好奇心は如何な天才をも殺せてしまう



「あー....紅?何か用か?」



未だにぶつぶつ言いながら俺を見てくる紅にいい加減居た堪れなくなり声をかける。



「はっ...!ごめんなさい。佐藤君、突然で悪いけれど、今日の放課後は空いてるかしら?少し話したいことがあるのだけれど」



言外に勿論空いてるよな?との圧を感じる。

その美人な風貌から圧をかけられたら空いていなくてもうなづいてしまうだろうな、とまで感じる迫力を感じる。


だが俺には通じない。てか面倒だし。



「空いてはいるけど別に俺、紅とそんなに仲良いわけでもないしな。そんな高圧的に言われてわざわざ時間を作りたいとは思えないよ。それじゃ」


「なっ!?ちょっ!待ちなさい!」


「待たない。俺達は別に親しくもないただの同級生だ。頼み方ってもんがあるだろ」


「お願い、待って....」




正直高圧的な態度も美人な外見に合っていて全然気にならないんだが、見るからにお堅そうだし仲良くなれる気もしない。

やれそうなタイプでもないし、だったらさっさと帰って彩花なり美愛なりを抱いてる方が有意義だ。

焦る紅に背を向けて、1人教室に戻った。



◇◇◇



ジーッ.....



「...」



ジーッ.....




あの日から数日が経っているのだが、

あれから教室で紅からの視線を物凄く感じる。

最初はスルーしていたが、正直いい加減うざくなってきた。

ここまでくると一周回って何のようか気になってしまった俺は、その昼休みに根負けして声をかけることにした。



「なぁ、紅」


「あら、何かしら。大して親しくない私に佐藤君の貴重な時間を使ってまで声をかけてきて」



こ、この女...根に持ってやがる....




「そういうのは面倒だからやめてくれ。

わかってるんだろ?いい加減ずっと見られ続けてうんざりだ。何か用があるなら聞くよ。今日の放課後でいいか?」


「なっ...!別に私は..あなたをずっと見てたわけでは....!」


「仕事柄、人の視線には敏感なんだよ。ただでさえ普段から人の目を気にしてるのに、教室の中ですら見られてたらたまったもんじゃないんだよ」


「...そうね...私も視線を向けられることが多いからわかるわ...ごめんなさい」


「まぁクラスメイトだからな。わかってくれればいいんだ。それで?」


「ありがとう。えぇ、今日お願いするわ。連絡先を聞いてもいいかしら?」


「あぁ」



そして放課後になった。

紅に学校近くのカフェに誘われたが、それは難しい。


「あー...俺さ、仕事柄、変装も何もしてない状態で女の子と2人でお店とか入らないようにしてんだよね。学校内で済ませないか?」


「おっ...女の子...⁉︎」


「なんで驚いてんだよ。どこからどうみても女の子だろ。それもとびっきり可愛い」


「かっ..かわっ...!?からかわないで!」


「いやいや。テレビで天才美人中学生とか言われてたりするだろ?」


「あれは勝手に言われてるだけで....あぁ、もう!もういいわ。そうね...少し長くなるかもしれないから...困ったわ」


「じゃあ俺ん家くるか?」


「えっ?」


「学校も無理、お店も無理ってなったらもう家しかないだろう。基本モデル仲間で遊ぶ時も家ばかりだしな」


「そ、そ、そうなの...モデルも大変なのね...

