18話 ババ抜きで今度こそ! その一
「それじゃあ均等に配るぞ」
ヒロトは器用にトランプをシャッフルし、順に分けていった。ティアナは自分のカードを一通り眺めて言った。
「この中から、同じ数字のカードの組を除いていけばよいのですね」
「そうそう。それで残ったカードが初期状態の手札になる」
答えながら、ヒロトもカードを抜いていく。ヒロトの手に残ったカードは四枚。セシリーとティアナはヒロトよりかなり多い。十枚くらいだろうか。ババ抜きは記憶力よりも運、或いは心理が大事だ。セシリーたちはそれを知らない。‥‥‥これはいける。
ヒロトは勝利を確信した。
セシリーは手札を見ながら考えた。彼女の手札には、ジョーカーがある。その上、手札の枚数は多い。そして即座に悟った。これは、主からの試練であると! であれば、何としても応えなければならない。結果によってはより高度な指導を受けることができるかもしれない。
セシリーは俄然、やる気になった。
ティアナのカードはヒロトとセシリーの間を取ったような枚数だ。ティアナはヒロトの言葉を思い返していた。神経衰弱の際にヒロトは言った。どうすれば勝てるか考えろ、と。そして楽しむためのそれだとも言っていた。ならば自分の役目は、この場を盛り上げることだろう。このルールでの肝はジョーカーだ。これを上手く移動させ、ヒロトを楽しませよう。
ティアナは決意した。
そしてゲームスタート。最初はティアナの番だ。ティアナはセシリーの手札から一枚を選らばなければならない。
「さて、どうしましょうか」
ティアナはセシリーの目を窺いながらそう言った。セシリーは一切狼狽えずに答える。
「悩むのならば、一番右のカードはいかがですか?」
無論、お互いに相手のカードが見えない状況でカードを勧めることなどできない。セシリーのそれは、ジョーカーを動かすための誘導である。
一方、ティアナはセシリーの言葉にはどのような意図があるのか思案していた。
セシリーがカードを勧めるのにはどのようなメリットがあるのか? ジョーカーを持っているならば、敗北条件であるそれを手札から外したいのは当然である。
そうでなければ、ジョーカーの他に外したいカードがあるのか、相手を錯乱させるための虚構か。ヒロトの説明を鑑みる限りでは、ジョーカー以外のマークを無視した十三通りのカードに価値の優劣はない。前者である可能性は低いだろう。
ティアナにとって勝利は目的でない。彼女の目的は戦況を鑑みて盛り上げること。そのために、そのカードがジョーカーか否かという情報だけが判断材料であり、ジョーカー以外のカードである場合、ティアナに利害はない。
なのでティアナはセシリーが勧めるカードをジョーカーと仮定した。次に考えるのは、今ジョーカーを動かすべきかということ。敗北条件は手札にジョーカーのみが残ることなので、序盤で動かしたところでヒロトに焦燥感を与えることはできないだろう。
「では、こちらに致しましょう」
ティアナはセシリーの勧めとは反対に、左端のカードを取った。
その行動にヒロトは感心した。言われたことをこなすばかりの
セシリーは露骨に目つきを悪くした。それにヒロトは気づいた。珍しく、やけに感情を表に出している。もしかして、実はセシリーって感情的なのでは? とヒロトは思った。それはさておき、ティアナの行動に不満があるということは、何か別に望む結果がある訳で‥‥‥つまるところやる気満々なのだ。ヒロトはそれにも感心した。
「おや、数字が揃いました。私の手札は二枚減りますね」
ティアナは「3」のカードを二枚、手札から捨てた。
「おぉ、早いな。いいぞいいぞ」
ヒロトは口ではそう言っているが、別に危機感は感じていない。まだカードの枚数には差があるからだ。あくまで上から目線である。なお、先ほどボロ負けしたことは覚えていない。
「それではヒロト様、どうぞお選びください」
ティアナは笑顔で手札のカードをヒロトへ向けた。
いつもならその笑顔が怖いが、今回は別だ。状況は自分が圧倒的有利。ヒロトは然して考えずにティアナのカードを一枚取った。
「同じ数字は‥‥‥ないか。初手で揃ってしまっては面白くないからな。フフフ」
三度めになるが、彼は負けたことを覚えていない。
ヒロトは手札をシャッフルすると、それをセシリーに向けた。そしてセシリーの表情を窺った。するとセシリーと目が合った。その時に彼が感じたのは――――殺意だった。
何故!? ヒロトは思わず視線を手札に戻した。セシリーはティアナがジョーカーを引かなかっただけでなく、さらに手札を減らしたことに苛立っていたのだ。
お、面白くなってきたな‥‥‥。ヒロトはそれでも強気だった。
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