ph9 白髪の少年に絡まれる
昇降口の出入り口で声を掛けてきた白髪金メッシュの少年は、優美な動作で私の手を取り微笑んだ。随分と様になってんな。こいつ手慣れてやがる。
「時間は取らないからさ、少しだけ君と話がしたいんだ」
「すみません。予定あるんで」
私は取られた手を迷わず振り払った。すると、少年にとって思いがけない行動だったのか、彼は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔で固まる。しかし、それは一瞬の事で直ぐに胡散臭い笑顔に戻った。
「じゃあ失礼しまーー」
「五金クロガネと会うんでしょう?」
少年は笑みを深くした。
「彼について知りたくないかい?」
少年はクロガネ先輩の事を出せば私が反応すると確信していたのだろう。曲げた人差し指を顎に当て、焦る様子もなく壁に寄りかかっている。少年が動く気配はない。
私はーーーー
迷わずダッシュで逃げ出した。
いや、あんなん逃げるだろ。クロガネ先輩の名前が出てくるとか絶対に財閥関係に決まっている。関わったら最後ろくなことがなさそうだ。私は先輩のマッチ相手で手一杯なのだ。これ以上の面倒事を背負い込むつもりはない。一生そこで不適な笑みでも浮かべてろ。
「ミカエル!!」
私が走り出してから数秒後、少年が自身の精霊名を呼ぶ声が聞こえた。
やっぱりね!精霊持ってるよね!!しかもミカエルとかメチャクチャ強い戦闘系の天使じゃないか!
「っ、影法師!!」
「任せてマスター!!」
私も咄嗟に自身の精霊を呼び対抗する。影法師は私の影から周囲の物陰を利用してミカエルの影に入り込み動きを封じた。
「僕の守護天使にそんな小細工は通用しないよ。ミカエル」
「はい、我が主」
少年の命令に答えるようにミカエルは左手に持っている秤を光らせた。
失敗した!影法師にとって光は弱点だ!自分が誤った判断をしたことに舌打ちし、私は急いで戻るように指示するが間に合わない。
「審判の光だ」
「影法師!!」
ミカエルの秤から光が放たれ、影法師が痛みで呻き声を上げた。私は全速力で影法師に駆け寄ると、光から守るように覆い被さった。
「話を聞く気になったかな?」
顔を上げると、ミカエルの剣が私の喉元に突きつけられた。熱くもないのに汗が頬を伝い、地面にポタリと落ちる。
サモンマッチというカードゲームは、召喚士が契約した召喚獣を戦わせるというコンセプトで作られたゲームであるが、あくまでもゲームであって本物のバトルをするわけではない。なのに何故こんなリアルファイト紛いの事をせねばならんのだ!
今の状況に心の中で恨み辛みを言い、歯を食い縛りながら少年を睨み付けた。
「……すみません。知らない人と話すなと親に躾られてるものでね」
「僕の名前は五金シロガネ。家庭の事情であまり学園に登校できてないけど君と同じクラスメイトだよ。これで知らない人じゃないね」
五金シロガネと名乗った少年はニコニコと笑っている。
五金シロガネってクロガネ先輩の弟かよ!!最悪だ。最悪な奴に捕まってしまった。これはお家関係のゴタゴタに巻き込まれる匂いがプンプンするぞ。というか、あまり登校してないと言っているが、一度も見かけたことないぞ。どうゆう事だよ。そのまま登校日数足りずに留年して学年が変われば良いのに。小学生に留年はないから無理か。畜生め。
くだらない自問自答をしつつ、この状況をどうやって打破しようかと思考を巡らせていると、太陽の光を遮るような黒い影が現れ、その影はすぐ側に降り立つと私の体を引っ張り上げた。
「ブラック!!」
「はいよ!」
