第20話 急加速するシナリオ

何が起きたのか全く理解できない。今の状況を端的に表現するのなら希望にあふれていた時間が、それに甘んじていたことによって絶望に染まったということだろうか。あまりにも自由な時間が遂に終わりを迎える。何か革新的なピークを迎えたはずなのに、それが突然潰えては終わりを迎える。これはいったい何なのだろうか。全くわからない。


 あの時感じた輝きから急速に時間が経過していた、今私は何を体現しているのか、それすらわからない。あの時感じていた私の中に対する心の在り方、それに釘をつけていた。その釘を見ると今の私は分かる、明らかに廃れているのだ。


 こんなことをするために私はこの場所にいるのではないはずなのに。


「ミケレ様ああああああああああ!」


 突如目の前に現れた緑陰の魔女は私の体を魔法で貫いたのである。


「終わりだ」



 そうかあれは走馬灯だったのかしら。


「ここは」


「またここに来たの?」


 沈む世界が徐々に晴れていく。私はくたばったのかしら。


「なんでよ、なんで!」


 私は感情を爆発させる。


「いきなりどう考えてもハードモードになりすぎでしょ! こんなのは受け入れられない、絶対に嫌ですわ」


 あれだけ全てが自由だったのに、充実した満たされた世界が、この縛りのせいで使命の枷として私を縛り、知らぬ間に私を縛っていたのである。


 我慢をしていたのだ。張り詰めて張り詰めた先に今回の思い切った行動があった。拒まれた殿下に近づき嫌いなエレメナと話し合い、強引に緑陰の魔女へと立ち向かった。


 でも全てが無駄だった。私の心をセーブしていた琴線が一気に切れたのである。


「ほらほらほら、だから言ったでしょこうなるって、いい加減気づくべきだね」


「あなたは」


「やっと気づいた?」


ふと気が付くといつもの崩壊ループ世界、そして目の前には未来の私がいた。


「記憶は戻ったの?」


「まあね」


「どうやって」


「色々あってね」


「そう」


 だったらもっと早く助けに来なさいよ。


「あなたはいつもそうやって助けにくるのが遅いのだけれど普段何を考えているのかしら! 全く読めないのよ」


「だから言ったでしょ私は多くは干渉をすることができない」


「じゃあ、あなたが私に会いに来る意味はあるのかしら?」


「分からないわよ」


「私はあまたの時間軸で多くの感情の揺れ幅を味わってきましたわ。その先にもう方針が立ちませんの」


「やっとその域に達したのかね。要するにまとめきれないんだろう?」


「そういうこと?」


「あまたの情報が現在の私の周囲を囲んだのは分かったよ? でもそれをうまく情報化するのが難しいそういうことだよね」


「確かにそれは今の私の状況をうまく言語化しているわ」


「でもまだその程度だよね。私はあなたより数多の情報処理をして頭の中でまとめを錯綜している。だからこそあなたにはできないことができるんだよ」


「それじゃあどうやって情報をあなたはまとめたの。これほどですら辛いものなのに」


「それはまあ地獄だったね。あまたの情報の中にはまとめきれない先の領域があるんだよ。情報量が増えるほどできる領域が増える、つまりその先のステージへと思考が進化するんだ。私はこの進化した思考であなたを最良の未来へと導く」


「何を言っているか理解できないわよ」


「無理もないよ、思考を進化させた先に私がいるのよ。だから多くは考えない方がいい」


「じゃあ、早く導いてよ。もう苦難はうんざりですわ」


「そう、分かったわ。私ねちょっと記憶喪失時に方針を変えようと思ったの」


「方針?」


「ええ、このままでは私がダメになるわ。だから一気に終わらせてあげる。もうヘタは打たない」


 なんだろう未来の私の手の中に光が集約されていく。


「これこそ私が描いた最高の道しるべ、あなたにあげるわ」


「でもそんなことしてあなたが」


「ごめん正直黙っててつらかった。私は記憶喪失を無効化するために、時間を超える力の中の制約を幾つも破ってきた。もうここに居られる時間も長くないの」


「そんなことって」


「さよなら昔の私、あとは任せたわよ」


「待ちなさいよー!」


 世界がねじれる。時間が逆行する。それでも私の記憶は残り続けるのだった。




「あとは任せたわよ」


 未来の私に託された、でも私にこたえることができるのかな。


「指針がなくなってしまった。どうすればいいの」


 未来の私と別れたことにより、意識は消失寸前であった。そんな時未来の私がくれたブレスレッドがかかっていることに気づく。


「これが未来の私が託してくれたポートフォリオ」


 これから起きる事象の解決策が全て書かれている気がする。おそらく私の何千倍もループを重ねてきた未来の私の道しるべのはずだ。これを使えばもしかして。


「ここで終わらさせてもらいますよ」


 私は勝ちを確信するのだった。

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