第十三章(間章):一方その頃、編
第138話:バエティカで最も熱い男(1)
ノルトが素振りをしている時にセネカ行方不明の一報が入った。
キトがバエティカのギルドと孤児院に高速便で手紙を送ったのだ。
セネカが行方不明と聞くとノルトは動揺したけれど、ルキウスと二人で居なくなったと分かると途端に態度を落ち着かせた。
「けっ!」
そしてもう聞きたくないとばかりに素振りをやめてどこかへ行ってしまった。
それから五日間ノルトは山に籠ったので、なぜか彼も行方不明だということになってしまい、バツの悪い思いをした。
しばらくしてからマイオル、ガイア、モフの三人がバエティカにやってきた。
三人はセネカとルキウスの現状を故郷の人たちに直接話そうと考えたのだ。
マイオルは当然ノルトと面識があったので、彼がリーダーのパーティ『宵明星』に詳しく話をした。もちろん魔界云々についてはうまく誤魔化している。
ノルト、ピケ、ミッツはマイオルの話を熱心に聞いていた。
しかし、話が終わるとノルトがイライラした様子でマイオルに言った。
「事情は分かった。伝えてくれて感謝する。だが、時間がない」
「どういうこと⋯⋯ですか?」
「しけたツラをして落ち込んでいる暇はないってことだ。ピケ、ミッツ、俺はまた山に籠るからな」
憮然とした態度を崩さないまま、ノルトはどこかへ行ってしまった。
「すいませんね。悪い奴じゃないんですけど言葉が足りなくて⋯⋯」
ミッツが非常に腰の低い様子でマイオル達に謝った。
「ううん、良いのよ。誰だってこんな話を聞いたらショックでしょうし⋯⋯」
マイオルは意気消沈した様子で言った。
けれどミッツとピケは首を振り、マイオルを諭すように言った。
「ノルトはセネカとルキウスが無事であることを疑っていないんですよ。あの二人が強くなって帰ってくると確信している。もし二人が帰ってきた時に大きな力の差ができていたら後悔するでしょう? だからこその山籠りです」
「僕たちもこうしてはいられません。槍の練習をしなくっちゃ。心配するべきは自分のことですよ」
そうして二人はさっさとマイオル達の前からいなくなってしまった。
◆
ノルトは宣言通り、山に籠っていた。
瞑想をして雑念を払おうとしているけれど、どうしてもセネカとルキウスのことが頭をよぎる。
話をする時、マイオルは相当に言葉を選んでいたことをノルトは思い出した。きっと何か大事な秘密を抱えているのだろう。
セネカとルキウスの安否をしきりに気にしていたので、二人は生死不明の状態なのだと思われる。
「それがどうした」
ノルトは心配するだけ無駄だと確信していた。
あの二人が長期間行方不明になったのは初めてではない。
孤児院のみんなを心配させてはケロッとした顔で帰ってくるのが得意技だった。
スタンピードに巻き込まれたと聞いた。
何処にいるのかも分からないらしい。
だけどスキルも持たない幼児が二人で魔物のいる森を徘徊するのと今とでどちらが危ない状態なのだろうとノルトは思う。
周りの人間が心配していることなど知らずに間違いなく二人で楽しく過ごしているだろう。
それがいつのになるのかは分からないが、ふとした時にひょっこり帰ってくるに決まっている。
ノルトは誰よりも正確にセネカとルキウスの現状を予測していた。
「はぁ⋯⋯」
ノルトはため息を吐いた。
二人が楽しくやっているということのほかにもう一つ確信していることがある。
「セネカとルキウスは恋人になったな」
それはあの二人のことを一番理解しているからこそ到達することのできる結論だった。
いつかはそういう日が来るのだと思っていたけれど、思ったより早かったというのがノルトの考えだ。
ノルトは悔しく感じた。二人の幼馴染が遠くへ行ってしまったように思ったからだ。
ノルトは嬉しく感じた。二人の苦労を誰よりも知っていたのは多分ノルトだからだ。
良い気持ちと悪い気持ちがないまぜになってノルトは瞑想どころではなくなっている。だから剣を抜いて大きく振りかぶった。
「[豪剣]!」
ノルトの顎を伝って落ちた雫が汗なのか涙なのかは本人にしか分からなかった。
◆
マイオル、ガイア、モフの三人は
マイオル達に同情してくれるのは冒険者になってからセネカを知った人たちで、幼い頃の二人を知る者ほど冷静だった。
ノルトほどではなかったけれど、みんなマイオル達をなんとも言えない気の毒な顔で見るのだ。
マイオルはセネカ達が魔界という得体の知れない世界に飲み込まれたのだと吹聴して周りたかったけれど緘口令が敷かれているので言うことは出来なかった。
みんなの反応を見てマイオルはキトのことを思い出していた。
グラディウスは魔界の情報を伝える権限を持っていたので、マイオルとガイアとモフとキトで詳しい話を聞きに行ったのだ。
グラディウスの話を聞いてマイオルは再び青ざめたのだけれど、キトは目を据わらせて覚悟を決めたような顔になっていた。
その後もマイオルは何度もキトに相談をした。会う度にキトの髪は乱れ、目には隈が出来ていった。
セネカのことが心配で夜も眠れないのだろうとマイオルは思っていたけれど、よくよく思い出すと個室には書物がたくさんあって、素材の量も以前とは比べ物にならないほど増えていたような気がする。
「もしかしたらキトも大丈夫だと思っていた⋯⋯?」
マイオルは自分に余裕がなさすぎて、これ以上のことは思い出せなかった。けれどマイオルが話すばかりでキトがどんな気持ちなのかを聞くことはあまりなかったかもしれない。
セネカの幼馴染達は肝が座りすぎている気がして、マイオルは苦笑いを浮かべるほかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます