追放された貴族家長男の俺。最下級ゴミスキルと馬鹿にされた『鑑定士』スキルで大商人になって、ついでに最強にもなって、見下した奴を全員見返してやる!

夢実千夜@Senya_Yumemi

第一章 1 『馬鹿にされた俺のスキル、結構使えるんですけど?』

「おいっ店主、ふざけてんのか!?帝都生で希少品だぞ?それが、これっぽっちなんて聞き捨てならねえ!」


 筋肉質で黒く焼かれた肌の巨漢だ。

 彼の背丈と同じくらいの両手斧が睨みを効かせている。

 彼も商人だろうか?


 さっきから露店の店主とそのいかつい商人が何やら揉めている。


 恐らく、ハルバルーン王国帝都で品を仕入れて、この街で高く売ろうっていう寸法なのだ。

 それが昨日の市場相場の大荒れで、彼の思惑が外れて大赤字に。


 そんなところか?


 まったく露天商も商売にならないって感じだ。


「ですから、落ち着いて下さいな旦那様。こちらの品はつい昨日、相場ががっくり落ちてしまったとさっきから言ってるじゃあありませんか?」


「んなわけねえんだよ!いきなり相場がここまで落ちるなんてこたあねえんだよ‼︎」


「とにかく落ち付いて下さい、旦那様。何度かご説明しました。ハルバルーン王国王子の勅命で、そちらの商品の大量生産が採決されて、生産方法も公開されてますし。そのせいで、希少性が無くなってしまったと。生産レシピは誰もが知るところなんです」


 血相変えて店主に喰って掛かるところ、額に汗を垂らしながらなんとかその商人を抑えているところだ。

 この勢いでは店ごと潰されるのではという状況を必死で堪えている。


 ――この商品か?


 もしやこの商人、昨日の勅令発令を知らないでこの街でさばこうって気だな?


 ……ふんっ!コイツは商人として二流、いや三流以下だな?


 もっとも『天賦の適正職』と『天賦のスキル』に愛されなかったって訳か。


 まあ、そうなると世界から愛されなかったって事になるな。


 お気の毒に――



 下級職にゴミスキルと卑下ひげされた加護を授かってしまった俺も、あまり他人の事を馬鹿に出来ないが。


 それが原因で、由緒正しいハルバルーン王国准男爵位アルフォンス家長男の俺が、追放されたって事は知られたくない過去のひとつだ。


 それにしてもだ。

 この商人の慌てよう……


 なにか引っ掛かる。


 勅令発令ともなるとそりゃあ影響力は絶大だ。

 市場相場の荒れの影響はこんなんじゃあ済まない。他の品にも波及するに決まってる。


 昨日の相場大荒れで高騰する品もあれば、このように価値が暴落してしまうものだってある。


 だから、商人たるは情報が命――


 だよね?グラ嬢?


「ふん!人の失敗を見て良い気になってると、ルディも足元すくわれるかしら?三流はどう足掻いても三流、そこらの家畜豚と同じなのよ」


「あぁあ?グラ嬢がいちばん酷い事言ってるよ?今どんな顔して言ってるのか想像出来ちゃうしね?」


「その呼び方いい加減やめてくれると、こんな不愉快な感情を生まなくて済むのよ。そんな事より、早くティアーノギルド商会に戻った方が良いかしら?グティーはこうも三流ニンゲンの臭いばかりで鼻が曲がりそうなのよ」


 へそ曲がりなコイツとなんとか信頼関係が生まれたお陰で、今では脳内会話まで可能になった。


 友達?相棒?


 俺が勝手にそう思っているだけなのかもしれないが、脳内会話が出来ないとなると、他人ひとは俺の頭が壊れてると思うだろうな?


 まともな人間なら、ただの木剣と睨めっこしながら会話するなんて事はきっと無いのだから。


 でも、本来の姿は少しだけ……


 いや、大いに違うのだけど。


 他人から見れば、ただの木剣と話してるように見えるだろう。


 脳内会話。

 一種のテレパシーといったところだ。


 その脳内会話が出来るまで、だいぶ時間が掛かった。

 

 もっと言うと、信頼されるまでと言った方が良いか?


 どのタイミングで出来たのかは分からないけど、


 気付いたら出来てたって言っておく。


「そうだね?もうそろそろギルド商会に戻ろっか。依頼も早いとこ片付けてしまいたいし。目標金額にもこれをさばけたら結構近付くしね?」


 俺は引いていた馬車の荷車によじ登って、山のように積まれた【ファングの角】と【シャドーラビットの肉塊】に目を移した。


 ここまで来て大赤字でしたじゃあ、この三流商人と同じだからね?最後の確認っと――


「グラ嬢。売る前に商品の確認したいから、少しだけ出て来てもらえるかな?荷車の中だし人目には付かないと思うから――」


「こいつらとの戦いで魔力消費したから休んでいたかったところだけど、仕方ないかしら?」


「帰り道はさ?寝てて良いから――」


「当然なのよ――」


 荷車の背扉を閉めて背負ってる木剣を置くと、カタカタと刀身が揺れる。


 だいぶこの光景に慣れて来た。

 ここから白い閃光を放って、本来の姿に変わるんだ。


 閃光が次第に終息すると、背丈は俺の胸あたりで背中まで伸びる金髪が揺れ踊りながら、透き通るような肌をして、ブルーの瞳で俺を見上げていた。


 妖精のような綺麗な顔立ちのせいか、俺は何度もこの光景を見ては呆然としてしまう。可憐とは何か?を具現化させたような容貌。それだけ刺激的な金髪美少女なのだ。


 その美少女は俺の予想通りの表情を浮かべていた。

 

 口を尖らせて頬を少し紅く染め、今すぐにでも怒号が飛んでくるような、いや、そんなではなく。

 突き刺さるような冷酷さを抑えた程度かな?

