第77話 山口の街の利便性を増すために椹野川の治水工事を行いつつ山口湾付近を商業都市に防府を工業都市にして発展させようか

 さて、今回も突然やってきた公家たちだが暫く逗留してタダ飯タダ酒を大いに楽しんだあと京に戻っていくことになった。


 貧乏公家たちはとっくに山口に設けた仮の問注所や侍所、国府などでの仕事についてもらっている。


 ちなみに俺は接収した石見銀山を朝廷に御料所として寄進し俺はその管理者として銀山運営を行い採掘されたものの一部を寄進することで石見銀山への攻撃をしづらくしている。


 これにより尼子が石見銀山に攻めてきたら朝敵認定できるってわけだ。


 また元の朝廷の御料所や公家、寺社の荘園で経営が破綻しそうな場所などを探し、そこを朝廷などへの御料地名目で銭を払って名義を変えさせて接収してそこに代官を派遣し実際にそこで収穫された作物などの一部は朝廷へ納めることもしている。


 ここ最近の戦乱で荒れ果てていた場所の荘園管理者は結構いるのだ。


 まあ、それはいいのだが……。


「いやいや、本当はずっとここにいたいものですが我々にも政務がありますしな」


「まったくまったく。

 政務さえなければ京に戻りたくなど無いものです」


 いいからお前さんたちは京都に戻って今上陛下とともに祭事を行うという仕事をちゃんとしろ。


 公家というのは世襲の官庁公務員なのだからな。


「では、朝廷への官位の奏上と三好殿などとの折衝を行ってまいります」


「うむ、吉弘殿よろしく頼みますぞ」


 吉弘鑑理には公家たちの護衛を兼ねてまた畿内に行ってもらう。


 大内や大友の家臣などに対しての官位奏上の代理人でもあり、三好に対しては中国の守護職の要請を行ってもらいつつ、堺や山城での割符を坊津や博多、山口などの商人と提携できないか調査してもらいたいのだ。


 船で運ぶとは言え大量の銭をそのまま運ぶのは重くて大変だからな。


 こういった外交や交渉要員と言うのは大変だが重要なので中々替わりとなれるものもいないのだが過労死させないように気をつけてはいるつもりだ。


 さて、山口は山城の京の都のように内陸の盆地にあるが瀬戸内海とは椹野川ふしのがわを通じて水運ルート自体はつながっている。


 この時代は陸路よりも水路のほうが運送の都合上重要だが内陸にある山口の街が栄えることができたのも水運ルートがあるからだ。


 もともと山口は南朝から北朝へ帰順し、周防守護に任じられると長門守護の厚東氏を滅ぼして長門を制圧した大内弘世おおうちひろよが室町幕府第2代将軍足利義詮に謁見するため、貞治2年(1363年)に上洛しこの時に京と山口の地形が似ていることから山口を「西の京」とすべく都市としての整備を行ったとされるが、本格的に人口が増えたのは応仁の乱で京が焼け野原になって公家や坊主、商人、職人などが逃げ出した頃からだな。


 そして明との勘合貿易を始め朝鮮や琉球との交易を行っており石見銀山なども所有していた大内氏は室町から戦国期において細川氏を凌ぐ日本一の経済基盤を持っており、公家や僧侶などの文化人や商人、職人たちが京より多数逃げ出してきたことで、京や伊勢などから寺社仏閣なども勧請されて多数建てられ「西の京」は京の都よりも栄えていた。


 それも大寧寺の変までの話だけどな。


 椹野川の支流である一之坂川いちのさかがわは京都の鴨川になぞらえられているくらいだな。


 京に似ているということだけどそれを模したのは大内に何らかの劣等感のようなものも有ったかもしれないけど。


「ふむ椹野川河口の山口湾付近を港として整備しつつこちらは博多や坊津のような港湾商業都市としよう」


 樺山善久が頷く。


「山口港は博多や堺を上回る規模の街になるやもしれませぬな」


「それと防府は銅や鉄などの金属の精錬、鉄砲や大砲などの鋳造、刀や農具の鍛造などを専門的にやらせようか」


「それもよいかと」


 俺はいまだに残っていた明人の冶金技術も知っている職人を探し、中国式高炉である爆風炉の製造法を伝え聞いて、それを作らせることにした。


 まずは炭焼きで使う岩と砂の炭焼窯を改良して高温に耐えられるような窯をまず作らせ、九州南部でよく取れる珪藻土をレンガの形に整えて高温で焼きあげ、耐火レンガが焼けたらそれを組み上げて漆喰で固め耐火炉を組み上げて爆風炉を組み上げさせた。


 炉の原理としてはロケットストーブとあんまり変わらないが爆風炉に風を繰り込むためのふいごは水車動力を用いることにする。


 日本のたたら製鉄では複数人でふむ足踏み式ふいごだったが水力を使ったほうが効率的だからな。


 幸い佐波川さばがわがあるから水車動力を用いること自体には問題はない。


 こうして炉の改善で銑鉄製造(溶融冶金)に移行し原材料に磁鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱、砂鉄などを利用することができるようになったのは大きい。


 製鉄には多量の燃料が必要で鉄1トンに対し6トンの木炭をヨーロッパなどでは1ポンドの鉄を精錬するのに、12ポンドの木炭が必要だとされたからまともにやっては禿山ばかりになってしまうので、北九州や西中国地方で取れる品質の良い石炭をコークスにして、製鉄や製鋼の量を増大させることにする。


 ついでに塩田を入浜式に改良した。


 瀬戸内海は干潮と満潮の海面の高さの差が激しいので満潮時に海水を塩田に入れ込み干潮時に塩を吹かせることで揚げ浜式のように海水を桶で組んで砂の上にぶちまけるという大変なことをしなくてもよいのは助かる。


 煮詰める際の燃料はやはりコークスを使い木炭はなるべく使用しないで済むようにさせる。


「おお、コレはとても楽ですな」


「んだんだ、海に入って桶に水を組んでそれを運ぶのは大変だったからたすかるだな」


 水車を連続で使えば高い所に水をくみ上げる揚水も楽になりうる。


 田畑の灌漑や製塩にも使えるはずだ。


 その他にも水車を用いて様々な作業を機械的に行えるようにもしていこう。


 農村では回転式の石臼や木臼と往復式の杵を使って穀物の脱穀や製粉、餅つきなどをさせよう。


 千歯こきと唐箕や足踏式脱穀機も場所を選ばないのが良いのだが楽になるならそれに越したことはない。


 農民の農作業が早く終わるようになったら副業をやらせたい。


 切り出しただけの原木を材木にするため大きめの回転式式ノコギリを使って切断し今よりもずっと材木を楽に作らせたりもしたいし、樹の皮や竹などをハンマーで砕いてそれをすいて和紙を作ったりもいい。


 明の製糸に使う足踏み式座ぐり機も良いが水車を使った紡績機が有れば糸作りも楽になるだろう。


 砥石を往復させての刃物の研磨やハンマーで鉄などを薄く伸ばしたあとで太くて重い刃を落として一定の長さに切断して大雑把に釘や針をつくったりするのにも使えるだろう。


 もちろん植物油や魚油などの圧搾や香を作るときや石灰岩を粉砕するための粉末化作業にも使えるはずだ。


 水力による回転と往復というのは以外に万能だったりするのだな。

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