第16話 橋上の決戦(後)-2
「魔法剣士」――、私たち剣士や魔法使いと比べて数は少ないけど、一定数これを名乗るやつは存在する。だが、単なる「剣士」や「魔法使い」と比べてその実力を疑われることが多い。
その理由はとても簡単だ。
剣士として一流と認められなかった者、魔法使いとして大成しなかった者、こうした者たちがその道に見切りをつけて名乗ることが多いからだ。
大雑把な言い方をしてしまうと「器用貧乏」な連中。それが私のもっている――、そして多くの者が思っている「魔法剣士」のイメージだった。
唯一、シャネイラを除いては……。
王国騎士団を含めても、「王国最強」と言われる私たちのギルドマスター、シャネイラ・ヘニクス。
あいつも「魔法剣士」を名乗っている。
一流の剣士と魔法の道を極めた者が完璧な連携を成して戦うことができたら?
シャネイラはこれを単身で成せる人間と言われていた。剣で戦うだけなら誰にも……、あのグロイツェルにすら負けない自信がある私でも、歯が立たないと思う存在。それがギルドマスター、「不死鳥」のシャネイラだ。
まものの群れの切っ先が私たち剣士部隊に触れようかという瞬間、そいつらは凍り付き、そして砕け散った。シャネイラは氷属性の魔法をもっとも得意としている。
「これから魔法使いの攻撃は、距離のある後ろの集団に集中するでしょう! 先頭のまものを蹴散らすのは私たちの役目ですよ!」
シャネイラが珍しく大きな声を出して、まものの集団に斬り込む。私たちもそれに遅れまいと一斉に斬りかかる。
普通は数をもって押し寄せてくるとその勢いに飲まれてしまう。
だが、まものの勢いは確実にシャネイラの手前で止まっていた。
まるで黒で覆われた空間に美しい刺しゅうを施すように、流れるような動きでシャネイラは敵を蹴散らしていく。
斬撃の後のわずかな隙を自らが放つ魔法で完璧に埋めていた。
剣撃と魔法の併用をこれほどまで器用にこなせるものなのか……。
戦場であるにもかかわらずその動きに見惚れてしまうほどだ。
「カレン、私に続きなさいっ! あなたの突破力が必要です!」
私はシャネイラの後ろに続いて剣を振るう。後ろは見ない。サージェたちが確実に私の背後を守ってくれる。右で一閃、敵を切り裂き、左の剣でその隙を補う。大量の黒い飛沫が降りかかるがかまいはしない。
黒い塊の真ん中を抉るように魔法使いの攻撃は私たち前線に及ばないところを確実に崩していた。散り散りになったまものは後ろに控える剣士たちが個別で斬り伏せている。
まものはその不気味な黒い体に私たちと同じように剣や斧を持って襲い掛かってくる。武器を手放したやつは素手で殴りかかってくる。
前に立つ者はすべて斬る。
まものの断末魔が耳をつんざく。
顔に流れるのが自分の汗なのか、まものの返り血なのかすらもうわからない。
私たちの剣は、魔法は、そのすべての勢いは決してまものの大群なんかに後れをとらない。
問題は……、これがいつまで続くのか!?
◆◆◆
「あのっ! トゥルー様!?」
トゥルーの背中に身を預けているラナンキュラスは彼に問いかけた。
「どうした、ラナちゃん!?」
馬に揺られ、蹄の音と相まって彼女の声は聞き取り辛いようだ。ラナンキュラスもそれを理解して大きな声を、トゥルーの返事も密着している者同士とは思えない声量だった。
「こんな時にあれなのですが……、服装や履物をどうにかできないでしょうか!?」
ラナンキュラスの格好は戦場へ赴くにはあまりに場違いな服装だった。
「ずいぶんと可愛らしい恰好をしているけどデートの帰りだったのかな!? 王国のローブを上から纏ったらいい! 履物も現地でいくつか予備があるはずだ! 杖が必要ならそれも準備させる!」
トゥルーの「デート」の問いかけに彼女は否定を返さなかった。
ふたりを乗せた馬は街を抜けて、さらに北の城門を抜けていく。トゥルーは目的地のアルコンブリッジのある方角へ目を向けた。その先の空だけがわずかに濁って見えた。
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