狭間の記憶

真野魚尾

第一部

絵空事

 真冬の星空はとくに綺麗だと思う。


 仕事帰りにふと空を見上げると、黒いキャンバスに散らばった、冷たい輝きに目を奪われることがよくある。




 あれは確か高二の冬休み。公園のベンチで、私の隣には初恋のあの人が座っていて、一緒に冬の夜空を見上げていた。


 お互い言葉を交わすこともなく、それでも寄り添っているだけで心が満たされていく、濃密な時間だった。




 今の私はもう若くはない。

 隣にいるべき人もいない。

 すべては変わってしまった。


 それなのに。


 真冬の星空はあの日とちっとも変わらない。それが私をより一層淋しくさせる。


 だけどもっと淋しいのは、今言ったような思い出は存在しないし、そもそも私には恋人などいなかったという事実だ。

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