episode66 : レベル上げに励む

「……よっと」


 転移時の浮遊感にも慣れた。


『無限迷宮第十二層。

出現レベル : 88〜95、残り時間は5.59.42……』


 無限迷宮、第十二層。

 前回は理不尽な時間制限と転移で探索も何も出来なかったから、実質十二層は初探索だ。


「また平原……じゃないな。ボスはきっとあの山の上だろ」

「山登りでもするのか?」

「まぁ、そうなるな」

「よく見るのじゃ。あちこちに穴が空いておる。内部は洞窟で広がっておるではないか?」

「面倒だな。レベルアップのためにもう少し上の階層を目指したい。出てくる魔物は倒しつつ、さっさと上を……ってお前ら勝手に出てくんなよ!!」


 あまりに自然な返答に普通に会話しかけたが、俺はまだこいつらを召喚していない。


「俺の従魔用異空間から自由に出てこれるからって、お前らだけ出るのはずるいだろうが。――召喚」


 俺は従魔全員を喚びだす。


「新しい従魔にはしないのか?」

「今の俺たちのレベルを考えろ。いくら合成できるって言っても、倍以上のレベルアップはできん。同種って条件もあるし、従魔化するならもう少し上の階層の魔物にしたい」


 俺は決して効率厨とかでは無いが、これだけレベル差のある従魔をちまちま合成して増やしたいとは思わない。


 まぁ、従魔の誓いの条件にレベル差が関係するなら考えなくもないが……


『スキル"従魔の誓い"に従魔対象とのレベル差は関係ありません』


 だ、そうだ。


 ワンパンで倒せる魔物に手加減する方が時間もかかるし、一撃で倒されない魔物を見つけたら仲間にしよう。


「ボスは俺が倒しに行ってくるが……まぁ、特にそれ以上指示もないから適当に探索でもしておいてくれ。この程度のレベル帯じゃ、大した経験値にはならないし」


 余計な殺生は――なんて言うわけない。

 ただ、本当に指示がないだけ。


 どっかに経験値の美味しいメ○ルな魔物が湧いてくれれば最高なんだが……


「ぴ!」


 ちらりとメタに視線を落とすと、メタは自信ありげに生やした触手を山岳へと向けた。


「あそこにいるのか。マジ?」


 同族同士の勘ってやつ?

