閑話2 約束ーsideタイヨウー

 ドライグと出会ってから、俺の周りでいろんな事件が起きた。


 昔からサモンマッチはやってたんだけど、精霊はいなかった。母ちゃんから学年が上がるお祝いだって買ってもらったパックの中にドライグがいたんだ。


 俺が加護持ちになれたって喜んでると、ドライグの奴、俺みたいなチンチクリンがマスターなんて絶対に認めないってめちゃめちゃ不機嫌になって、暴れるわ、マッチで勝手に動くわって苦労したっけなぁ。


 ドライグとの初対面が散々だったから、コイツと上手くやっていけるかって不安だったけど、ハナビのブローチが怒谷に盗まれた時、どうしても取り返したくて、このマッチだけでいいから協力してくれって頼み込んだんだ。そしたら、自分はブリテンの由緒正しい竜だから悪事は見逃せないって、仕方がないから協力してやるって言ってくれたんだよな。まぁ、すぐにマスターと認めた訳ではないぞ!勘違いするな小童!!って怒鳴られたけど。


 そっから、セキオがデッキを取られたから取り返す為に中等部の先輩とマッチしたり、よく学校帰りに行くばっちゃんの駄菓子屋を助ける為にマッチしたり、ハナビの友達のアゲハが変な奴等に絡まれてから助ける為にマッチしたりって、いっぱいマッチをした。そうやってマッチをすればするほど、ドライグとも仲良くなって(ドライグは認めてくんねぇけど)、初めて会った時に感じた不安はすっかりなくなってた。


 そんで、シロガネに声をかけられてマッチして友達になって、ひょんな事からアゲハに絡んでたのと似たような変な奴等がネオ東京で起こす事件と関わるようになって、ヒョウガとはその怪しい奴らとマッチしている時に出会ったんだよな。


 今思えば、その怪しい奴らって精霊狩りワイルドハントだったんだろうな。奴らは俺の獲物だ。関係ない奴が出しゃばるなって怖い顔したヒョウガに言われてたじろいちまったけど、辛そうにマッチをするヒョウガを見て、なんとも言えない気持ちになった。思い詰めたようなヒョウガの顔に、俺も苦しくなってつい声をかけたんだけど、ヒョウガには余計なお世話だと冷たく言い返されて、まともに話せなかった。


 ヒョウガが去った後も辛そうにマッチをしてるヒョウガの姿が頭から離れなくて、すっげぇもやもやした。一日経ってももやもやは無くならなくて、ハナビに心配されながらも悩んでると、つまらなそうな顔でマッチをしているサチコを見かけたんだ。なんだか、楽しくなさそうにマッチをする姿がヒョウガと重なって、気づいたらマッチしようぜって声をかけてた。


 サチコは無表情で分かりにくかったけど、多分、ちょっと嫌そうだった。けど、嫌々ながらもOKしてくれて、放課後にマッチしようってなったんだ。


 サチコとマッチする直前になって、余計なお世話だったかなって不安な気持ちが湧いたけど、マッチが始まったらそんな不安なんてどっか行っちまってた。サチコはすっげぇ強かった。サチコとのマッチはすっげぇ楽しくて、ワクワクして、最後にはサチコも楽しかったって笑ってくれて、やっぱりマッチていいなって思った。そして、閃いたんだ。ヒョウガともマッチをすれば分かり合えるんじゃないかって、そんで、ヒョウガが辛そうにマッチをする理由が、俺にも分かるんじゃないかって思ったんだ。


 ネオ東京を走り回って、やっとの思いでヒョウガを見つけて、思い切ってマッチを申し込んだ。最初は断られたけど、ドライグとシロガネの助けがあってヒョウガとマッチする事ができた。


 マッチ中、ヒョウガはずっとピリピリしてた。けど、不安なんてなかった。だって、ヒョウガとのマッチが楽しかったから。マッチを通じてヒョウガがどんな奴かって分かったから、絶対に大丈夫だって思えたんだ。


 ヒョウガのカウンター攻撃は容赦なくて、負けそうな場面が何度もあった。けど、なんとか勝つことが出来た。ヒョウガは悔しそうにしてたけど、どこかスッキリしていて、初めて見た時のような辛そうな顔はしていなかった。そんなヒョウガの姿にマッチをして良かったって思ってると、ヒョウガから貴様、名は?って聞かれた。俺が晴後タイヨウって答えると、ヒョウガも氷川ヒョウガって名前を教えてくれて、少しだけ仲良くなれた気がした。


 それから、ヒョウガと会っても、冷たく突き放される事はなかった。時には一緒に戦って、友達になれたんじゃないかって俺は思ってる。


 SSCに出るきっかけは、セキオから勧められたってのもあるけど、ヒョウガの助けになりたかったのが1番の理由だった。


 ヒョウガの奴、SSCに出たかったみたいだけど、チームメンバーがいなくて困ってたみたいだったから、俺から声をかけたんだ。ヒョウガは願ってもない申し出だって快く頷いてくれた。


 俺とシロガネとヒョウガならSSCの優勝だってできるって思った。ただ、チームメンバーは最低4人だったからあと1人どうするかって話になって、ハナビが補欠としてなら出ようか?って言ってくれたけど、ヒョウガが戦えない奴はいらないって断ったんだ。俺はその言い方にムッとしたけど、すぐにハナビに聞こえないように小声であの怪しい奴らが関わってる可能性があるから自分の身を守れる程度の力がないと危険だって言われて、何も言い返せなかった。俺もハナビを危険な目に合わせたくなかったし、ヒョウガの意見にそうだなって頷いた。そんで、じゃあどうしようかってなった時に、ふと、サチコのことを思い出したんだ。


 サチコは強いし、最近は中等部の強い先輩とマッチの特訓をしてるって噂を聞いてたから、サチコなら大丈夫なんじゃないかって思ったんだ。


 シロガネとヒョウガは不満そうだったけど、俺が押し切った。ハナビもサチコちゃんなら安心だねって納得してくれて、その日は用事があるみたいで話せなかったから、次の日の朝に、学校に来たサチコにお願いしたんだ。SSCに出てくれって。


 サチコは最初は嫌そうだったけど、最後は頷いてくれて無事にSSCに参加することができた。


 SSCの予選じゃあ俺が遅刻してチームのみんなに迷惑かけたけど、ヒョウガとサチコの2人が勝ち上がってくれた。オクルの精霊が精霊狩りワイルドハントに盗られて、取り返す為にシロガネとヒョウガと五金先輩が一緒に精霊狩りワイルドハントのアジトに乗り込んでくれた。サチコは俺たちが帰ってくるまでSSC本戦を持ち堪えてくれた。レベルアップって言うサモンマッチの新たな力を知ったり、マナ使いっていうカードの力を実現する力があるって知ったり、とんでもないアクシデントがいっぱいあった。でも、みんなで力を合わせて乗り越えることができたんだ。


 サチコとヒョウガも仲良くなってくれたみたいだし、サチコをメンバーにして良かったって思った。……シロガネは相変わらず苦手そうだったけど、時間がいつか解決してくれるだろうって思ってた。あの時の俺は、そんなふわっとした思いで無理に2人の関係を良くしようとは思わなかったんだ。でも、もっと俺が2人の仲を気にかけてたら、シロガネの様子をもっとちゃんと見てたら、あんな事は起こらなかったんじゃないかって、物凄く後悔してる。もっとああしてればって考えがぐるぐると頭の中を駆け巡って、心の中がぐちゃぐちゃになった。


 マナ使いや精霊狩りワイルドハントにレベルアップ。いろんな事が合わさってSSSC前にケイ先生から訓練を受ける事になったんだけど、ぜんぜん上手くいかなくてめちゃくちゃ落ち込んだ。でも、ハナビが毎日電話してくれて、タイヨウくんなら大丈夫。絶対できるよって励ましてくれたから。俺は頑張れたんだ。


 だから俺は、訓練でシロガネが思い詰めてる姿を見て、俺もハナビみたいに励ますことができたらって思ってたんだけど。ぜんぜんダメで、逆に追い詰めちまった。


 何でかは分かんねぇけど、シロガネがサチコに強く当たってるのは知ってた。気に入らないって思いが全身から溢れてて、いっつもサチコに小言を言ってた。


 でも、ヒョウガと五金先輩も合う度にケンカしてたし、サチコはシロガネの小言を気にしてないようだから、何とかなるだろうって軽い気持ちでいたんだ。


 サチコからのマナの循環を嫌がって、サチコと絶対に合わないように避けるまで、そんな大した問題じゃないって思ってたんだ。


 だから、シロガネがレベルアップ出来なかったのは俺のせいだ。


 シロガネがSSCの時から様子がおかしかったのは分かってたのに……詳しい理由は分かんねぇけど、精霊狩りワイルドハントや五金先輩の事で浮かない顔をしてた事は何となく分かってた。もしかしたら、サチコに対して八つ当たりするような態度を取ってたのも、それが原因じゃないかって今なら思う。


