鬼も笑う夜
「まあ、とにかく。その『白き魔女』うんぬんについて、あたしのほうから言えることは何もない。なにしろ記憶がないもんでね。悪いね」
姉ちゃん、なんか悪い政治家みたいになってるぞ?
「だけど、気になるならまた訪ねてくるといいよ。家の周りでコソコソされたり、武器を持って押しかけてきたりっていうのは、歓迎しないけど」
「むむ……。それは、こちらも悪かった。申し訳ない」
「まあ、よくわからない相手を警戒するのは仕方ないさ。だけどわからないことは、聞けばいい。お互い、違う世界の生き物なんだから」
姉ちゃん!? それ言っちゃって大丈夫? オレたちが異世界から来たってこと、バラしちゃって……。
「ふむ。たしかに、我々と魔女では住む世界がまるで違う。互いを知らぬのは、道理というわけですな」
「そういうこと」
え、そゆことなの?
こうして第一回異世界会談は終わり(いや、二回目はねえからな)、異世界人たちは引き上げていった。
けど……。
「うがぁーっ!! やっぱムカつく。何なんだよ、魔女って! 姉ちゃんは魔女じゃねえし!」
「いいじゃない、好きに言わせておけば」
「よくねえよ! オーガがオレたちのせいだとまで言いやがったんだぞ? とんだ濡れ衣だ」
「それこそ、真実かもしれないよ」
「えっ!?」
どゆこと? オレ、オーガなんて目覚めさせてねえぞ。
……じゃあ、姉ちゃんが?
いつの間に?
どうやって?
「って、そんなワケあるかぁーっ!! 姉ちゃんは魔女じゃない! よってオーガを復活させたりしない! どう、オレの理論、完璧?」
「エビデンス・ゼロ」
「何だそれ? 何の魔法?」
なんか、強そうだな。いろいろ無効化とかする魔法かな。
「彼らの言い分のほうが、まだ筋が通ってるってこと」
「へっ? ……そ、そんなことねえし! あいつら言ってること滅茶苦茶だし!」
「そうでもないよ。質問のしかたを変えてみても、内容は一貫性があったし、特に不審なこともなかった」
いや、不審でしかなかったよ!?
「今後も、良い関係を築いていけるといいね」
「今後って……もう二度と来んなよな! くそぅ、塩まいてやる! 塩!! ……って、うわーん姉ちゃん、塩どれ~?」
「左端じゃなかったっけ。書いてない?」
「左端……これか? ナックルって書いてあるぞ? ナックルって何だ?」
たしか、塩も砂糖も「S」から始まるんだよな? だから間違えて入れちゃうんだろ。
「ん? ……ああ、うっかり
「ほえ。なんで豆?」
「こんなのもらった」
「ふぎゃっ!?」
お、鬼だ! 姉ちゃんが鬼になっちゃった!!
「うちのラボで、こういうのやたら得意な子がいてね」
あ、なんだ。お面だったのか。
姉ちゃんが鬼の面を外して見せてくれるけど。要らないよぅ。お面だってわかっても、不気味じゃねえか。
「最近ずっとパソコンに向かって何やら頑張ってるなって思ってたら、これ作ってたみたい。その情熱を仕事に向けろっての」
「ラボって、平野くん?」
「ううん。平野くんは、残念ながらデザイン系はイマイチだから」
そっか。ポスターも、小学生の図工だったもんな。
結局その日の晩ごはんは、姉ちゃんの発案(ていうか独断)で、焼き魚と巻き寿司パーティーになった。
食べ終わると、姉ちゃんはゴブリンたちに炒り豆をたくさん用意させた。
「クロ、そっち行った!」
「え、どこどこ? あ、いた! くらえ、オレの必殺技・ビーンズ・ブラスター!!」
魔法の力で豆を連射する。
だけどそれは、標的に当たる直前で見えない壁に弾かれてしまった。
「うえっ!? そんなんアリかよ」
「加勢するよ! コボ!」
「お任せくだされっ」
ゴブリンが長い指をふるう。風が起こり、床に散らばっていた豆を巻き上げた。豆が竜巻となって敵に襲いかかる。
そっちに気をとられていると、
ズバババババッ。
別の方角からも大量の豆が飛来!
「姉ちゃん、そんなモノいつの間に!?」
「そのへんにあったもので、即席で作った。豆と言ったら、豆鉄砲でしょ」
「いや、それ豆鉄砲ていうか、バズーカだし!」
「あ、クロ、後ろ!」
「え? わっ、逃げたぞ! 追えーっ!」
棒の先に鬼のお面をつけて、それを持ったゴブリンが逃げ回る。
あとの二人と二匹で、お面めがけて豆を投げながら追いかける。
外は日も暮れて、おまけに雨が降り出していたけど、屋敷の中は明るかった。こんな遊び方もあるんだな!
明日もやりたいって言ったら、年一回だけの特別なんだって却下された。じゃあ、また来年、みんなでやろうよ。
明日は、晴れるかな? 晴れたら何をしようかな?
ワクワクしながら、雨の音に耳を傾ける。
寝ないと、明日が来ないけど。寝ちゃうの、なんか、もったいないなぁ……ふあ~あ。
「おやすみ、姉ちゃん……」
雨の音が、だんだん遠くなっていく。
心地好い疲れが眠りに誘う。
明日、きっと、晴れるよな……。
だけど、この雨がまた、とんでもないものを連れてきた。
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