サイアイ

ガエイ

序章

序章 どこかから聞こえてきた声

………………

…………

……



「……おや? この空間に迷い込んでいる人がいるとは珍しいね」


 自分のすぐ隣りから話しかけてくる人がいた。


 辺りを見渡すと一面真っ白な空間で、眼の前には大きな樹のようなものがある。


 物凄く大きいのに根から枝葉えだはの先まで視界の中に全てが収まり、視線を移しても常に視界の真ん中に写っている。とても不思議な空間だ。


「何も知らずに迷い込んできちゃったのかな? これは世界樹と呼ばれていてね、世界そのものなんだ」


 話しかけてくる人がいることは認識できるが、それが男性であるのか女性であるのかすらわからない。


「世界樹は根幹となる部分から人の『愛』のエネルギーで徐々に枝分かれしていき、様々な並行世界を生み出していく。さっきまであの枝の先っぽの並行世界にいたんだけど、ちょっと色々あってね」


 ぼんやりとしたシルエットの人影が指差す方を見ると、大樹の先に枯れかかった一本の木の枝があった。


「もし気になるようだったら少し覗いて見てもいいよ、この空間は時間という概念がない。覗くだけなら過去の様子も見えるかもしれないね」


 歩くことも泳ぐこともできる不思議な空間を移動して枯れかかった枝を覗くと、本のページをめくるようにその世界で起こった事柄が頭に入ってきた。


 しかし、うっかり最後の方のページを開いてしまうと、そこには凄惨せいさんな光景が広がっていた。



◆ ◆ ◆



 日本にある東京タワーの最上階にあるトップデッキに、三人の女性が倒れている。


 金色の長い髪の女性は喉から頭に向かって日本刀が貫かれたまま倒れ、まるで口から吐くように血を流している。


 少し離れたところで倒れているパーマのかかった黒色のミドルヘアの女性は、眼を開けたまま胸から流れた血で血溜まりを作っている。


 そして、まるで二人と三角形を作るかのような位置で倒れている黒髪ボブヘアーの小柄な女性は、全身を血で染め、その左胸には九つの穴が空き、血を垂れ流している。



◆ ◆ ◆



「別にどういう見方をしても自由だけど、せっかくなら初めから見てほしいかな」


 そう言うと、その人は全身から少しずつ光の粒子を放ってゆっくりと消え始めた。


 結末を先に見てしまったが、その人の言う通り初めから見てみよう。


 そう思って、最初の一ページ目をめくった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る