第6話 名乗ったあの日。

人をいじるのが好きで、Sっ気のある先生だった。


今の言い方も、私をいじっているのだろう。


楽しい、けれど悲しい。こんな矛盾した気持ちを、切ないって表現するのだろうか。


「なんで私だけ、名前覚えたんですか?」


「んー、お前名乗って来たしなぁ。あんだけ騒がしかったからかな」


そんなやり取りで思い出す。最初の授業で名前は覚えられないと情けない宣言をした鳴上先生は、私の名前わかる? と何回か声を掛けてくれれば覚えるかもしれないと言っていた。


 私はただ、面白そうだったので、廊下で鳴上先生に会った時聞いてみたのだ。



『鳴上先生! 私の名前、覚えましたか?』


『んー、えっと……誰だっけ?』


『佐倉です! 覚えてくださいね! 鳴上先生!』


『一年? いや二年かかるかも? でも、ま。卒業までには覚えるかなー』


そんな会話のあとから、私はしょっちゅう先生に話しかけていた。



「一年、かからなかったですね」


「ん? 佐倉、なんか言ったか?」


「なんでもないです」


私は鳴上先生を見て笑った。二年生の四月に出会って、半年かからずに名前を覚えて貰えた。七月とか、夏くらいには覚えて貰えていたはずだ。


 ――嬉しかったなぁ。


 古文のテストは点数があまり良くなくて、時には赤点ギリギリだったりもして。


 出来の良い生徒にはなれなかったけど……。


「そうだ、これ」

    

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る