イフリート襲来!正体がバレた!

 このまま、幸せな日々が続くと思っていた、ある日、その事件は起こった。



 その日も私は、冒険者の相談事に乗っていて、そろそろ解決しそうだな、思っていると、急に警報が鳴った。驚きながら、部屋を出て、エントランスに行くと、魔王軍幹部の一人が街の近くまで来ているとの事だった。緊急で冒険者たちが集められて、王国の騎士団と協力して、対処する様にと、王様からギルドへ連絡が来ていた。


 魔王軍幹部……この辺りに出没したということは、多分、元部下の一人のアイツだろうな……と予想して、冒険者と共に街の外へ出た。城門の前には、予想通り、炎に身を包んだ、炎の精霊……元部下のイフリートが居た。


「愚かなる人間共よ……燃え尽きるがいい……」

 イフリートは右手を、こちらにかざして、手から炎の玉を撃ち始めた。冒険者たちが一つ一つ、炎の玉を打ち返したり、かき消したりしたが、徐々に劣勢になっていった。


「ははははは!人間共!そんなものか!」

「くっ……皆、耐えろ!そろそろ騎士団が到着する!」

 数分後、門から騎士団が出てきて、反撃の時間になった。ふと、騎士団の方を見て、私は驚いた。アリスが鎧に身を包んで、馬に乗っている。


「アリス部長!何をしているんですか!」

「見て分からない?元勇者パーティーの実力を見せつけてやるのよ」

 騎士団の先頭に立っている、団長らしき男の掛け声と共に、数十人の騎士団がイフリートに突撃した。イフリートの放った炎の玉に、何人かが吹き飛んだが、お構い無しに突っ込んでいく。氷の魔法を付与された剣で、何人もの騎士が、イフリートに斬りかかった。


「ぐっ……なかなかやるではないか」

「皆の者!このまま押し切るぞ!」

 騎士団の大半が、イフリートに再度、突撃した。


「アリス部長!逃げて!」

 私はアリスの元へと走った。イフリートは、グッと全身に力を込めて、両手を天に向けた。半径数十メートルに渡る、大爆発を起こすイフリートの必殺技だ。発動まで、あと数秒しかない。


 もう、限界だ。私は高速移動魔法を使って、イフリートの目の前に移動して、全力でイフリートの顔面を殴った。


「うわあああああ!!!」

 勢いよく吹き飛んで、地面に叩きつけられたイフリートは、直ぐに立ち上がり、こちらを見た。


「人間ごときがよく……も……あれ?」

 イフリートは、私を見て、動揺した。


「フ……フェイ様じゃないですか!」

 イフリートは、驚きの余り、地面に座り込んだ。


「フェイ、知り合い……なの?」

 アリスに疑問を投げかけられたけれど、上手く言い訳を考える事が出来ずに、私は押し黙ってしまった。


「フェイだと?人間如きが、フェイ様を呼び捨てとは、自分の身の程をわきまえるんだな」

 ゴホン……と咳払いをして、イフリートは続ける。


「この方は、元魔王軍四天王が一人、最強にして、最悪の災厄。フェイ・アブスト様である!!!」

 あー、終わった……私は天を仰いで、溜息をいた。


「フェイ……この魔族が言ってる事は、本当なの……」

 アリスが震えた声で聞いてくる。もう隠せない。私は、軽くうなずいた。そして、大きな声で城門の方を見て、言った。


「皆さん、ずっと隠していて、すいませんでした!私は元魔王軍です。魔王軍の仕事に嫌気が差して、王国ギルドに再就職しました。魔王軍で働いていた事は、誰も知りません。勿論、ギルド長もです!この事の責任は、誰にもありません!今まで、お世話になりました!最後に、ご迷惑を掛けた謝罪と言っては何ですが、このバカを吹き飛ばしてきます!」

「え?フェイ様?」

「イフリート……お前の所為せいで、私のセカンドキャリアは台無しだ。覚悟は出来ているんだろうな?」

 オーラを解放して、両手の関節を鳴らした。


「ひっ……ひぇっ」

「次いでに、魔王に伝えろ。今からぶち殺しに行くってな!」

 全力でイフリートの腹に拳を叩きつけた。魔王城の方へと吹き飛んでいくイフリートを確認して、私は城門を背に、ゆっくりと魔王城の方へと歩き始めた。


「待ちなさいよ!フェイ!」

 アリスが私を呼んだ。振り返らずに、私は言った。


「アリス部長……本当に、すいませんでした。魔王軍との関わりを断ちたくて、魔王軍に所属していた事を隠して、就職活動をしてしまったんです。もう会うことはないでしょう。貴方の部下でいられて、幸せでした」


「フェイ!上長命令よ!戻りなさい!」

「辞表は、後で郵送します。では!」


「おっと、そうはいきませんよ〜」

 高速移動魔法で、ギルド長のオーフェンが俺の目の前に立った。


「ギルド長……貴方にも謝らなければ。本当に申し訳なかった」

「何故、謝るのですか?後ろを見なさい、フェイ」


 オーフェンに言われて、渋々後ろを振り返った私の目に飛び込んできたのは、私と関わった冒険者たちが、笑顔で走ってくる光景だった。


「フェイ、貴方は確かに元魔王軍で、私達の敵だった。けれど、過去は過去です」

「しかし、ギルド長……」

「過去は魔王軍。現在は新人ギルド職員。それでいいじゃないですか」

 冒険者たちが、叫びを上げている。その叫びが、徐々に大きくなるのを、私は聞いた。


「フェイさーん!行かないで!」

「フェイさん!戻れよ!」

「フェイ!俺の相談に乗ってる途中だろ!」

 冒険者たちの様々な暖かい声を聞いて、私は泣きながら、きびすを返した。


「戻っても……いいのでしょうか?」

「当たり前です」

「元魔王軍四天王でも?」

むしろ大歓迎ですよ。即戦力じゃないですか」








 私は、冒険者ギルドへ戻った。









 

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