そ、その...ご両親は大丈夫なの?」


「あぁ。一人暮らしだからな」


「そうなんだ...自立してるのね...。それであれだけ勉強もできて...分かったわ、聞きたいことも増えたし、あなたの家にお邪魔させてもらうわ」



紅って一人で盛り上がるタイプなんだな。

見てて飽きない。意外に可愛い一面もあるんだなぁなんて思いつつ、俺の部屋に向かった。



「お、お邪魔します....」


「はいよ〜」


「い、意外に片付いてるわね」


「まぁ俺は基本何でもできるからな」



恐る恐る上がってきた紅だったが、開口一番地味に失礼なこと言ってきた。

まぁ片付けてるのは美愛と彩花だが、俺も別に部屋を荒らすタイプじゃない。ベッドは荒らすが。



「ソファにでも座ってくれ。お茶飲むか?」


「ありがとう」



何処となく落ち着かない紅を座るように促し、お茶を出してあげる。



「で、話って?」


「その前に...ごめんなさい。自分でもテンパっちゃって、佐藤君に失礼な態度を取ってしまっていたわ。反省しています」


「気にするな。あぁは言ったが、面倒だっただけで別に怒ったりはしてない」


「そう言ってもらえるとありがたいわ。

でも、本当にごめんなさい」


「いいって。それで?」


「その...私は小学生から、今まで学校のテストで1位以外取ったことがないの」


「そりゃ凄いな。まぁあれだけ騒がれてたからな」


「えぇ...まぁ、高校生になってからは2位しか取れてないのだけれど」


そう言ってこちらにジト目を向ける紅


「そう言われてもな...

それで?俺に恨み辛みをぶつけたかったのか?」


「いいえ。違うわ。ただこの学園は知っての通り国内トップの進学校ではないわ。だから入試で、次席に甘んじたことが信じられなかった」


「まぁ...多分だけどケアレスミスとかじゃないのか?」


「ええ、その通りよ...だからあなたに首席を取られたことは、そこまで気にしなかったわ。いいえ、興味は持ったけれど。でもこれから1位を取り返せばいいだけの話だと思っていた」


「そこにきての、今回か」


「えぇ。今回のテストは作成者の悪意が見えたわ。高校1年生のレベルを大幅に逸脱している問題が最後の方に紛れていた。多分普通に頭いいくらいの人では90点が限界だったんじゃないかしら?」


「そうだな。明らかに大学入試レベルの問題が紛れていた」


「そう。そして最後の1問...あれは国内トップの大学生でもなければ理解もできないような問題だった...悔しいけれど私には問題の意味すら分からなかったわ」


「あー、あれな。俺も焦った」



そう、配点が僅か1点しかないが、

明らかに解かせる気のない問題が1問紛れていた。正直前世の俺でもあのレベルの問題が並んでいたら頭を抱えるレベルだったから、紅が解けなくても仕方ない。俺はたまたま知っていた問題だったから解けてしまっただけだ。



「そんなテストであなたは100点を取った。

私は入学してからずっとあなたを見ていたわ。勿論最近のようにあからさまではなかったけれど」


「まぁ、感じてたよ」


「ごめんなさい...。それで私から見たあなたは、授業は真面目に受けているもののそれ以外の時間は特に自習している様子はなかった。それに仕事で学校を休んだり、途中からきたり、早退したりすることもあるわよね。この前放課後、たまたまあなたを見かけて、少し後をつけてみたことがあるのよ。そしたらあなたは他校の女の子とスーパーで買い物して一緒にあなたの家に入って行ったわ。あれは彼女なのかしら?あなた達はどう見ても一緒に勉強するような雰囲気ではなかった。それなのに貴方はあの難問が混ざっているテストで100点を取った。それが不思議でならないの」



いやいや、ナチュラルにストーカー宣言されたんだが。

なにを当たり前の顔して、少し後をつけてみた、だよ。しかもそれテスト前日じゃないか?意外に能天気なのか?



「...色々ツッコミどころがあるが...

その女の子は彼女じゃないな。昔から仲良くしてる幼馴染だ。

そもそも俺は家で予習くらいしてる」


30分くらい。


「確かにそれくらいはしているかもしれない。でもこうしてあなたの部屋に上がらせて貰って、普段勉強してる人特有の部屋の感じが全く見当たらないわ」



いやいや、どんな部屋だよ。

...前世の俺の部屋ですね。はい。



「あー...まぁ、効率よくしているから、かな」


「...迷惑じゃなければ、私に教えてほしいの」



困った。ただの前世パワーだからなぁ...

