第2話 叔父の焦り

◇◇◇


 フェリシエが蜥蜴に夢中になっていると、イライラした叔父がまた大声を上げて怒鳴ってきた。


「おい!私の話を聞いているのかっ!なんだその汚らわしい生き物はっ!さっさと捨てろ!全く、お前はそれでもレディなのか?わけのわからん生き物を飼うなど、公爵令嬢が聞いて呆れるわっ」


 大切な友達を侮辱されて、フェリシエもカチンときた。


「叔父様に私の友達のことをとやかく言われる覚えはございません。叔父様こそ新しいはお元気かしら?叔父様がいらっしゃるたびに私の持っているドレスやら宝石やらを勝手に持っていってしまうので、ろくな着替えもなくて困ってますわ。無理矢理着て形の変わったドレスは諦めるとしても、お母様の形見の宝石は返していただきたいわ」


 ふんっ!と冷たく言い放つと、叔父はハゲた頭を振り乱し、真っ赤になってわめきだした。いわく「世話になってるくせに生意気」だの「公爵令嬢のくせにケチ」だの「昔から傲慢」だの。


 そしてお決まりのように言うのだ。


「お前がそのように傲慢な態度だから、王太子殿下に婚約破棄されたのだ!」


 もはや言われ慣れて耳にタコができそうなそのセリフ。(馬鹿王子との婚約破棄なんてどうだっていいわ)フェリシエは頬にすり寄る蜥蜴の喉をスリスリと撫でてやると、そっと地面に下ろす。下ろされた蜥蜴はどことなく不満そうだ。名残惜しそうに、足に纏わりついてくる。


 甘えん坊のこの子は、いつもフェリシエにくっついて離れない。宝石みたいに美しい琥珀色の目をした、子猫ぐらいの大きさの白い小さな蜥蜴。フェリシエの大切な友達。


「何か誤解なさっているようね。わたくし、婚約破棄されて清々してます。この上政略結婚なんてまっぴらだわ。これからもずっと、この子と一緒に、ここでのびのびと暮らす予定ですの。婚約のお話はお断りして下さいませ。では、ごきげんよう」


 そう言い捨てて歩きだしたフェリシエに、今度は慌ててすがりついてくる叔父。なんなのだ。鬱陶しい。そして手がベタベタして気持ち悪いので本当に離して欲しい。


「いや、フェリシエ、待ってくれ!お願いだっ!頼む!お前がこの話を受けてくれないと、この国が大変なことになるのだっ!」


「大げさな」


 ふんっと鼻で笑ったフェリシエだったが、叔父は本当にあたふたと慌てている。王太子殿下に婚約破棄をされ『傷物』となった身で、よもや縁談を断られるとは思っていなかったのだろう。馬鹿にされたものだ。相手が誰であろうが、フェリシエの気持ちは変わらない。しかし、


「今度の政略結婚の相手は!竜王陛下なのだっ!」


 その言葉に、さすがのフェリシエも目が点になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る