黒い影の正体はクロガネ先輩とブラックドッグだった。先輩は私を抱えたままブラックドッグから飛び降り、ミカエルから距離を取った。そして、ミカエルと対峙するようにブラックドッグが入り込み、唸り声を上げて威嚇している。
「やぁ、
「てめぇ…サチコに何してやがった…」
クロガネ先輩はシロガネくんを恐ろしい形相で睨みつけている。しかし、シロガネくんは全く動じず微笑みを絶やさない。
「事と次第によっちゃぁタダじゃおかねぇぞ…」
「やだなぁ、そんなに怒らないで下さいよ。ちょっと自己紹介をしてただけですよ。ね?サチコさん」
随分と暴力的な自己紹介だったけどなと悪態をつきたくなるのを我慢し、じっと様子を見守る。
クロガネ先輩は私をゆっくりと地面に下ろすと、シロガネくんの視界に入らないように背中で庇ってくれた。
「僕は彼女に用があるんです。退いてくれませんか?」
「先約は俺だ。失せろ」
「実の弟になんて言い草だ。傷つくなぁ」
「ハッ…兄弟なんざ思ってもねぇ癖に白々しい」
「あれ?バレてた?」
一触即発の空気が流れている。物凄く居心地が悪い。
「別にそんなに警戒しなくても危害を加えるつもりはありませんよ。少しお話しがしたいだけです」
おい、さっき思い切り危害を加えてただろ。どの口が言う?
「信用ならねぇな…どうしても話してぇなら今話せ」
「良いんですか?
「何を言うつもりだ」
「それは
「……っ」
クロガネ先輩が黙り込む。どうやらクロガネ先輩にとってあまり宜しくない話があるようだが、2人にしか分からないテンポで会話を続けているせいで内容が掴めない。とりあえず空気を読んでシリアス顔をしている。
「サチコさんが何故
「やめろ!!」
クロガネ先輩はシロガネくんの言葉を遮るように怒鳴った。そして、小さな声でもう一度やめろと言う。
「先輩?」
話しかけても反応はない。心配になり表情を伺うが、顔に影がかかり確認できなかった。
「サチコさん。タイヨウくんは貴方を気に入ってる。だからその落ちこぼれと関わるのはやめてくれないか?タイヨウくんの周りでソレにうろつかれちゃ困るんだ」
シロガネくんは作り笑いを消し、心酔した表情で両腕を広げた。
「タイヨウくんはね、素晴らしい人なんだ。彼は神が使わした聖人。僕の
シロガネくんの瞳孔は完全に開き、相当怒っているようだった……。
こいつアレだ……。
おホモだち枠だあぁああぁぁ!!しかも病んでるタイプ!!これはまずいぞ。この手のタイプは主人公に対する友情が重すぎて主人公のためと言いつつ暴走して闇落ちした後、最終的にストーリーを引っ掻き回して周囲に迷惑をかけるタイプだ!!いや、個人の趣味趣向について特に偏見はないのだが、こちらが被害を被るなら話しは別だ。世のキッズアニメは何故このようなキャラを産み出してしまったのか、全く持って迷惑極まりない!せめてもうちょっと大人しくごめんなさいで許される程度の暴走に納めてくれればいいのに!!こいつのせいで世界が危機に陥ったりしないよな?いや、カードアニメならセーフか?流石にカードバトルで世界が滅ぶ何てことはないか。……いや、ないよな?何故こんなに不安になるのだろうか。
このまま話が続いたらまずいと思い、彼の演説に無理やり入る事にした。
「ソレがいると周囲に不幸を呼び込む!タイヨウくんが危険に…」
「あの、それ長くなります?だったらトイレ休憩欲しいんですけど」
「……は?」
私の緊張感のない台詞に五金兄弟の重苦しい空気が散財した。ブラックドッグは吹き出しそうになり、ミカエルは鎧で顔が分からないはずなのに、心なしかポカンと口を空けているように見えた。
「……君、僕の話を聞いていたの?」
「聞いてましたよ。要はお兄ちゃん嫌いだから僕のタイヨウくんに関わらないでと言うことでしょう?はいはい、分かりましたよ。先輩と会うときはタイヨウくんのいない場所にしますからそれでいいですよね?はい、解散」