しかも効率とかじゃなくてマジのガリ勉パワー。



「んー...でも本当、特別なことはしてないんだよな」


「じゃああなたの1日を教えてほしいわ」


「別に普通だぞ?朝起きて、学校行って、撮影がある日は撮影して、ない日は友達とカラオケ行ったり、ご飯食べ行ったり...。後は美愛..あ、幼馴染の子な?その子が家に来た日は一緒に夕飯作ったりセックスして寝てー...って...あ...。」



「セ...セッ...?」



あー、ミスった。つい口を滑らしてしまった。まぁいいか、言いふらすタイプには見えないし。



「そ、セックス。予習はまぁ、空いた時間にちゃちゃっと」


開き直った。



「た、ただの幼馴染なのよね?彼女ではなく...?」


「あぁ。と言っても、中学生まで付き合ってたけどな」


「そ、そうなの...色々あるのね...知らない世界だわ...幼馴染となんて...そんな...」


「紅は幼馴染とか、恋人とかいるのか?」


顔を真っ赤にして動揺する紅が不憫で、話を逸らすことにした。



「恋人なんていないわ。告白されたことは何度かあるけど、そんな時間があるなら勉強していたいし。幼馴染は...えぇ、いるわね、一応。あなた達と違ってそんなに仲良くはないけど」


そう言ってジト目を向ける紅。

てか、そんな時間があるなら勉強してたいって...筋金入りだな。

しかしいるのか、幼馴染。この世界幼馴染いすぎじゃないか?確か彩花もいるって言ってたよな...



「ふーん。その幼馴染さんはどんな人なんだ?」


「同じ高校よ。私達の1つ上ね。特段目立つようなタイプでもないし、あなたは分からないと思うけれど。私も喧嘩したっきり、入学してから1回も会ってないわ」


「へぇ...もしかして紅がこの学園にきたのって、その幼馴染を追ってだったりするのか?」


恋の気配を感じてニヤニヤしてしまう。

俺は自分が恋愛不適合者だからか、他人の恋愛は好きなのだ。



「...ええ、私がこの学園にきた理由はそうよ。でもあなたが今勘違いしているような理由では断じてないわよ!...理由があるのよ」


「理由って?」


「そうね、聞いてばかりじゃ悪いものね。

その幼馴染...ヒカルって言うのだけれど。

私は幼稚園の受験に失敗したことがあるの。

それで小学校の受験は絶対に受からなきゃって焦っていて...その時に出会ったのがヒカルだった。

ヒカルは頭が良くて、私に勉強のやり方を教えてくれたの。それで無事に小学校に合格できて...先に同じ小学校に入学していたヒカルとも仲良くしていたわ。

それでよく一緒に勉強していたのだけど...

私が5年生の時、最難関中学の受験にヒカルは落ちてしまって、レベルを落とした中学に進学したの。ヒカルは私よりずっと頭が良かったから、そんなヒカルが落ちた中学に私が受かるわけないって思ったのだけど、両親から強制的に受験させられて...結果として私は合格したわ。それも、首席で。

その頃からかしら、私の今までの勉強が身を結んで、大学模試ですら高得点を取れるようになっていて...気づいたらヒカルは私を避けるようになった。あまり、勉強もしなくなってしまったみたい。高校も遊嵐でしょ?確かに中には天才もいるだろうけど、進学校でもなんでもない。私はヒカルが本当に頭が良いことを知ってるから、もっと良い高校に転校するように何度か発破をかけたのだけれど聞く耳持たずで...」



おおう。長い、長いよ紅...

てかあんたそれで別に好きじゃないって...

本当に勉強しか頭になかったんだな...



「それから色々あったのだけど、ヒカルが私に言ったの。俺の通ってる高校には紗雪より頭が良い人なんかザラにいる。俺はそんな高校に通ってるんだ、って」


...なるほどね〜。

ザラにいる...ねぇ...

