大山鳴動して

長月瓦礫

大山鳴動して


すっきりとした青空が広がっている。

木々の葉が鮮やかに色づき、ところどころ木の実がなっている。

快晴が続いたおかげで、地面も非常に歩きやすい。


鼻歌交じりに男は山道を歩く。なんと気持ちのいい日だろう。

秋の心地いい空気を全身に浴びる。

リズムよく坂道を上っていると、道が二手に分かれた。


男ははてなと首をかしげた。

案内板は道を二つ示しているが、左の奥に別の道が続いているのである。

奥の道は封鎖されておらず、通れるようにはなっている。


さて、どうしたものか。案内板にない道があるというのは実に奇妙である。

封鎖されていないのは管理人の怠惰によるものか、観光客の好奇心によるものか。


多少の違和感を覚えつつも、男はあえて道をそれることにした。

危険だったら引き返せばいいし、どこに繋がっているか非常に気になる。

軽い足取りで進んでいった。


舗装された道が続き、草むらの中に隠すようにごみが捨てられていた。

本来であれば誰も通らない道だし、仕方がないのかもしれない。


ため息をついた瞬間、笛のような高い音が聞こえた。

風の音ではない。生き物のような肉体を持つ音でもない。

言葉にできない奇妙な音だ。


今度は背後から聞こえ、振り返ると粘液の集合体のような何かがいた。

黒くねちゃねちゃとうごめき、目玉や口がいたるところについている。

スライムのような何かがこちらを見据えている。


男は絶句し、そのまま立ち尽くしていた。

アトラクションではなく、生き物であると本能が告げていた。

それに近づいてはならず、今すぐ逃げなければならないということも。


再度、笛のような音が響くと別のスライムが肩に落ちてきた。

冷たくぬるぬるとした触感を振り切るように、男はてんでばらばらに、狂ったように叫びながらその場から駆け出した。


危険そうだったらすぐに引き返せばいい。そう思っていた。

一本道のはずなのに、いくら走ってもたどり着かない。

道がぐねぐねと曲がり、山自体が生きているように感じる。


スライムに絡みつかれながら、男はもがいていた。

ワケも分からぬまま、とにかく走り続けた。

この場から脱出しなければならない。それだけを考えていた。

しかし、いくら走っても元の道に戻れない。あの案内板が見えてこない。


男はとうとう足を踏み外し、山から転がり落ちて行った。

その先に巨大生物が大きく口を開け、今か今かと待っていたのは知る由もない。

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