第8話

「ん…」


仄かに香るタバコの香りと喉の渇きで、私は目覚める。


すると、目の前にあったのは…


「えっ…」


「あ、起きたか。智枝。」


頭だけ向けて微笑む隆の広い背中一面にあったのは…鎧を纏った女性の絵。


「これ…なに…?」


「ん?…ああ、巴御前の…刺青?」


ちょっと困ったような顔の隆。


と言うか…


「カッコいい…!!」


「……へ?」


キョトンとする隆に、私は身体を起こして隆の背中をまじまじと見つめる。


「えー!!なにこれなにこれ!!カッコイイ!!どうやって書いてるの?絵の具?」


「いや、皮膚に針刺して色を…」


「すごいや隆!!痛いの!?しかも巴御前て…もしかして私の事、考えて描いてくれたの?」


「えっ!?あ、まあ…お前のこと、考えては選んだかな。…つか、お前…男がこんなモン背中に彫ってたら、普通…」


「ん?」


はしゃぐ私に対して、どこか複雑な顔をする隆に首を傾げていたら、脱ぎ捨てられてた隆の服に入ってたスマホが鳴る。


「悪い。電話…」


「ああうん。出て?」


私がそう言うと、隆はベッドから起き上がりスマホを取る。


「はい。秋永です。……えっ!?でもその件は既に……ああ、ハイ。分かりました。すぐ行きます。」


少し会釈をしてスマホを切ると、隆は私の方を見てすまなさそうな顔をする。


「悪い。仕事でトラブった。行かないと。」


「えっ…だって、まだ朝来てない…夜中だよ?そんな時間に仕事だなんて…」


「弁護士に、時間なんて関係ねーの。ごめんな。1人きりにして…残った服はそのままにしとけよ。後でまとめて送る。フロント行って手続きはしとくから、ゆっくりしてけ。ここ、ルームサービスあるから、酒とか好きに頼めよ。金は気にすんな。」


そうして服を着ていく隆。


お金や食べ物なんていい。


側に、一緒に朝を迎えたい。


でも、その急ぎぶりから、本当に大変な仕事なんだと自分に言い聞かせてこくんと頷くと、隆は私の側に来て、チュッとキスをする。


「ごめんな。こんなヤリ逃げみたいな別れ方で。また必ず連絡するから…じゃ。」


そうして部屋から出て行く隆を見送り、ふと、シーツを捲り自分のアソコを見る。


「隆…避妊してない…」


白濁した体液がアソコから出てて、それが隆のものだって、それがどう言う結果につながるか、経験ない私でも分かることで、ベッドから立ち上がり、カバンからスマホを出して、基礎体温を付けてるアプリを起動させる。


「うわ…ギリギリ…微妙…」


グラフを見ると、排卵日間近に届いていて、私はそっと下腹部に手を添える。


「出来たら、責任とってくれるよね?」


避妊しなかったんだもん、好きだって言ってくれたもん。きっと喜んでくれる。…はず…


ちょっとの不安と、それに勝る喜びを胸に秘めて、私はシャワーを浴びるため、浴室に向かった。



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