葉くらい覚えなさいよ)
「あはは。リチウム男爵様も酷な事を、連れ子とは聞いてましたが。ケント君。本当に大丈夫かい? もし無理なら私やクルト司祭に相談して下さいね」
「おう。コイツも、あープリムも努力すりゃ、何でも造れるようになるんだろ? ほら元気出せ。うおっ!」
頭を撫でてやってたんだが、しがみついてきやがった……まあいっか。
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