第3話 開眼

「お前らしゃがめ! うおぉぉぉりゃぁぁぁぁー!」


 俺の声に反応して素直にしゃがんだ二人の真上を、アンラから引き抜いた剣で横薙に斬り払った――ズバッ!


 ウボォォォォォー! と気持ち悪い声をあげながら半分近くは二人から離れ、空に上がって行くように消えたのだが、まだ二人には大量のモヤモヤが残ってやがる。


「おっしゃぁー! 二人ともそのまま動くんじゃねえぞ! おらおらおらおら――っらぁ!」


「きゃー! ケント! 何してるのー!」


「アシアちゃん動いちゃ駄目! ケント君が動くなって言ってるもん」


 アシアが頭を上げようとしたのをエリスが押さえ込む。


 そのすぐ上を漂うモヤモヤを叩ききっていく。


「おらおらおらおら! おらぁー! 消えちまえやモヤモヤ野郎が! コイツらを苛めやがって承知しねえぞ! おらおらおらおら!」


 何十匹も切り裂いてやったが、なんて軽く振れる剣なんだ、このままアシアとエリスにくっついてたヤツらは消えていくが、また別のヤツがどこからともなくやって来やがる。


「くそっ! キリがねえぞ! お前ら俺のそばを離れんなよ! それから頭は上げんな! おらっ!」


(ケントー、それだけじゃそいつらどんどん集まってくるだけだよー。神剣の力を開放しなきゃ。その子らに目印付けてあるもん。目印を斬ってしまわなきゃ)


 アンラはやっと地下から上がってきたのか、教会から歩いてこっちに来る。


「アンラ! おらっ! それはどういう事だ! ちゃんと説明しやがれ! おらおらぁ!」


(神剣の力を開放するのよ? 分からないの? あっ、そっかー、まだ神剣とは契約結んでないからかー)


「ワケ分かんねえぞ! 開放ってどうすりゃ良いんだよ! しゃっ!」


 二メートルくらいまで近付いてきたんだが、そこで止まってなんか考え込んでやがる。


(はぁ~、契約しちゃったしなぁ~、それになんで妻? ふざけてるの? 今度会ったら問い詰めてやるんだから。……仕方ないなぁ、開放の仕方は······)


 なんか訳分かんねえ事言ってんけど、早く教えてくれよ!


(神剣に血を一滴で良いから垂らして~『契約は永遠。代償は我が血と命。我に従え』って言えば契約完了だよ~)


「それをやればコイツらをやっつけられんだな! おらっ! よし!」


 俺は剣の刃で指をシャッと切り、ボタボタと血が出る手で剣を握り直してまた近付いてくるモヤモヤを切り払う。


「おらっ! 後はさっきの変な呪文だな! 最初は――契約は永遠! 代償は俺の血と命だ! 俺に従いやがれ! おらおらっ!」


 言われた通り呪文を唱えてモヤモヤを切り裂くが、さっきと変わらねえ、どういう事だ、まだなにか足りないのかよ。


(ちゃんと正確に言わなきゃ~『契約は永遠。代償は我が血と命。我に従え』だよ~)


「おらっ! そうか! 契約は永遠。代償は我が血と命。我に従え! どわっ!」


「「きゃーケントー!ひゃっ、ケント君!」」


 呪文を唱えた途端にビカッと光って目を閉じてしまった。


 ブワッと握り締めている剣から力が入り込んで、手がビクビク痙攣し出したと思ったら今度は全身、足の先から頭の先までその力が広がっていった感じがしてビクビクがおさまった。


「何だよこれは! ってかモヤモヤが止まったぞ! アンラ! これでどうすりゃ――」


 次の瞬間背中に力が集まり背中が弾けた!


「ぐがぁぁぁぁー!」


(あら~? へぇ~、面白いわね♪ くふふふ、コイツって大当たりじゃない! まさかここまで劇的に変わるなんて相当高位の魂って事よね! よしよし、ケントが死ぬ間際に魂をいただいちゃえば良いじゃん♪ 最後に笑うのはやっぱり私ね!)


