異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます

ラハズ みゝ

第0章 人間だけど魔王軍幹部!

1話 人間なのに魔王軍

「あぁ、平和だな‥‥‥」


「それはあなたの頭の中だけです」


 広い居間に、明るすぎないシャンデリア。全体的に落ち着きのある暗めの色合いで、そこはとても静かである。大人一人が余裕で横たわることのできるソファーに、俺は悠然と寝転がっていた。


 対し、整ったメイド衣装で綺麗に立っている女性が二人。女性といっても人間じゃないんだけど‥‥‥。見た目は人間とほとんど変わらない。


 一人は黒のショートヘアでキリッと、真顔というよりか、少し怒っているのではないだろうかと思える程の表情で俺を見ている。


 そしてもう一人は、金色のロングヘア。穏やかな笑顔で、しかしそれでも少しも姿勢を乱していない。そしてこっちも、俺を見ていた。


 せっかく人がくつろいでいるというのに、そんなまじまじと見つめられて、落ち着くものも落ち着かない。俺が何か悪いことをしたとでもいうのだろうか。平和であることをおいて他に良いことなどないだろうに。


「役目をお果たしください。見るに堪えません」


「じゃあ見なきゃいいだろう? まるで片思いの恋する乙女みたく俺のことじーっと見つめちゃって」


「意味が分かりません。私は責務を全うしています」


 俺はため息をついた。まったく、ジョークの通じない従者メイドである。どこまで真面目ならこのようなコミュニケーションができるのだろうか。いや、もしかしてコミュ障? なんてボケもなさそうだ。


 と、沈黙した空気が出来上がった。沈黙の中、俺は見つめられる。ただでさえ静かな空間なのだから勘弁して欲しいものだ。俺はジョークが得意な方だと思うが、この環境で俺のジョークスキルは何の役にも立たない。気まずいなぁ。――そんなことを思った矢先。


「まぁまぁ、お客さんが来た訳じゃないのだから、そう怒らなくてもいいじゃない。休養は大切よ?」


 穏やかな従者メイドがキリッとした従者メイドを説得しようとしていた。ん? そういえば俺は、この従者メイドらの名前をまだ知らなかったな。


《「これは休養などではなく、ただ怠惰なだけです。質が下がってしまう‥‥‥」


「"セシリー"、あなたは真面目過ぎなの。ちゃんとやることはやっているのだから、問題はないわ」


「けれど"ティアナ"、このままではあのお方の気に障るかもしれないでしょう?」


 ――二人の話し合いはまだ続きますが、放送はこれで終了です。問題用紙を表向きにして、問題に取り組みなさい。》


[Q.話し合いをしていた二人の名前をそれぞれ答えなさい。]


[A.セシリー、ティアナ]


 なんて親切な問題なんだ! 俺が疑問に思ってから即座に答えが出揃ってしまうとは。こんな聞き取りのテストがあったなら、みんな仲良く満点を取れるだろうに。


「とにかく! 私は認めていません」


 場が静かになった。どうやらセシリーが主張するようだ。俺は寝転がりながらも、耳だけそちらに向けていた。


「私は認めていません。あなたが‥‥‥、人間が魔王軍幹部を務めるなど!」


 ‥‥‥なるほど。それが不満だった訳か。

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