第10話レラの心

 帰宅は深夜になった。

 僕は、両親も寝静まっているのを確認して、静かに、そう、静かに、家のなかに入り、高鳴る余韻は、冷めやらぬまま、情熱が、吠える、まるでハングリーな、アンジェリーナ。

 佐野元春の歌が心でループしている。

 僕は、そのまま、自室に帰ると、服を着替えて、すぐにシャワーを浴びる。

 そして、レラとのキスを想像して、浴室で、勃起をした。頭から離れない、レラの匂い、ベルガモッドではない、海の体臭をまとった、まるで人魚かなにかみたく、僕は感じて、

 急いで浴室を出て、自室に帰ると、一気に、死の気配を感じつつ詩を書き上げた。

 なぜ、なぜ、死の予感を感じるのか、レラだ。

 レラが僕に死の予感を与えた。まるで、世界平和でも、成し遂げてやりたいような、それ以上に、レラとやりたいような、そんなパラドックスで、パーカーのジョッターを手に取った。でも、僕の熱情は、正体不明。浮きあがる第九の歌。僕は笑う。そして、なぜだか泣いてしまう。

 僕はカラフルな日記帳を開いた。

 最新のページに最新の言葉を乗せるため、僕はあえて、ビートルズを聴く。

 過去は振り返らないから、あえて、「イエスタデイ」。いや、気分はジョン・レノン。

 僕は、きっと、サタンのような顔で、カラフルな日記帳に殴りがく。カップラーメンが、ほぐれて、少し伸びた頃に詩は出来上がった。フィットしている。世界中の人々とフィットしている。そんなユニゾン感覚、あえて言えば、トランス感覚。

 僕はバイロンを想起する。そしてフフッとジェノサイダーが笑う。



「イエスタデイ」


行きつくところ


憧れ。


深い眠りか、そうだ、浅い夢?


天使と、優しい朝の日差しは君に訊く。


「さあ、友よ。君は何を唄う?」


「憧れの歌」

と僕は言う。


ジョン・レノン。


情景あるいは憧憬。


一面に広がる 安らぎの海。


ブラッド。


手を取り合おう。ダンスを踊ろう。


リフレインするポップソングのフレーズに身をゆだねて。


夢見心地で、唄う。笑いが、響く。世界に響き渡る。


風、唄う。潮風、唄う。と風の中の声は僕を促す。夢を見る詩人の憧れのようにね。


「さあ、友よ。君はどう答える?」


「沈黙の歌」

と僕は言う。

 

すると喜びの歌が聞こえる。


ベートーヴェンの第9番「歓喜の歌」。


流転していく、同じフレーズ。聞き慣れたポップソングがポータブルスピーカーから流れている。


そうビートルズ。「イエスタデイ」。


そして第9は、蘇る。


夢の中から、旋律を撫でるように。


手を伸ばせ。光に届くまで、


そこに希望はろうそくの灯のように揺れている。


ポップソングの中で、風は唄っている。想像してみて。恋人の笑顔を、子供の泣いている顔を。


届いてる? いや、まだまだ。


覆うんだ。

 

ベールで覆うんだ。


君の夢を。


ジョン・レノンは囁いている。君の耳元で


世界へ。


ラブ&ピース


世界へ


ラブ&ピース。


イエスタデイ。イエスタデイ……。


でも、今日を生きようよ。


かけがえがないんだからさ。


まばたきしてる間に、この世も終わってしまうから。


笑おうよ


笑おうぜ。


憧れる。憧れる?


僕は君に憧れている。


アイ ラブ ユー。


何度でも言うよ、アイ ラブ ユー。アイ ラブ ユー……。


届いてる?


そしたら、君も叫んで。


「Ⅰ LOVE YOU」。


  

僕は、泣けてくる。


 しかし、夜の世界に包まれている。


 まるで、ジェノサイダーとは修学旅行の夜に話すひそやかなおしゃべりのような気持ちだ。そうレラとキスした瞬間、僕はジェノサイダーの本当の名前に気が付いた。

「ラブ」

 確かにそうだ。

「ねえ、ラブ?」

 と僕は呟く。

 すると、ラブはこう答える。

「何? 美しい余韻が、あなたに詩を書かせているのよ。泣かないでいいんだから。だから、ゆっくり音楽でも聴いてね。そう、選曲は私がするわ」

 僕は頷く。

 そして、AKGの白いヘッドホンを、安物のアンプにつなぎ、僕は聴く。

 スタイリッシュに、気取りながら、クーラーがついている。強にしている。そして、窓を少し開ける。煙草に火を点ける。

 僕は煙に酔いしれながら、ラブの曲を聴く。

 キングス・オブ・レオンの「バンディット」。

 完全にフィットしている。

 そして、僕はペニスに手を伸ばし、レラの顔を思い起こした。

 動画はいらない。それが僕のスタイル。

 一気にオナって、ぐっすりと眠りについた。

 そして、夢の中で、ラブが出てきた。

 夢の中で、ラブは形を持っていた。

 流行のアイドルとセックスしている夢。

 朝が来た、僕は夢精していた。


 そして、僕は、学校へ向かう。

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