第三話 首なし騎士の笑い声2ー首を探し求める者
夜の山で、そこは都内からでも交通のある山だった。
気楽に上れる広告で有名な山に、借金取りたちは存在していた。
誰もが楽しめるハイキングコースから少し逸れた道で、借金取り達は首を埋めていく。
ひひひ、と化け物めいた笑い方で借金取り三人は首を埋め終わる。
「昔の人は、悪い行いをしたら打ち首にしていたからな。それにならっただけだ」
「そうそ、金を返さないお前等がわるいんだ、貸してあげたいからたくさんたくさん貸してやった恩義も忘れて返してくれない」
「たった二ヶ月待ってやったのに。ただ、十日で五割はきつかったのかもしれないな。そこは察せられなくてごめんなあ?」
借金取りたちは言葉だけ死者を労ると大笑いしている。
はげと、ひげと、ちびの三人だ。
はげは頭をさすり、辺りを窺う。夜の山は不気味で、鴉が騒いでいる。山は不気味に真っ黒く、木々がゆさりゆさりと囁いている。常人であればそれだけでも夜の山にはいたがらないだろうが、男達は常人ではなく。最早異常者であるため望んで山を住処にしている。
「まさかあの悪魔も思ってもみないだろ、報酬が被れば争うんだろうな。争ってる間におれたちは寿命でおだぶつだ」
「流石兄貴、ずる賢い!」
「まだまだお金で豪遊してないもんなあ」
三人はげらげらと笑っていると、山の涼やかな気配に、視線を感じた。ひげはシャベルを持ち、はげはあたりを睨んだ。ちびは臆病なのか怯えながら銃を構えている。
その日はおぼろ月夜で、空は曇っていた。曇りから灯りがあまりなく、懐中電灯が頼りだった。
月が徐々に明るく晴れていく、晴れていったなと空を見上げた刹那、月明かりに影が被る。
「お通りくださいますよう」
疾風の腕の中から飛び降りた存が糸をクッションに飛び降りると、三人を睨み付ける。
疾風は空から様子を窺う、月明かりを誰よりも浴びているのは疾風だ。
「なんだお前等!」
「安心してくれ、正義の味方じゃなく。依頼されただけだから」
淡々と存は告げると糸を伸ばそうとするも、警戒され走り回られて糸は思うように編めない。
疾風は錫杖を振り上げたが何も起きず、「今日は駄目な日か」と舌打ちすると同時に存と一緒に狙いを定めて人間を捉えようとする。
三人組は抵抗し、そのうちの二人で疾風を相手し、一人で存と対峙する。
存はちびの体術を交わし続ける、疾風ははげとひげの攻撃をいなしては時折威嚇のように大きく錫杖を振り上げた。
倒さなくてもいい、悪魔が気付くまでの時間稼ぎだ。
悪魔が三人の座標を掴むまでの、時間稼ぎ故に二人は攻撃をできなかった。三人の無事を約束した状態で位置を教えなければならないのだ。
攻撃できずに身を守るのは非常に難儀であり。
均衡が変わらないと拳を幾らか交えた頃合いに、疾風の視線がやたらと存に向いていることに気付いた三人組。そこまで意識して守りたがっているのが露骨ならば、三人にとってとる行動は決まった。
均衡は破られる、三人組は存の方へ全員で囲い、存を制する。
存を羽交い締めにして、疾風を脅そうとする。
「このなまっちょろいガキが惜しければ死んでくれ」
「そうそう、おれたちまだまだ生きたいんだ」
「なあに痛くないよう殺してやるから」
三人の言葉に、疾風は存を見やる。存は長い間赤い糸を飛ばしすぎて意識が失いかけている。
存は事前に話していたとおり、まずいと思ったので配下の札を使うこととした。できるだけ使いたくはないが、疾風を気遣わせるのが嫌だったし。疾風の射貫く眼差しが居心地悪い存にとっては、使った方が英断だ。レポート百枚は疾風に考えて貰おうと、くらくらする頭でも強く念じた存。
捕らえられながら、後ろ手に札を破れば札はぼわっと燃えた。
空は晴れていた。