 いや、同族なら倒される様子は見たくないのでは。


 少しばかりの罪悪感を抱き、俺はメタを持ち上げ伺う視線を向ける。


「ぴぃ!!」


 俺の心配を他所に、気満々のメタ。


 まぁ……可愛いからよし。


「んじゃ、全員で山を目指すか」


 まずは視線の先にに聳え立つ山を目指し、走り出した。



 遠くから見ると山に見えたが、近くで見るとこれは――


「岩山じゃな」

「これじゃ山登りって言うより崖登りだぞ。ハク、あっちから見えた空洞の場所分からん?」

「この崖を少し登った位置に空洞は見えたが……」

「結局登るのか。しゃーない。メタとロックスライムは俺に、ブランはイーグルに、他は自力で登ってくれ」


――飛翔加速


 いやー、やはり飛べるって便利。


 ルナとベクターは元から飛べる。マキナも問題ない。

 ハクも初見で飛んでたからいける……


「妾も連れてくのじゃ!!」

「ちょっ、少しは自分で動けよ!」


 飛び出す瞬間、俺の頭にへばりついたハク。

 どんだけ自分で動きたくないんだよ。


 ツッコミながら素早く上昇する。数秒の上昇の後、岩肌に山内部へ続く黒い空洞を発見した。

 俺たちはそこに着地し、中へ進むことに。


「ブラン、灯り頼む」

――ライト


 暗闇の内部が照らされる。

 中は広い空洞になっていて、上へと続く岩の道が他の出入口へと複雑に伸びていた。さらに、よく見るとあちこちに鳥型や虫型の魔物の姿が。


 メ○ルな魔物は……ざっと見た感じいなさそうだけど。


『鑑定を行いますか?』

「いや、俺はひとまず上を目指すから大丈夫」


 とはいえ、絶好のチャンスをスルーはしない。


「暗闇でも戦えるやつは?」

「妾は戦えるぞ!」

「我も問題は無い」


 ルナとベクター、イーグルも戦えそうだ。


 俺の灯り役ブランとスライムたちはダメそうなので、俺と一緒に上を目指そうか。


「このエリアはお前らに任せる。ボス倒したら勝手に転移するはずだから」


 暗闇でも自由に動けるのはいいな。

 俺も暗視効果欲しい。


 ……って、ないものねだりはここら辺にしてさっさと移動しよう。


――疾走


 スライムたちには肩に移ってもらい、ブランを抱えて駆け出す。これだけ入り組んで視界も悪い場所では、飛翔加速は使いにくい。


 俺はやや湿って滑る岩の通路を足場に、頭上に薄ら確認できた別の出入口へと向かう。

 出会った魔物はもちろん、


「メタ、――武具変形"短剣"」

――疾走


 加速と同時に斬り捨てる。


「うげ、また分岐か……。穴は……あの辺だったよな?んじゃ右で」


 魔物は簡単に対処できるが、問題は目的の出入口が複雑な通路によって視認できないこと。それもただの一本道ではなく、通路が途中で分岐しあちこち別の方向へ伸びている。


 下から見た出入口の位置を頼りに進むしかない。


――疾走


 もうかなり上まで来たと思うのだが、それらしい出入口は未だ見えていない。もしや通り過ぎたのか?


「ぴぃ!!!」

「うおわっ、突然なんだメタ」


 さすがに不安になってきた時、メタの必死な訴えで足を止めた。


 身体から生やす触手で再びとある方向を示す。


「出口が分かるのか?」

「ぴゅぃ」


 自信満々の返事をする。

 出入口の光は見えないが、メタがあると言うのだからあるのだろう。確認出来ないのは別の通路で塞がれているから。


 ならば、直線的に飛ばずやや迂回するように……


――飛翔加速


 速度を落とし、進行方向全てに注意して進む。


「……見えた!」


 空洞の壁に向かって通路が伸びていると仮定して迂回し飛んだところ、ブランの灯りに照らされて壁へと伸びる通路を無事発見。

 その先には外へ繋がっているだろう空間もある。


 通路へと一旦飛び乗り、


――疾走


 その間にいた魔物数体を倒してそのまま飛び出した。


「眩しっ…………」


 出入口は急な下り坂になっていて、数メートル降りた位置から明るい日差しが差し込んでいた。


 通りで内部に光が届かないわけだ。


 そして外に飛び出し目が眩む。

 目元を押え、何とか視力を取り戻した時、目の前には絶景と言える景色が広がっていた。


「おぉ……かなり上まで登ってたみたいだな。もう頂上まで少しだ」


 内部が暗すぎて、どれだけ上まで登っていたのか判断できていなかったようだ。

 もうボスがいるであろう頂上までは目と鼻の先。


「外に出ちまえば、楽勝だ」

――飛翔加速


 経験値な魔物に判断を鈍らされたが、本来なら真下からここまで飛翔加速で上がってくるのが一番早かった。


 ……下の出入口を引き返してスキルで登ってくれば良かったのでは?ってか、絶対賢能さん気がついてたよな!!


『敢えての行動だと判断しました』

「嘘だよね?こいつ馬鹿だなとか思いながら黙ってたよね?!」

『…………』

「黙秘は肯定と同義だぞ!!」


 くっそ。

 ゲーマーの欲望がでしゃばった。


 あーもう、さっさと倒せば全部帳消しだコノヤロー。


 真上へ飛翔し、目の前の崖が終わりを告げる。

 そして視界に映ったのは頂上に広がる平たく円形の場所。中央では大きな水色の鳥が丸くなり眠っていた。


『――鑑定』


【――蒼竜鳥Lv95――】


 頭から上半身、片羽までは大きな鳥。

 しかし、反対の片羽から下半身、尻尾にかけてはまるで大きなドラゴン。足があるかは分からないが、きっと太い足があるだろう。


 時折口元から漏れ出る炎は青く、――そもそも鳥が火を噴くのはおかしいが――、妙な威圧感を放っていた。


「とりあえず、さっさと倒すか」


 しかし、あの時の神ほどの威圧は感じない。

 マキナの改造したドラゴスネークの方がよっぽど圧があった。

 何よりどの過去よりも俺は強くなっている。

 相手は弱点むき出しで睡眠なう。


 つまり――


「――武具変形"大剣"」

――急所突

――クラッグフォール


『第十二層のボスの討伐が確認されました。

第十三層へ転送します――』

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