第102話:成果
「みんな、止まって!」
さらに一刻半ほどの時間をかけて進み、奥地が見えてきた頃、マイオルが強い口調で言った。
他の三人は止まり、機敏な動きでマイオルの方を向いた。
「探知範囲の端に亜種と思われる魔物が多数。異常に高い濃度の魔力溜まりを発見。これ以上、先に進むのは危険だわ」
「どんな敵がいるんだ?」
「ファイアウルフ、グランドボア、魔蝶、バナバス⋯⋯。とにかくあげたらキリがないわ。それらが群れのように何十匹もいるわね」
「襲われたらまずいな」
「えぇ。それに見つけた魔力溜まりはサイクロプスがいたものよりも魔力濃度が高いわ。高濃度だからといって全てに魔物がいるわけじゃないみたいだけれど、あたしたちでは手に負えない可能性が高いわ」
「奥地といってもまた端の方ですよ? ここでそんな状態ならさらに奥はどうなっているんでしょう?」
「分からないわ。スタンピードが起きるほど魔物がいるようには思わないけれど、あたし達には知らされてない情報があるのかもしれないし、急いだほうが良いわね」
緊張感が高まり、段々とみんなが早口になってきているとセネカは感じた。なので、セネカは落ち着いた口調で聞いた。
「ねぇ、ガイア。さっき魔力溜まりの分布から、濃度が最も高くなる一帯を推測できるかもしれないって話をしていたけれど、それってこれまで得た情報だけで可能かな?」
「まだ足りないと思うが、精度を計算する時間が欲しい。マイオル、ここに少しいても大丈夫か?」
ガイアがそう聞くと
「こっちに向かってくる魔物もいないし、大丈夫だと思うわ。木の陰に隠れていれば見つかる心配はないと思う」
「分かった。それじゃあ、セネカ、計算を手伝ってくれ」
「分かった」
マイオルはゆっくり息を吐いて「冷静じゃなかったわ」と言いながらプラウティアの方を向いた。
「プラウティア、あたし達はポーションの素材になる植物の分布を確認しましょう。時間をかけるつもりはないけど素材を多く回収できる経路はあるはずだから」
「そうですね。こうなったら薬が足りなくなるかもしれないから」
「うん。プラウティアの[選別]が活きるかもしれない」
プラウティアのサブスキルは薬効の高い部分だけを分取できるので効率が良い。この四人で持てる分を採取していくだけでも多くの薬の原料になるだろう。
マイオルがプラウティアと作業を進めているとセネカとガイアがやってきた。
「二人とも聞いて。ガイアに計算してもらって最高濃度の魔力溜まりの位置が絞れてきたんだけれど、まだ情報が足りないみたい。あと一つか二つの魔力溜まりを見つけられたら精度良く推測できそうなんだけれど、どう思う?」
「このまま奥に進むのは危険なんですよね?」
プラウティアがマイオルに聞いた。
「そうね。移動するなら奥に進むんじゃなくて、横に移動することになるかしら。そうすれば強い魔物との戦闘を避けながら、魔力溜まりを探せるかもしれないわね」
「マイオル。改めてだけど、魔物の数を確認する冒険者は他にも複数いるし、中には魔力溜まりの分布を見る人もいるんだよね?」
「そうよ。いずれ銀級から金級の探知系の冒険者が来るとシメネメさんが言っていたわ。だから気負う必要がないとも言える。だけどあたし達が得た情報で初動が決まる部分があるのも事実ね」
セネカはマイオルの話を聞いて頭を働かせている。
「待ってください。いまの状態で亜種に襲われたら大変ですよね。セネカちゃんの負担が大きくないですか?」
プラウティアが心配そうな顔でセネカの方を見た。マイオルもセネカの方を見て質問する。
「戦闘に関してセネカはどう感じてる?」
「うーん。ガイアが全力の魔法を使えるという前提だけど、四人が本気で戦えば、ケンタウロスクラスの魔物なら十数匹は相手に出来るんじゃないかな。けど、サイクロプスの亜種クラスの魔物が来たら、難しい状況になると思う」
「なるほどね。ガイアはどう?」
「そうだな。今日はまだ魔法を使っていないし、調子も悪くない。だが、こうなると判断が難しいな。威力を落として数を稼ぐのが良いか、全力で使うために温存するのが良いかを考える必要がありそうだ」
「そうね。ガイアの魔法が生命線になるから、みんなで相談して使っていく必要がありそうね。プラウティア、ポーション類の残りはどれくらい?」
「ポーションの方は残量にまだ余裕がありますね。でも、これから長期戦になっていく可能性を考えると、現地調達の比率を増やしたほうが良いかもしれません」
それぞれの調子や物資の状況を確認しながら判断に必要な要素を確認してゆく。
一通りの確認が終わった後、マイオルが言った。
「シメネメさんが言っていた期限までにはまだ時間があるわ。あたし達の今後の動きが都市防衛に大きく影響するというのなら精度の高い情報を得るほうが良いに決まっている。だから、あと二か所は魔力溜まりの調査を行なって帰還したいと思っているの」
マイオルは落ち着いた声色でそう言いながら話を続けた。
「だけど、自分たちの命が大事だし、いまは正常な判断ができなくなっているかもしれないとも思うわ。だから少し時間をとって、それぞれで考えて欲しいの。多分ここの判断が一番大事だから」
「分かりました」
「分かった」
セネカもゆっくりと頷いた。
◆
それからしばらく時間をとった後、四人は方針を話し合った。そして、調査を続けることになった。
あらゆる可能性を考えた結果、調査を続けるのが総合的には自分達の身を守ることに繋がるという意見もあったし、ここまで来てしまったら進むのも退くのもどちらもリスクのある行動だという意見も出た。
何にせよ、四人は進むことを決断した。
「ここから先はいつ緊急事態になってもおかしくないから先に言っておくけど、あたし達はすでに銅級のパーティとしてはすでに十分な働きをしているはずだわ。だからこれ以上の成果がなかったとしてもあと二つの魔力溜まりを調べたら即座に撤退するわ」
セネカ、ガイア、プラウティアはしっかり頷いた。
その後、緊張感に押しつぶされそうになりながらも四人は十分な調査を行うことができた。
奇妙なことに、あれだけ警戒していたのにも関わらず、魔物と戦ったのは二回だけだった。
セネカたち四人は魔力溜まりの分布や動きに関する情報を的確にまとめ、簡潔に記した。そして、その情報から濃度が最も高くなりそうな地帯を推測し、ギルドに報告した。
この働きが都市の命運を分けることになるとは誰も思っていなかった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
再度区切りを入れさせていただきます。
次話から第十一章:銀級冒険者昇格編(3)が始まります!
長い章になる予定です。
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