おぼろ月夜が晴れていたのに、再び曇り始める。そこまでなら、ただの朧のままだった。
「
声が大きく響く。
天気は黒雲を呼び、ごろごろと空を唸らせる。三人組の目の前に、大きな雷がどかんと下りる。
焼き焦げた地面には、首のない赤いコートを着た男が立っていた。
赤いコートの男は、首のない姿で、地面に黒剣を刺していて。ゆらりと黒剣を抜けば、ふらふらと方向を定めようと動いている。
赤いコートの男が異様な見目でふらりと動けば、三人組は今まで行ってきた首切りの果ての亡霊だと勘違いする。
大きく叫び、存を放り投げ赤いコートの男に向かって銃を乱射する。
放り投げられた存を疾風は抱え、その間に存は疾風から血を貰う。
「悪さはいけませんよ皆さん! ほらほら落ち着きなさい、深呼吸はしっかりと!」
首無しは何処から声を発しているかは判らないが、大きく余韻の残る大声で告げれば、首無しは雷を持っていた黒剣に集わせる。
黒雲がごろごろと鳴りだし、びかっと大きく真っ赤な稲光が黒剣を目指す。
黒い剣に雷を浴びるとびりびりとした電力や熱を、その雷でもって三人組の「足下」へ文字を画くように切りつけ浴びせる。
地面には電気が流れている、そこへ流しただけだ。アースのような仕組みとして。その隙間に、三人組がいるだけ。
一気に地面が焼き焦げ仄かな煙、赤い衝撃破にそれだけで三人組は身動きできず、畏怖し。へなへなと座り込んだ。
血を貰った存は悪魔に連絡代わりに、赤い糸を男達に繋げると、男達は一瞬で三人とも悪魔が座標を正確に掴み招いて消えていった様子だった。
くらくらする頭で、存は首無しを見つめる。
存には疾風には見えない何かが見ているのか、酷く驚いた様子だった。首がない姿に驚いている風ではない。
「初めまして我が君、オレは貴方に仕えます、首無し騎士のアルテミスと申します」
「……よろ、しく……。存、だ。疾風、あとのことは任せた」
意識が限界を超えたのか存が倒れると、疾風が存を支えた。
存が完全に気絶してると確認すれば、疾風はアルテミスを半目で見つめた。半目で見つめられてもアルテミスは動じた様子もなく、黒剣の電気を逃がそうと地面に突き刺した。
「なるほど、悪魔の言ってた同僚はお前か。遅い登場だな、てめえもあの悪魔と取引したんだろ、欲しいもののために」
「そりゃそうですよ。見れば判るとおもいますが、何が欲しいものかなんて。今は言えないのですが、お目当ての人は絶対この方を狙います」
「ふうん、首無し騎士の首泥棒か。興味ないな」
「お見受けしたところ、君にはこの方が大事と見えますが。それでも関係ないのですか」
「まあ、お前と同じ姿になりゃ確かに困るか」
「そうでしょう。だから、二人でお守りしましょう、我が君を」
首無し騎士(アルテミス)は、主人と従者以外には自分を認識出来ない魔法をかけ、主人にそっと手を当てる。
存はいつも言葉の裏が、本音だと常々言っている。もし信じるとしたら、何処まで本音だろうか。疾風は思案する。
思案を巡らせる疾風を見たアルテミスは、訝しむ理由のなさを訴えようとした。並々ならぬ守る理由があるのだと動作で諫めようとしていた。
「縁があるんでしょう、一目で分かりました。この方と、オレはきっと縁があるんです。ならば尽くしましょう」
「尽くしてくれるならまずは、先に家に帰って風呂の火沸かしててくれ」
「輸血なら病院ではないのですか」
「輸血は僕でもできるが、疲れた後さっぱりしたい。ついでにお酒も頼む、山登りのあとに料理や風呂支度なんて嫌だろ」
主人のための世話を命じるのでもなく、己のために世話を頼む疾風に、アルテミスは笑った気配がした。
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