第195話 悶着
16日目―――14
僕とシャナの唇が触れる寸前、その隙間に剣の刃が差し込まれた。
そして抑揚のない問いが投げかけられた。
「何をしている?」
声の方に顔を向けると、『
「何って、生命力を返そうかと……」
僕はしどろもどろになりながらも、とりあえず、決して
しかし『
「精霊の生命力は、口移しでしかやり取り出来ないのか?」
「……別に口移しの必要は無い。手で触れるだけでも可能」
「そ、そうなの!?」
しれっとした感じのシャナの答えを耳にして、僕は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
最後の戦いの時に生命力を分けてもらった状況と、シャナの思わせぶりな仕草のせいで、口移しでしかやり取り出来ないものと勘違いしていた自分が、今更ながら猛烈に恥ずかしくなってきた。
『
「お前は! 私とカケルとの関係を尊重すると誓った先から、これはどういう事だ?」
「今のは不可抗力。生命力は、救世主が好意で返してくれるもの。私がその方法を指定したりするのはおかしい」
「ずっと見ておったぞ! お前はわざとカケルの方から、キ、キ、キスするように仕向けていたではないか?」
シャナが小首を
「私からしようとした訳では無いし……まあ、それ位は大目に見ても良いのでは?」
「やっぱり、確信犯であったな!? さっき、カケルの世界について行っても良いと言ったのは、取り消しだ。お前はずっとここにおれ!」
「サツキ、落ち着いて!」
「大体、カケルもカケルだ。こんな見え見えの手に引っ掛かって! まさか本当に、この精霊の娘の事も好きなのか?」
「そんな事無いよ。君が一番だ」
「守護者が一番で、私は二番目でも十分嬉しい」
「シャナは、ちょっと黙っていて!」
僕が『
ようやく落ち着いたところで、僕は改めて『
「もし魔神を完全に消滅させる事が出来れば、君は封印の
「おそらく。まあその時は『
「何か良い方法って無いのかな?」
しかし『
封印されてなお、世界を呪い、勇者と魔王の不毛な戦いの元凶であり続ける魔神。
完全に消滅させてこそ、本当の意味で世界を解放する事が出来た、と言えるのではないか?
シャナが僕たちの会話に参加してきた。
「魔神の
「
「そう。魔神はこの地に封印されていても、魔神の残した
「どうすれば書き換えられるかな?」
「ごめんなさい。私達精霊には
シャナがまっすぐに僕を見つめてきた。
「救世主なら……あの女神と同じ力を有するあなたなら、或いは……」
「可能かもって事?」
シャナが黙って
状況証拠から考えて、僕が“守護者アルファから継承した”霊力を含めた能力全ての起源は、どうやらあの
実際僕はあの世界で、
そして最後の戦いの際には、
だけど残念ながら、全ては僕が能動的にと言うより、自然にと表現した方が適切な状況で成し得た事だった。
僕は『
「君は
しかし『
「見当もつかない」
「そっか……」
あの
僕の雰囲気を察したらしい『
「力を有するという事と、それを使いこなす事とはまた別の問題だ」
まあ、それはその通りなわけで。
と言うより、そういう話になれば、僕なんて全然この力を使いこなせてないわけで。
気を取り直した僕は、『
そして自分の中にある素直な気持ちを彼女に伝えた。
「サツキ。僕は何年かかっても、必ず魔神を消滅させる方法を探し出して見せる。だから、もう少しだけ待っていて欲しい」
「カケル……」
目を潤ませ、何かを言おうとした矢先、『
「どうしたの?」
「何者かが……この『
そう言えば、魔王エンリルはメイを使って、『
メイは今、ハーミルの家に匿われているはず。
しかしもしかすると、僕が数千年前の世界に飛ばされている間に、何かあった!?
身構える僕に、『
「カケル、ここで一旦、お別れだ。ここが外界と接続される前に、私は再び、封印の
言葉と同時に、『
そして僕の唇に柔らかい物が触れた。
「!?」
身を離した『
「ふふ。私がおらずとも、精霊の娘に惑わされるでないぞ?」
「サツキ……」
そのまま『
その直後、僕とシャナのすぐ近くの空間にヒビが入り始めた。
そして……
―――パリン!
空間が砕け散り、揺らめく不可思議なオーラで縁取られた、どこまでも黒い穴が出現した。
僕とシャナが身構える中、何者かがその穴を潜り抜けて……って、えっ?
「ハーミル!? それに、イクタスさん達まで!?」
黒い穴を潜り抜け、ここ、『
束の間、周囲を警戒する素振りを見せた後、彼らの方も僕の存在に気が付いた。
顔をくしゃくしゃにしたハーミルが僕の胸の中に飛び込んできた。
「カケル、カケル、カケルっ!」
しがみつき、号泣するハーミルの背中を優しく撫ぜながら、僕は彼女に
「ハーミル、ただいま」
この瞬間、僕は本当の意味で数千年前の世界から帰還した。
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