短編小説集
943
【テーマ】昼、告白、消えた記憶
「俺、実は隣のクラスの佐々木と付き合ってんだよね」
睡魔との四連戦を終えた俺たちの疲れを癒す、至福の弁当タイム。
そんな神聖な空間で田中は何てことはないように爆弾発言を放り投げた。
「はあああああ!?」
俺は田中の突然の告白に食べようとしていた唐揚げを落としてしまう。
佐々木と言えば、学年一の美少女と名高い、高嶺の花的存在だ。そんな彼女とどうやったら付き合うなんて奇跡が起こるのか。
想定通りの俺の反応にニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべる田中。むかついた、心底むかついた。しかし、それ以上に二人の馴れ初めが気になって仕方なかった。
田中を見るとどうやら自分から言う気はないようだが、聞いてくれと言わんばかりの態度だった。
しょうがない。ここは友人として惚気話を聞いてやろう。あと、俺の中の内なる男子高校生の好奇心もたぶんに含まれる。
「なんでお前なんかが佐々木と付き合えるんだよ」
「やっぱ気になる?だよなぁ。だって路傍の石ころみたいな俺があの佐々木と付き合えるなんてな。夢じゃないよな、これ?人生何があるかわかんねーな!」
がっはっはっは、と幸せそうに笑う田中。いいからさっさと話を進めてくれ。
「はいはい、そう睨むなって。えーっと、佐々木と出会ったのは確か……」
その後、昼休み全てを使った田中の語りは、要約すると典型的な、それはもう聞いていて胸やけを起こしそうなほどのラブストーリーだった。
二人の思い出を一つ一つそっと抱きしめるように語る田中の顔は恍惚としていて、恋はここまで人を狂わせるのか、と戦々恐々とした。
そんなことがあった翌日。朝からある一つのスキャンダルで学校は騒がしかった。
なんと学年一の美少女、佐々木が五股していたらしい。その中には教師まで入っていた。他にも佐々木は、遊びと称してクラスで目立たない男子に声をかけ、飽きたら捨てるなど、純真な男の恋心を弄んでいたらしい。
「いやー、あの清廉潔白を体現したみたいな佐々木が、裏じゃあんなことやこんなことしてたなんてな」
俺の前に座る田中は怖い怖い、と腕を組む。
「お、おい。大丈夫か?」
「何が?」
こちらを向いた田中の瞳はどこまでも続く闇のように黒く、昨日とは違った意味で背筋が震えた。
人間はなんて便利な生き物なんだ、と場違いにも感心したのだった。
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