episode82 : 築いてきた信頼

――九十九視点――


「そういえばお主、シンシアから資格は貰ったのじゃ?」

「資格……あぁ、あれか。貰ってないな」

「早めに受け取っておくのじゃぞ。確実に必要になるものじゃからな」

「必要……って、俺、あの資格の用途の説明をされていないんだが」

「そ、それは……」

「もしや、?」

「う……っ。し、仕方なかろう!!受け取った時は聞き返せる状況ではなかったのじゃ!!いずれ必要になるから、集めさせるのだ……って。妾は悪くないのじゃ!!」


 なんつーか、ホント頼りにならんなこいつ。

 戦闘以外がポンコツなの、どうにかならんのか。


 ……後でマキナにでも聞いてみるとしよう。


「して、主は今何をしとるのじゃ?」

「見て分かるだろ?石拾いだ」

「何も分からぬのだが……、建物の修繕をしておるのではないのか?」

「これが必要なことなの。外壁を直せる覚醒者がいるんだけど、どうやら直すためには同じ素材が同量ないとダメなんだと。コンクリートなんて今すぐ用意できるものじゃないから、最低限破片を集めて直せるところだけでもってこと」

「なんとも微妙な能力じゃの……」


 現在、俺は校舎裏の芝の上をウロウロしている。しゃがみながら移動する俺は、不審者さながらの行動をしている事だろう。

 が、粉々になった破片を探すにはこうするしかない。


『該当する素材の位置情報は表示済みです。低い姿勢での作業は、サボりたいという意志の現れであると――』


 しゃぁぁぁぁぁらっぷ!!

