第134話:再戦
魔界基準で二ヶ月が経過した。
魔界に来てから二人の食は少しずつ細くなっていったけれど、下げ止まってきたようだ。
呼応するように魔界に漂う魔力、自分の外に存在する魔力を取り込んで使用できるようになってきた。
元々それなりの魔力量しかないルキウスだけではなく、セネカも自分の保有量以上の魔力を使えるようになってきた。
湯水のように魔力を使用して敵を殲滅するやり方も身に馴染んでいる。そのおかげで魔界の『根』にいるオークキングを倒せる自信がついてきた。
「そろそろ戦おうか」
「⋯⋯そうだね」
二人はまっすぐに見つめ合いながら話をしている。
「僕は冷静でいられるかな?」
「始まってみないと分からないよ」
「まぁそうだよね。勝機を見つけて対すると気持ちが変わりそうだと思ってさ」
「改めて戦いを始めたら気持ちは変わりそうだよね」
「そうなんだよねー」
ルキウスはわざと軽く言って空気を和ませようとしている。そうでないとセネカがすぐに張り詰めるからだ。けれど、その努力はすぐに意味を失った。
目の前には顔が白くなるほど怒りに満ちたセネカがいる。
「⋯⋯分かっているよ、ルキウス。あのオークキングはお母さん達の敵とは違う。多分外よりも有利な状況で戦えるから私達の方が強くなったなんて自惚れもない。だけど⋯⋯だけどね、私達の大切な英雄を奪ったあの魔物を私は許せない」
爆発しそうな気持ちをひたすらに押し込めるセネカの肩にルキウスは手を置いた。
最初はここまでの敵意を持っていなかったけれど、何度も戦闘を繰り返すうちに怒りが込み上げてくるようになってしまったのだ。
セネカは自分の肩にあるルキウスの手をゆっくり撫でた。その手は恐ろしく冷たくなっている。晴れない怒りを抱えているのはセネカだけではない。
「それじゃあ、主を倒しに行こうか」
これは、両親を魔物に殺された二人の英雄候補が復讐する話だ。
◆
「いるね」
セネカとルキウスは丘の上にいるオークキングを見ている。相変わらず堂々と突っ立っている。
「それじゃあ、作戦通りに行こうか」
「うん。私が先に戦うから、あとはよろしくね」
セネカとルキウスは魔力を圧縮して即座に魔法を行使した。
オークキングの頭上に青白く大きな球が出現する。ルキウスはオークキングに向かってその魔力球を落とした。
気がついたオークキングは物凄い形相でルキウスの魔法を避けた。しかし、地面に衝突した瞬間、魔力球は弾けて辺りに飛び散った。
オークキングにも魔法が付着した。これは【神聖魔法】で出来ているので、敵を害する効果がある。人で言えば毒を盛大にかけられたような状態だろう。
「とりあえず初手はうまくいったね」
ルキウスはそう言って、高速に移動するセネカを見ながら次の攻撃の準備を始めた。
セネカは大きな針に乗りながら空中を駆け巡り、オークキングに攻撃を加えている。
ルキウスが魔法を行使した瞬間、セネカは乗りやすく形を整えた大きな針をオークキングに向かって発射した。
やっていることはいつもとほぼ変わらない。魔力を圧縮して[魔力針]を放っただけだ。しかし[魔力針]は大きくて、使った魔力は桁違いに多く、そこにセネカが乗っている。
セネカは高速に移動しながら空気を【縫い】、さらに加速をつけている。おかげでなんとかオークキングに捕捉されずに済んでいる。
聖属性の魔法が付着しているせいでオークキングの動きはやや鈍い。しかし、このままではいつか回復されてしまうので、セネカは次の手を打つことにした。
ババババババ!
セネカは[魔力針]を大量に放ち、オークキングを牽制している。針に乗って高速移動するセネカから発射される[魔力針]は角度がついていて避けにくい。
オークキングは煩わしい針を弾くので精一杯だ。
「それだけじゃないよ」
[魔力針]には糸が付いている。この糸は粘着性を最大限まで高めている上に微弱な回復魔法を付与してある。セネカの回復魔法には聖属性が混じっているのでオークキングは嫌がるはずだ。
セネカは糸で獲物を捕捉する蜘蛛のようにオークの王を手玉に取っている。
しかし、それだけで勝てる相手であればこんなに時間をかけて準備をする必要はなかった。
「ぶぎゃあああ!!!」
オークキングは怒りを爆発させ、吠えながら身体を強化した。魔界に漂う魔力を使えるのは敵も一緒だ。
よく見るとオークキングの体表に薄い魔力の膜が出現していて、淡く発光している。それによってセネカの糸の粘着性が抑制されているが、ルキウスの魔法はまだオークキングの皮膚に張り付いている。
ベタベタを取り除いて落ち着きを取り戻したオークキングは腰に差していた大きな剣を抜いた。
セネカは持っていた針刀に魔力を集中させた。この針刀は[魔力針]を変形させたもので、以前よりも刀の形に近づいている。
オークキングはちょこまかと動き続けるセネカに向かって斬撃を浴びせる。セネカはそれをうまく避けながら反撃のチャンスを伺う。
セネカ達は奇襲でオークキングを押していたけれど、次第に敵はペースを取り戻してきている。完全に立て直されてしまえば、セネカでは歯が立たない。
「だから、攻め続けないとね」
セネカはオークキングから少し距離を取り、一瞬で放てるだけの[まち針]を敵に撃ち込んだ。
数百のまち針がオークキングを襲う。
その攻撃は一見派手だし、強力に見えた。しかし、王は自分に脅威を与え得ないと判断して強行突破しようとした。
オークキングに何本かのまち針が刺さっている。
「ねぇ、知ってる?」
言葉が伝わらないとは分かっているけれど、セネカは語りかけた。
「まち針って印になるんだよ。ここを攻撃しろっていうね」
大きく剣を振りかぶってセネカを攻撃しようとするオークキングに青白い雷が落ちた。
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