 飛び出したシロガネをサチコが追いかけて行ったけど、俺は一緒に追いかける事が出来なかった。


 俺がもっとシロガネの事を気にかけてたらこんなことにならなかったんじゃないかって……そう思ったら追いかける事が出来なかったんだ。


 でも、きっと、サチコならシロガネとマナを循環させて戻ってくれる。だから、せめて次は間違えないように、シロガネの気持ちが少しでも分かるようにって、シロガネの父ちゃんにお願いしたんだ。俺もシロガネと同じ様にアイギスに入れてくれって。


 シロガネと同じ立場になって、シロガネともっと仲良くなれたら、シロガネの気持ちが分かるようになるんじゃないかって、そうすれば、アイツが俺を支えてくれた分、今度こそ俺もシロガネを支えることが出来るんじゃないかって、そう思ったから。


 シロガネの父ちゃんからは未熟な者にアイギスは勤まらないって断られたけど、今回のSSSCで良い結果が残せたら検討してやろうって言ってくれたから、俺は絶対に優勝してアイギスに入るんだって強く思った。


 ヒョウガと五金先輩が、シロガネの父ちゃんとダビデル島の事について話してるのを聞きながら、二人の帰りを待った。でも、途中で精霊狩りワイルドハントに襲われて、俺なりに頑張ったんだけど、シロガネは帰って来なかった。サチコも辛そうに自分を責めてて……あぁ、俺はまた間違えたんだなって、そう思った。



 母ちゃんには精霊狩りワイルドハントの事も、マナ使いの事も言ってない。ただ、大きい大会に出るって事しか伝えてないから、大会前に落ち込んでる俺を見たら変に思われると思って帰れなかった。


 サチコと一緒にシロガネを追いかけてれば良かった。そうすれば、シロガネが拐われなかったかもしれない。


 あの時あぁしてればって考えが頭の中でぐるぐる回って、土手に座りながらどうすれば良かったんだろうって悩んでいると、後ろからハナビの声が聞こえた。


 慌てて振り替えると、ハナビが後ろに立っていた。俺はいつも通りに笑ったつもりだったんだけど、ハナビには嘘の笑いがバレてて心配されてしまった。


 俺の隣に座ったハナビから何があったの?って聞かれたけど、何も言えなかった。


 マナ使いの事は秘密にしなきゃいけないし、精霊狩りワイルドハントの事も、ハナビを巻き込みたくなかったから何も話せなかった。


 ハナビが私じゃ頼りないかな?って、悲しそうな顔したから、俺は慌てて違う!そうじゃなくて、何て言ったらいいか分かんねぇけど……ただ、上手くいかない事があってって、どんどん声が小さくなりながらも話そうとすると、ハナビはそっと、俺の右手に重ねるように左手を置いて「タイヨウくんなら大丈夫」って笑ったんだ。


「何があったのかは知らないけど、タイヨウくんなら大丈夫。いつもみたいに諦めない気持ちがあれば、最後は絶対に上手くいく。だって、諦めない限り、可能性は0じゃないでしょ?そうやって、今までどんなピンチも乗り越えてきたじゃない。私はそんなタイヨウくんを信じてるよ」って、言ってくれたんだ。


 俺はハナビの言葉がストンと落ちてきて、あんなに重かった心が、フッと軽くなった。


 やっぱハナビはすげぇな。ハナビの言葉を聞いてると、何でも出来るって気持ちが湧いてくる。どんなピンチでも、ハナビがいたから俺は最後まで諦めずにいれたんだ。そして、最後の最後まで立ち向かったからこそ、どんな困難も乗り越えてこれた事を思い出した。


 ウジウジ悩んでいた自分はらしくなかった。こんなことしててもシロガネが拐われた事は変わらない。それなら、こんな風に悩むよりも、シロガネを助ける事を考えようって前向きになれた。俺は、気合いを入れるように両手で自分のほっぺたを強く叩いた。そして、ハナビの方を向いてありがとなって、今度こそ心から笑えたんだ。


 ハナビのおかげでいつもの調子を取り戻した俺は、さっそくSSSCに向けたデッキを見直そうと家に帰った。


 絶対にシロガネを取り戻してSSSCを優勝するんだって張り切り過ぎて、寝坊しかけたけど、ハナビが直接起こしに来てくれて何とか間に合った。本当に、ハナビには何度ありがとうって言っても足りないな。


 SSSCで砂漠エリアに飛ばされた俺は、朝にハナビから渡されたミサンガを見ながら、ハナビとの約束を心の中で呟く。


「無理はしても無茶はしないで。どんなことがあっても絶対に戻ってきて。そして、皆で花火をしよう」


 そう、ミサンガを渡しながら泣きそうだったハナビの顔を思い浮かべながら、絶対にその約束を守ろうと、砂漠エリアでの第一歩を踏み出した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る