第24話

前日の取り決め通りの隊列で、大所帯の一行は領都を出発した。

御者台のボイズを乗せた馬車が、ハインケルを並走させて街道を走る。

その後に両脇を騎士に挟まれたハーグルストン家を乗せた馬車が、遅れずについてくる。御者台には、甥っ子メイマルが座っていた。

ボイズは、ちらりと覗き見る限りでは中々に色々出来る器用貧乏系のやつだとこっそり思っている。

その後を、ドルイドの従者が操る馬車がぴったりとついてくる。

朝一番で領主よりも先にちゃっかり馬車に乗っていたシュレインに対しての怒りが見え隠れしていて、ちょっと引いてしまうほど鬼気迫る顔をしている。

嫌らしいくらいにぴったりとくっついてるなと、八つ当たり的に理不尽な重圧を向けられているメイマルが可哀想で苦笑いのボイズだ。

最後尾のルーシリアとハンセンは、気負うでもなく慢心するでもなくいつも通りについてきていた。

金が絡めばいい仕事をする奴らだから大丈夫だろうと、視線を前方に集中した。

前にも言ったことのある大森林の手前の町までは、何事もなければ駆け足で3日。

今回はそうはいかないだろうなと予想していた通り、魔物の襲撃よりもカイヴァンの寄り道が一番時間を喰っている。

「カイヴァン殿、そろそろ出発しないと陽が落ちてしまうんだが」

「あと、あそこに生えている花だけ!取らせてくれ」

「伯父さん…」

盛大なため息が漏れる甥っ子を弾き飛ばして、このあたりの植生の研究用にと花を摘みまくるオッサンの姿に、うすら寒い視線が集中することが多々。

この3日で進めたのは、行程の半分にも満たない距離だった。

結果、予定より2日の遅れで、最初の目的地である町まで到着した。

「とりあえず、ここで一旦物資の補給と装備の確認を行って、体を休めてくれ。一日時間を取る。滅多にしない長旅でお疲れでしょう?こちらで補給やらはしますから、明日はお休みください。明後日には出発しますが」

「私は休みなど必要は無いんだがね…」

「伯父さん…カイヤが可哀想です。伯父さんの為に、ついてきてくれたんですから。女性なんだし。我慢してください。遺跡は逃げません」

「わかったわかった」

「申し訳ありません、旦那様。年は取りたくないものですね」

カイヴァンの被害者になりかけている侍女に気を使って、エリカがドルイドに提案したことだったが、正解だったようだ。

カイヴァンが摘んだ花たちを持って宿の部屋にさっさと引っ込むと、苦笑いとため息が交差する何とも言われぬ空気が場を支配していた。


翌日は、物資の補給と騎士2人とハーグルストン家3人・シュレインの野営具の新調を行い、食料品等の補給に走り回ることになった。

今までは最低限の支度で何とかしてきたが、カイヴァンのあの調子では遺跡の調査に何日かかるかわからないために野営具をまともなものに変えたのだ。

他にも設置が簡単な天幕をいくつか購入して、拠点として成り立つように考えた。

冒険者では当たり前の荷物を、他の人は持っていないことに今更ながらに気付いた感じだ。

「すんませんね、俺の分まで。領主様」

「そう思うなら、金を返せ」

「仕事で返しますって。ここまでくりゃ、もうすぐなんですから。ちゃんと目印も付けてきてますし、天幕と野営具分以上の価値ですって」

「まったく…」

「シュレインさん、どれくらいの距離にあるんですか?」

「ん?森に入ってからの事かい?エリカ」

「はい」

「そうだな。俺が見回りながら3日ってとこだったから、一直線で目指せば2日目には見えると思うぜ。ちゃんと、案内するから安心してくれよ」

「わかりました」

「そうだ。ボイズの旦那、ちょっといいかい?」

「何だよ…」

何故かエリカをちらっと見て胡散臭い笑顔を向けてから、ボイズを連れていくシュレインだった。


補給などをしっかりと行い翌日出発した一行は、何の異変もなく大森林の浅い部分を進んだ。

ほんの少し曲がりながら広がる森の外周に沿って東へ移動し、2日目には奥へと進む。

さすがに、森の中で魔物に遭遇しないなんてことは無く、何度か襲撃に対処している兄弟騎士と冒険者たちは警戒を強めている。

因みに、魔物との戦闘中も馬車からじーっと観察してくるカイヴァンの視線が怖かったと後のエリカは語っている。

魔核は漏れなくカイヴァンが観察しまくり、気になったものは買い取るとドルイドに予約を入れていた。


「あったぜ!あれだ。ほらな?ちゃんとあっただろ?」

「おぉ!!!正しく遺跡!あれはっ…八望星…か?」

見つけるなりどや顔のシュレインを押しのけて、カイヴァンは遺跡に向かって全力疾走した。

「カイヴァン殿!危険です!」

「伯父さん!!」

「旦那様!」

すんごく小規模な阿鼻叫喚の図だなと、エリカが冷めた目を向けてしまったのは仕方がないことかもしれない。

騎士2人が研究員2人の護衛のために駆けていったので、冒険者たちは当たりの安全確保を行い、領主たちは安全確保されたあとに拠点となる様に荷物を下ろしていた。

シュレインはエリカの後ろを手下か魚の糞の様について回り、エリカに手伝いをしていた。

「ボイズ、あいつ、ほっといていいの?」

「ん?シュレインか?まぁ、エリカを害そうと言う気が全くないのは分かったからな。度を越さない限りは、大目に見てやる。今だけな」

「ふ~ん?」

「なんだよ、ルー。妹が変な男に付きまとわれて心配か?」

「そりゃ、ねぇ。私のエリカなのに」

「俺の!娘だ」

2人のやり取りを見ていたキャッシュ君が呆れた声で一鳴きすると、ハンセンが宥める様にキャッシュ君を撫でながら苦笑いしていた。


「やっと帰ってきましたね」

ハインケルの声に全員が目線を向けると、カイヴァンが何やら大きな石を抱えて帰ってきた。騎士2人は、なんとなく気力が削がれたような疲れを纏っている気がした。

「おかえりなさい。カイヴァンさん。それは何ですか?」

「戻りました、エリカさん。これは…ふふふ…遺跡を守る様に魔法が駆けられた守護者でした」

「守護者?」

「えぇ。あの遺跡は、守るべき何かがあるようですね。楽しみです。この二人では、守護者の体の一部を割るのが精一杯でね。飛んできたこの守護者のかけらだけ持ち帰ってきたんです」

後ろの騎士2人の顔には、さっきよりも更に濃い疲れが浮かんでいた。

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