 フラフラで、地面にぶっ倒れそうになっちまったが踏ん張ってるところに、アンラが笑ってる声が聞こえた。


(よーし! 機嫌が良いから私がやっちゃうわよ! レイスども! このアンラ様がやっつけてあげるわ! ひゃっほーい♪)


 背中の痛みに耐えながらなんとか二人を守るように立っていたがヤベえ······、気が······遠く······。


 気絶する寸前まで見開いた目に映ったのは、アンラが裸のまま笑い、爪が剣ほどまで伸びて、モヤモヤを片っ端から切り刻んでいるところだった。


「······服······探さないと······な」


「ケント! ケントしっかり! 死んじゃ駄目ぇー············」


「ケント君! どうしよう血がいっぱい出てるよ! あわわわ············」


(きゃはははははは! たかがレイスが私に敵うと思ってるの! 死ね死ね死ねって、もう死んでるんだっけー♪ きゃはははははは!)


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「クルト、後ろからも狙っていますよ! 悪しき者よ静まれ! 聖火ライトニングフレイム!」


 司教は私に注意を促し自身でも聖火ライトニングフレイムをレイスに放つ。


「司教こそ気を付けて下さいねっと! そこに隠れているのは分かってるぞ! ハッ!」


 司教の背後に突然現れたレイスを浄化の力を内封する剣で切り裂く。


 少し離れたところで助祭とギャスパーが、数匹のレイスを相手取っているが苦戦を強いられている。


「ふ、二人とも、が、頑張ってくだひゃぁぁぁー!」


「おらっ! 助祭殿! 危ない! はっ! しまっ――ぐあっ!」


「あわわ! ギャスパーさんが! ラ、ライトニングぎゃぁぁぁー!」


 やられそうになった助祭を助けるために、崩れた姿勢で繰り出した浄化の槍でレイスを浄化したが、元々相手をしていたレイスがギャスパーに覆い被さった。


 さらにそれを見て動揺した助祭にも、別のレイスが迫る。


「ヤバい! ギャスパーと助祭がやられそうだ! 司教! ここは俺がなんとかするから下がってください!」


「くっ、このままでは不味いですね、二人を下げますからしばらく頑張ってください! 浄化の炎よ焼きつくしてください! 聖火ライニングフレイム!」


 特大のライニングフレイムで村の方向に群がるレイスを浄化した司教は、大男のギャスパーと助祭の元に走りより、身体強化の魔法を唱え、二人をかついで村に走る。


 村に入ればこのレイスの大群に立ち向かう前に結界を張ってある。相当傷は深そうだが、回復魔法を唱えて血止めをすれば、命は助かるだろう。


 しばらく浄化の依頼は請けれないだろうがな。


 しかしこれほどの数のレイス……ほとんどが下位のレイスなのは救いだが、中に一体だけ中位の奴がいた。


「この中位レイスが二人をやったようだな。流石に中位と言ったところだが、私には通用しない! 神聖剣ライトニングブレイド! はぁぁぁっ!」


 この仕事をやり始めた時に教皇様から預かった剣に神聖剣ライトニングブレイドの魔法をかけ、斬りかかったが、下位のレイスが中位のレイスを守るように立ちはだかった――っ!


「はっ!」


 ――が、その下位レイスごと中位レイスを横薙に切り払った。中位レイスの体がもやに変わり空に消えた。


 その途端、集まっていた下位レイスは一目散にその姿を消していった。


「ふう」


 熱のこもった息を吐き、村の方に歩き始める。


 ギャスパー達は大丈夫だろうか? 名無しだが中位の相手だった、あの二人には少し荷が重かったようだ。


 辺りの気配を探るが、残りも逃げて消えたようだ、近くにはもうレイスの気配は無くなった。


 さて、二人が心配だな、私も村に帰ろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ねえ! ケント! 死んじゃやだ!」


「ケント君! 気をしっかりです!」


「ん? おろ? 何だ? おいお前ら無事か! あのモヤモヤは何だよ!」


 揺すぶられて意識がハッキリしたが、俺に覆い被さっている二人越しに見えた景色は、裸のアンラに追い回され、切り刻まれている化物······本当にあのモヤモヤは何なんだよ……。

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