 賢能さん。真実とは時に残酷であり、口には出さないくていいものも数多くあるのです。

 スキルの声は俺にしか聞こえていないのだから、そんな分かりきったことを口にするんじゃありません。


『解答。それはサボりを認めたというこ――』


 おーけー賢能、喧嘩しようってなら相手に……


『時間的効率を計算。この作業を素早く終えることで、翌日の作業が大幅に減少すると予測』


「あー、なんかやる気出てきたわ。こんな石ころ、さっさと集めるぞ!――疾走&影渡り」


 赤く映し出される石を、目にも止まらぬ早さで回収。渡された袋に放り込んで移動。ものの数秒で校舎裏の石ころ一掃した。


 ……なんだよ。


 別に早く終わりたいとか、そんな事は思ってないぞ?俺は葵のため、そしてこの学校のために、一刻も早くだな。


「あ!!九十九さん!」

「うわっ!石はちゃんと集めて……って、君は確か」


 建物の影から飛び出してきた存在に驚き咄嗟に言い訳を口にしたが、相手を見て問題ないと判断する。


「あ!屋雲勝谷です!!先日は助けていただいてありがとうございました!」


 そこにいた彼は、アウトブレイクが起きたあの日に魔力枯渇から救った少年だった。偶然何度も出会っているようだが、今回は彼が探していたようだ。


「その、どうしてももう一度お礼が言いたくて。おれ……じゃない、僕ができることはあんまり無いですけど……、何かお手伝いさせて下さい!」

「手伝い……かぁ。そうだな……」


 瓦礫集めは俺しかできないし、他に頼めることと言えば……

「ギルドに誘ってみたらどうじゃ?」


 知らぬ間に透明化していたハクが、俺の耳元で小さく提案する。確かに彼はまだギルドに入って無いようだから、一旦聞いてみるのもアリか。


「これは強制じゃないんだけど、俺、今ギルド設立のためのメンバーを集めてるんだ。良ければ俺のギルドに――」

「はい!!是非入らせてください!!九十九さんのギルドなら絶対に入ります!」

「お……、おう。助かる」


 前のめりな返事に、提案したこちらが困惑してしまう。


「まだ創れるかは未定だから、今度また改めて声をかけさせてもらうな」

「はい!!待ってます」


 これで一応二人目。

 予想より遥かに順調な設立への道に、内心驚きを隠せずにいる。ギルドが誕生する可能性も現実味を帯びてきた。


 とはいえ俺の交友関係的にあと一人いるかどうか。……いや、一人いるな。


「あの……九十九さん?」

「あ、すまんな。とりあえず、今日のところは他に頼みたいこともない。他に困ってるやつを助けに行ってあげてくれ」

「最初の仕事ってことですね。了解です!!」

「え?いや、違う…………もう行っちゃったよ」


 妙に張り切って去って行った。

 勝谷だっけか。あれだけ嬉しそうにしてくれていると誘って良かったと思える。

 ついでに設立ができなかった時の申し訳なさも増していく。


「ま、俺も頑張ってみますか」


 彼の期待に応えるべく、可能性のある一名への声掛けをしてみようか。



「是非とも参加させていただくよ涼君!!!」

「俺としても、武器のメンテナンスができる友人がいてくれると助かるな」

「僕の方こそ、戦闘面では役に立てないからね。声をかけてくれるなんて、嬉しくて爆発してしまいそうだ!」

「んな大袈裟な。それに、翔だってかなり強いだろ。あの質量の大剣を振り回せるんだから」


 日曜日、その日の夕方。

 学校から帰宅する前に翔の武器屋に寄った俺は、メンテナンスついでにギルドへの参加を申し出てみたところ、先の少年以上の食いつきを得られた。


 翔の元気な雰囲気にはもう慣れたので、少年の時ほど慌てることもない。


「でもあれだよな。翔の強さと武器があれば、ギルドに入ってないのが不思議なくらいだ」

「そうかな?でも、もしギルドに入ってしまったら好きな事が出来なくなるからね!僕はダンジョンの攻略も好きだけど、武器を作ったりお客さんと会話するのも大好きだから!」

「お前らしいな。俺は翔のその考えを尊重するよ」


 どこまでもイケメンで優しくて、眩しい。


 イケメンの爽やかな笑顔なんてぶっ飛ばしたいだけだと思っていたが、翔はこっちまで嬉しくなる良い笑顔なんだ。


 翔と友人になれた俺は、幸せ者だと誇っていい。


「にしても、涼君の武器は見る度にボロボロだねー。強いのは僕も分かっているけど、あんまり無理はしないように。武器だって自動修復がついていても、壊れる時は壊れるんだから」

「……善処する」

「でもさ、きっと涼君はこの武器で誰かのために戦ったんだろうね。だからあまり責められないな!」


 翔と会話していると、時たまトキメキそうになる。

 これで彼女が居ないのが、本当に不思議でならない。


 いやほんとに。これで彼女が出来ないなら、俺のような人間には一生かかっても無理だ。今のところ作るつもりもないけど。


「それじゃ、また来るな」

「りょうかーい!武器は直ったら連絡するよ!!」

「頼んだ」


 元気すぎる返事を背に武器屋を出る。

 外は太陽が沈み少し暗い。それでも空がまだ明るさを保っていられるのは、太陽の持つ輝き故。


 俺のギルドも、翔がいれば明るい場所となることだろう。


「にしても、順調も順調。あと一人で条件達成か、……その一人が大変なんだが」


 目の前はそれなりに人通りがあり、商店街はまだまだ賑わっている。……これだけの人がいるなら、一人くらい参加してくれる人がいるかもしれない。


 チラチラと俺を見る目は変わらないが、そんなヤツらを入れる気にはならないし。


――どうするかな。


 なんだか今日一日、ずっと同じ内容で悩んでる気がする。


「そんな焦らなくてもいい。今日はさっさと帰ろ

「わーー!!お姉ちゃん早――うわっっ」

「ん?」


 商店街が離れるように歩き出した俺の足に、誰かが勢いよく激突。反動で尻もちを着いて倒れた。


「すまん、大丈夫か?」

「うぅ……痛い、です」


 ぶつかったのは150センチ程度の小柄な少女。

 銀髪の長い髪を二つに束ね、特徴的な髪飾りはこれまた特徴的な美しい服にピッタリだ。

 さらに腰には細長い剣が二本、大事そうに携えている。


 何より目立つのはその瞳。

 左が黄色、右が青色のいわゆるオッドアイというやつか。少女の見た目的には大人でも充分有り得るが、覚醒者ならばその瞳が自前である可能性が高い。


 魔法的な反応で瞳の色が変わるのは良くあることなのだ。


「考え事をしていて気づかなかった。立てるか?」

「あ、はい!私の方こそ不注意を……」


 俺が伸ばした手を掴み、その少女が立ち上がる。

 そして俺の顔を見るなり、首を傾げてまじまじと見つめる。


「あなた、どこかで見た事が……」

「?俺は初めましてだと思うが」


 でも待てよ?

 確かに、なんとなく知っているような雰囲気を感じる。誰かと似ている……とかか?でも一体誰と――


「待ちなさいと言っているでしょう詩菜しいな!人混みを走ってはダメだとあれほど…………。って九十九さん?!」

「そっちは……、睦美詩佳、だよな?」


 その少女と似ていた彼女、――睦美詩佳が人混みを抜けて走ってきた。

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