◆第9話 不感の才能(前)-1
私はこの日、再び魔法闘技場に来ていた。
初めてここに来てから7日後、ちょうどオズワルド氏と改めて会う約束をした日だ。ゆえに隣りには彼の姿がある。ただ、この約束を取り付けた時は、またここに来る予定はなかった。
今日はここ数日の中でも気温がやや低く、ほんの少し肌寒さを感じるほどだった。ところが、今はまったくそれを感じない。闘技場内の人数とその熱気が気温を引き上げているのだろう。
試合の開始時間よりかなり早めに来て一番先頭の立ち見のスペースにずっと陣取っていた。待ち時間は、オズワルド氏と話をしているとそれほど苦痛には感じない。
「そろそろ選手入場の時間ですね。いやぁ、前回よりもさらに観客が集まってますよ」
彼は観客席をぐるっと見回した後にそう言った。表情はとても明るく、長い時間ここに立っている疲労を感じさせない。彼には付き合ってもらって悪い、と思っていたが、その顔を見ているとまんざらでもないのかと思った。
この後始まる「決闘」をきっと楽しみにしているのだろう。もちろん、それは私もだった。ただ、私の場合は楽しみと同じくらい心配や不安の感情が入り混じり、非常に複雑な心境の中でこの時を迎えていた。
【アレンビー・ラドクリフ VS. パララ・サルーン】
今日の決闘の対戦カードだ。
◆◆◆
魔法闘技場には、一般の観客が入れない「天覧席」がある。出場する魔法使いの所属するギルドの代表者や王族専用の観覧席なのだが、私は今日その一か所に来ている。隣りにはラナが座っている。
ここに着くまで被っていた真っ黒なローブを脱いでいた。この席はほぼ個室のようになっていて、他の席とは隔離されている。選手入場の時間が近づいてきていた。
「さてと……、それでは大魔導士ラナ様の解説を聞きながら、パララちゃんの応援といきましょうかねぇ?」
「またそういうこと言って――、あんまり茶化さないでよ?」
ラナは軽くむくれた顔を私に向けた後、闘技場に視線を戻した。スガも誘ってみたがどうやら別の予定があるらしかった。彼もいろいろと顔が広くなってきているようで、私たち以外の付き合いもあるのだろう……。
魔法闘技の観戦自体は初めてではない。特別に好きなわけでもなかったが、ギルド内にはファンもたくさんいて、その話題をよく耳にしている。今からパララちゃんが闘う相手「アレンビー」についても、詳しい人間にどんな魔法使いか聞いていた。
「相手は連戦連勝の猛者らしいけど……、そんな魔法使いがなんでパララちゃん指名で決闘なのかねぇ?」
「さあ……、どうしてでしょうね?」
ラナは表情を変えずに闘技場に目をやっている。まだそこには誰も立っていない。これから始まる闘いに思いを馳せているのかもしれない。
少しすると観客席が大きく沸き立った。いよいよ選手入場か。大歓声の渦の中、ふたりの魔法使いが姿を見せた。決戦の場にアレンビーと、パララちゃんが降り立ったのだ。
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