 そんな感じのじと目を浮かべていたのを見ると、ほんの少しだけ安堵感を膨らませた。


 それでも、小言のひとつやふたつは飛んでくる。


 そんな気配を察知しながら、きらびやかなドレスに似たロングスカートのフリルがより一層この美少女には似合っているなと感心した。


 この美少女と初めて出会った時と比べると、表情や態度は少しずつ柔らかくなって、俺に心を開いてくれていると思える。

 なんとなく距離感も縮める事が出来たと思う。


「用件があるなら早く済ませてしまいたいかしら?」


 この反応も俺の予想通りだ。

 でも、以前と比べると悪い気はしない。


 少女の視線は俺から変えられて、山のように積まれた商品に向けられていた。

 


「肉塊くらいなら俺でも出来るんだけど、角は流石に……状態を確認したくてね?商品の質が悪化してたら売値に響くからさ?なるべく高く売りたいだろ?」


 艶やかな金髪を少し揺らしながら、こくりと小さく縦にうなずくのが見えた。


「回復したばかりの魔力を使うのはしゃく……まあ仕方ないから協力して上げるかしら?」


 そう言って【ファングの角】に向けて手を差し出すと、自称グティーと口にする美少女の前に、甲高い音と共に刃のような風か気流の類いが手の先に集結されて、【ファングの角】にそれが放たれたと思うと、角は綺麗な断面を見せてふたつに割れた。


「グラ嬢ありがとう。もう休んで良いよ?……うん!劣化は見られないね?念の為、相場だけ確認しよう」


 ――加冠の儀で授かった俺の『天賦のスキル』鑑定士の発動条件、実物に手を触れないと発動出来ないってところがいちばんのネックなんだよな?


「――鑑定士!」


 スキル詠唱すると、手に触れた【ファングの角】から文字列と連続した数字が投影された。




===============


【ファングの角】

中間素材 精製素材


『取引情報』:

勅令発令により生産過程に置ける

中間素材として用いられる為、高騰中。

値幅:350%


『品質』:A


『市場相場』:


【ハルバルーン王国帝都】

買値:430

売値:320


【王国領内ティアーノ】

買値:630

売値:480


【国境アーラルディア】

買値:830

売値:710



===============




「うーん……。目視だと劣化は確認できなかったけど、やっぱり少し品質が落ちてるね?輸送時間を考えるとまあ妥当かな?【国境アーラルディア】売値710コル……うん。あれだけの大荒れがあったけど大丈夫だ。勅令発令直後に市場相場確認しておいて正解」


 さっきの店主と商人、まだめてるかな


 この『鑑定士』のスキルを授かった当初、散々見下されて罵倒されて、それなのにこんなにも使えるスキルだったなんてね?


 これのおかげで世界の市場相場だって瞬時に見れるし、商品の特性も一目で分かる!

 こんな便利なスキルだったなんて思ってなかったよ。


 この世界の市場相場を閲覧しようと思うと、その都市その都市にあるギルド商会まで足を運んで、面倒なギルド登録照会をパスしなければ、市場相場を閲覧できない。

 それも、その都市の相場だけだ。

 

 だから、商人たちは集団を作って、独自の情報網を構築しなければ商売が成立しない。集団で情報を伝え合って交易を行うしか手段が無い。


 でも、俺にはこのスキルがあるから集団に属せずとも商人としての商いが出来る。


 もっとも、このスキルの素晴らしいところってのが、いつでもどこでも、どんな品であっても、


 仕入れるなら『最安値の都市』、売るなら『最高値の都市』の最適解が一目瞭然なのだ。

 商人としての俺にとって、ピッタリで至極使い勝手の良いスキルだった。


 そんな素晴らしいスキルだが、厄介な事がある。


 全ての品が、どんな都市でも簡単に手に入るって訳では無い。

 より利益を上げたいのであれば、高単価の品を求める。

 しかし高単価になればなるほど希少価値が高い。

 もっと言うと、収集難易度が高いって訳だ。


 現状、そんな高単価で取引されている品は、高ランク冒険者や『天賦の適正職』『天賦のスキル』に愛された者で強力な神々の加護を駆使して、牛耳っては独占している。


 そんな希少性の高い商品取引は基本、王族や貴族が独占している。

 それに、こうして今起きている相場の大荒れ。

 王族の一声で意図した相場操作が容易に出来てしまう。


 どうせ利権争いや派閥争いに利用して、忖度やらしがらみだらけの政治的判断であろうな。


 そこに貴族家を追放された俺なんかが割って入ってしまおうって思惑だ。

 いや、正確に言うと、

 この『鑑定士』さえあれば、そこに割って入って逆に利用出来るかもしれないって話だ。


 つい最近になって気付けた事だが……


 もっと簡単に言えば、


 『天賦のスキル』様様って訳だ!

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