かくしてクズは再臨した
「優君大好きぃ」
やっちまった。
昨夜熱い夜を過ごした俺達は事後そのまま寝たが、起きてからずっと、俺は全裸で彩花に抱きつかれながらキスの雨を降らされている。
両親に愛されず、有名人として周囲とも距離があるタイプの人間、つまり前世の俺のような人間は一度セックスを覚えるとハマる。
それは分かっていた。承知の上だった。
しかし前世の俺は特に好きでもない女と初体験を迎えたからか、特に特定の人間にハマるわけではなくセックスと言う行為そのものにハマった。
だからか、勝手に彩花もそうなるだろうと決めつけていたんだが、前世の俺と彩花では条件が違った。
それは彩花が俺のことが好きな状態で俺とのセックスを覚えてしまったことだ。
まぁ早い話、
俺はセックスに依存したけれど、彩花は俺に依存してしまったわけだ。
前世の嵐だったらいくらでもあしらえた。
そもそも絶対に付き合う気はないとセックスする前から口を酸っぱくして言っていたし、
仕事を言い訳にすることができた。
他にたくさん相手がいることも周知の事実だったし、そもそも成人している方が多かったのでお互い割り切るのも簡単だったし、芸歴も長く売れていたので立場が上だから相手にも強く出れたし、しつこいタイプは調教したりしてやり過ごしていた。
しかし今の俺は優だ。
純粋な中学3年生であり、両親公認の彼女までいる。
一応最近人気急上昇中だが、まだまだいつ消えてもおかしくないレベルでしかない。
お相手は同じ事務所の売れっ子の先輩。
彩花と俺、どっちを守るか聞かれたら事務所は迷わず彩花を選ぶであろう。
あれ、俺詰んでないか?
「優君〜♪」
ちゅっ ちゅっ
と考え事をしている俺に、
未だにキスしてくる彩花をいい加減煩わしく感じてとりあえず黙らせる事にした。
「きゃっ優君たら..♪あんっ。
好きぃ、好きぃ...」
はあはあとぐったりしている彩花を寝かせて、考え事を再開した。
目下最大の悩みは美愛だ。
すっかり頭から抜けていたが昨日彩花と会うことを美愛は知っている。
そこにきてこのお泊まりだ。
カイさんの家に泊まるとは言ったが、十中八九、美愛は疑いを深めているはずだ。
どうやって誤魔化す?
誤魔化しきれるのか?
いっそ正直に言うべきか?
いや、ただでさえ彩花を警戒していた美愛だ、
こんなことになったことが知れたら間違いなく仕事をやめさせようとしてくる。
いや、それどころか両親に言うかもしれない。
俺は今世の両親が本当に大好きだ。
世界で一番尊敬していると言っても過言ではない。
そんな両親に、俺が不貞行為を働くクズ野郎だと知られるのは想像しただけで辛い。
それに美愛の両親は俺の両親と親友だ。
俺のせいで仲がギクシャクするかもと考えると耐えられない。
どうする?どうすればいい?
俺は間違いなく罪悪感を感じている。
でも
俺は気づかないフリをしていた。
5年付き合っている最愛の彼女を裏切ったことにではなく、
両親を裏切ってしまったことに対しての罪悪感しか抱いていなかったことに。
美愛の存在を面倒に感じている自分に。
だってそれは嵐の考えだから。
生まれ変わった優はそんな人間じゃないから。
◇◇◇
「あのさ、彩花さん...」
「さん付けなんかいらないよ、敬語も。彩花って呼んで?」
「あぁ、わかった。それでさ、彩花...」
まだ今後どうするかは決めてないが、とりあえず今は疲労から復活した彩花をどうにかしようと口を開いた時だった。
「すとっぷ。私、わかってるよ。優君、彼女さんいるんだよね?」
「なん...で...」
「あはは...なんとなくいるんじゃないかなぁとは思ってたんだ。でもこうして、え...えっちしてさ、私初めてだったのにすぐに気持ち良くさせられちゃって、絶対優君初めてじゃないなぁって。それどころか経験豊富さんなんじゃない?」
そう言って苦笑いでジト目を向けてくる彩花の目を真っ直ぐに見返す。
「うん、幼馴染の彼女がいる。小学生からずっと付き合ってるよ。でも経験人数は彩花が二人目」
意外に鋭い考察を見せる彩花に、下手な誤魔化しは逆効果だと思い正直に答えた。
...重たそうな女だと思ったが、意外に都合の良い女かも知れない。誠実ロールすればなぁなぁにしてくれそうだなんて打算もあった。
「そっか...そんな前から...いいなぁ。私も優君と幼馴染がよかったなぁ」
「彩花はそんな感じの人いないの?」
「うーん。一応いるよ?幼稚園の頃かな?
年長さんの時に、年少の子とペアを組んで交流するイベントがあってね、その時にペアになった年少の男の子。何か凄い仲良くなっちゃって、大人になったら僕のお嫁さんになってよなんて言われたなぁそう言えば!あはは、懐かしい〜」
「へぇ、また漫画みたいな幼馴染だね。その男の子は今は?」
「ん〜、優君と同い年なんだけどね、私がモデル始める前くらいに両親の都合でその子が引っ越しちゃって、それっきり。お互いわんわん泣いてお別れしたなぁ。あ、今はもう楽しんでやってるけどね、私がモデルを始めたきっかけもその子なんだぁ。雑誌に載れば離れてても知ってもらえるかなみたいな!」
「うわぁ健気。もしかして初恋?」
「うーん...そうなのかなぁ?まだ小さかったしわかんない。優君に出会う前に再会したりしたら好きになってたかもねぇ。優君みたいに超かっこよくなってたりして!でも...ちゃんとこの人が好き!って思ったのは優君が初めてだから、私の初恋はやっぱ優君かな♪」
...どっかで見たラブコメみたいな話で楽しくなってしまって墓穴を掘ってしまった。
「あはは...」
「もうっ。そんな困った顔しないでよ。優君は私のこと好きじゃない?やっぱやれそうだったからやっちゃったのかな?...そうだよね。自分でも暴走しすぎちゃった自覚はあるよ。思えば私が誘ってるようなもんだもんね...なのに私ったら優君に求められて浮かれちゃって...ごめんね」
....こ、この人都合の良い女の素質がありすぎる。悪い男に引っかかるぞ。いや、絶賛引っかかってる最中か。
でも最初に想像したより良い方に行きそうだ。後はこの事を内緒にして、一夜の過ちにして終える事もできるかもしれない。
でも
惜しいなぁ。
ドロりとした感情が沸き上がる。
「彩花、聞いてくれ」
「うん...?」
「まず、今回やっちゃったことは彩花は悪くない。もう終わった流れなのに俺が手を出してしまった」
「嘘。わかってるよ私。優君は私を慰めてくれたんでしょ?」
「違う。いや、一概に違うとも言えないけど...とにかく、俺は彩花としたことに後悔はない」
「あはは...でも私も。初めてが優君でよかった。最低だよね、私。彼女がいる人に...」
「ありがとう。でも彼女がいる事を隠してたのは俺だ。俺が悪い。それで、彩花」
一呼吸置く。
大きく丸いくりくりした目でこちらを見る彩花をしっかり見つめ返す。
俺は今から最低な事を言う。
「彩花とは付き合えない。
今日の事も誰にも言わないでほしい。
でもこれからもたまに、こうして会わないか?」
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