私がパンパンと手を叩くと、シロガネくんは苦虫を噛み潰したような表情で私を見る。
「全く伝わってないようだね。愚兄は一緒にいる人を不幸にする力があるんだよ。実際、過去にその力で人を傷つけている。」
「っ!」
クロガネ先輩の顔が曇る。何が原因かは知らないが、人を傷付けたという事に心当たりがあるようだ。
「ソレは疫病神なんだ。せめてサモンマッチの腕があれば使い道はあったのに、才能に恵まれなかったみたいでね。ソレと関わると貴女の品位が下がりますよ」
「いや、私が誰と関わろうと貴方に関係ないですよね?」
私はバッサリとシロガネくんの意見を切り捨てる。
「初対面の貴方にそこまで言われる筋合いはありません」
「私は貴女の為を思って」
「ソレがそもそも迷惑なんですよ。クロガネ先輩と関わって私の品位が下がったとして貴方に関係ないでしょう?私自身の事です。誰と仲良くするかは私が決めます。余計な口挟まないで下さい」
「……後悔しますよ」
「したとしても私の選択です。問題ありません」
「……そうですか」
シロガネくんは此方に背中を向けながらミカエルと精霊の名を呼ぶ。するとミカエルは一礼して姿を消した。どうやらカードの中に戻ったようだ。
「貴方とは分かり合えないようだ…せいぜい僕とタイヨウくんの足は引っ張らないで下さいね」
シロガネくんは最後にそう言い残すと、パチンと指を鳴らし風と共に姿を消した。
いや、ちょっと待て。あいつ今何やった?イリュージョン?人間ってそんな簡単に姿を消せたっけ?というか足を引っ張るなって何の話?
シリアスな空気だと分かっていてもツッコまざるおえなかった。当然のように人間止めるのを止めてくれ。え?これ私が間違っているのか?人が姿を消すのは普通なのか?ちょっと情報量が多すぎて飲み込めない。
状況についていけず、頭を悩ませているとクロガネ先輩が此方を振り向いた。
「サチコ…悪ぃ」
先輩は罰が悪そうに目線を下げる。
「俺のせいでこんな目に合わせて…それに、黙ってて悪かった。俺と一緒にいりゅっ」
このままだと先輩のネガティブモードが始まりそうだったので、頬をつまんで止めた。
「おまっ…何ひゅん」
「先輩、この間から謝ってばっかですよ」
きっと今は何を言っても彼は自分を攻めるだろう。だから余計なことを考えさせないよう、先輩の頬を掴んでる手を縦縦横横と動かして気をそらせる。先輩はいてぇと言っているがそんなのは知らん。
「マッチするんでしょう?勝ち越しは許しませんよ」
私が空いている方の手でデッキケースをヒラヒラと揺らすと、先輩の強張った顔が徐々に緩んでいく。
「…さっきの話、聞かねぇのか?」
「あぁ、先輩と関わると不幸になるってやつですか?正直どうでもいいです。そんなことより、ブラックドッグをボコボコにしなきゃいけないんでマッチしましょう。今回のデッキは先輩を完封する自信あるので」
ブラックドッグは何で!?という顔をしているが、うるさい自分の胸に聞け。
「……何度やっても俺が勝つに決まってんだろ」
「あれ?でも前々回は私が勝ちませんでしたっけ?」
私が挑発的に言うと、先輩はフッと口角を上げた。
「ハッ、ほざけ…もう二度と抜かせねぇよ…… 」
先輩は何か言っているようだが最後の部分が聞き取れなかった。
「先輩?今何か言いました?」
先輩は私の頭をグシャグシャに撫でると、ブラックドッグに乗り、ニッと歯を見せながら私に手を差し伸べた。
「絶対ぇ負けねぇつったわ」
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