売り言葉に買い言葉で言っちゃったのかな。




「そんなバカな。って思ったけど、遊嵐はかなり特殊な学園。あり得るのかもしれないって...」


「よく両親が許したな」


「えぇ。私もダメ元だったのだけど、遊嵐に行きたいって言ったら、遊嵐なら構わないって。絶対断られると思ったのだけど...」


「不思議だな」


「本当に。でも好都合だったわ。それで入学したら、私は次席だった」


「なるほど、図らずもヒカル先輩の言う通りになったわけだ」


「そういうことよ。だから私はあなたに執着してしまった。小学生に上がってから今まで、同級生には負けたことない私が、初めて負けた相手が勉強ばかりしているタイプでもないあなた。気になって仕方ないの。だからあなたのことを知りたくて」


「なるほどねえ...まぁさっき言った通りだよ。その上で俺からアドバイス出来ることは...息抜きとかしてるか?」


「してないわ。勉強は辛くないもの」


「友達とかいるのか?放課後カラオケ行ったりとか」


「クラスで話す同級生はいるわよ。でも放課後は勉強したいし。カラオケとか、時間の無駄じゃない?」


「そんなことは断じてないが...

じゃあセックスとか、どうだ?」


「はぁ!?い、いきなり何を...?」


「いや、真面目な話だ。

紅はいくらなんでも勉強以外のことを知らなすぎだ。息抜きは必要ないと言うが、絶対にストレスは溜まってる。セックスってかなりストレス発散できるからな。カラオケの100倍くらい」


「そ、そんなこと言われたって....

で、でも..そんな...でも実際セックスしてる佐藤君はあまり勉強してないのに勉強ができて....息抜き....大事...それがセ...セックス...」


「まぁ俺が言えるのはそんくらいだよ」



別にセックスしてるから勉強ができるわけではないが、面倒なので訂正しない。


「セックスなんて...そんな...でも...そんなこと一体誰と...」


「誰でも良いだろう。告白してきた奴らでも、それこそヒカル先輩でも」


「だ、誰でもなんていいわけないじゃない!

そんなはしたない女になんてなりたくもないわよ!

それにヒカルなんか嫌よ!腑抜けきってるし!そもそも一度もそんな風に見たことなんてないもの...

そ、そうよ!そこまで言うなら佐藤君が私とセックスしなさいよ」


「お、おおう...。俺は別に構わないが...俺でいいのか?俺としてはヒカル先輩をおすすめしたいところだが...」


「だからヒカルは関係ないでしょ!なんとも思ってないわ。それに、佐藤君なら構わないわよ。慣れてそうだし、そもそもあなたの事を知りたかったのは私の方だし。それとも、やっぱり佐藤君は私みたいなキツい女は嫌?」


「いや、超タイプ」


「た、たいぷ....じゃあいいでしょ!

早く私とセックスしなさいよ!」



大丈夫か?自棄になってないか...?

これが元天才中学生か...。


ちょろくないか?なんかバカっぽいぞ?


まぁ俺が言い出したことだし、

ここまで御膳立てされたら喰わねば男が廃る。


すまん、まだ見ぬヒカル先輩よ。



「んじゃ、遠慮なく。ちなみに経験は?」


「小学生の頃にヒカルと手を繋いだことはあるわ」


「お、おう...それ以外は?」


「ないわよ。悪いかしら?」


「いや、全く」


佐藤優になってから相手が処女ばかりだ。

正直経験豊富な方が好みなんだがまだ学生だし仕方ない。



目をぎゅっと瞑る紅の唇に軽くキスを落とす。


「んっ...これがキス...?」


「紅...いや、紗雪、始める前に言っておく」


「なにかしら?」


「俺は恋人を作る気はない。だから、

俺のことを好きにならないでくれよ」


「...あなた、最低なのね」


「自覚してるよ」



そして俺は紗雪を抱いた。

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