第56話:魔王vsドラゴン。勇者パーティ必要ですか?

 

「上杉謙信を討つ!」


 甲高い声が岐阜城の大広間にコダマする。


 勝家おじさんが越後のドラゴン、上杉謙信に手取川で討ち取られた件です。

 光秀と違って信ちゃんが織田家ついでから支えてきた重臣ですからね。ちょっと謀反したこともあったけど、きちんと帰って来たし。


 でもあの織田家最強の武闘派集団がやられちゃうとか、やっぱり謙信は軍神だね。越後の龍、恐るべし!


「しかし信長様。現在摂津で本願寺とにらみ合い。播磨で毛利の支援を受けた宇喜多や赤松。若狭武田を攻略し始めたばかり。佐久間殿、羽柴殿、滝川殿、それぞれ退くことはかないませぬ」


 総務兼(株)安土建設取締役の能面五郎左さんが、信ちゃんをいさめる。


「若狭は後じゃ。滝川の軍勢を俺が直卒する。あとはキンカンの部隊を使う」


「お待ちください。そのように山陰への圧力がなくなれば毛利勢、山陽に支援を集中いたしまする。たちまち佐久間殿が窮地に」


 本願寺って民衆の支持受けていて、畑から兵士が生えてくるレベルの動員力だからねぇ。兵糧さえあれば兵力整えて逆襲に出てくる。


「何かあればキンカンを援軍として派遣する。心配無用」


 え?


 俺、北と西、両方で戦えと?

 いくら機動部隊と言っても加賀と摂津、距離200km以上ある?

 これは断ろう。

 うん。

 断らねば、大失態をしてしまう。


「恐れなが……」


「キンカン、喜べ。貴様の鍛えてきた連中をとことん使えるぞ。励め」


 そんな無茶な、それこそ正史のようにハゲます。

 使い勝手の良い部下は使い倒せって。どの時代も同じなのか。令和では経験したことのない俺。頼りにされている事ってツライ。


 普通の人は嬉しいんでしょうね。

 でも! 光秀は違います! おうちへ帰りたい。


「しかし、5000を超える兵が50里を超える道のりを移動するには、いくら騎馬と言えども……」


「できる。キンカンならばな」


 信ちゃん、そんないい顔して光秀見ても現実は変わりません。

 でも……、生まれてこの方、こんなに人に頼られたことない……


「……は。承知いたしました。しかし時間をください。せめて一カ月、さすればその難題、見事こなして見せましょう!」


「よう言うた。まずは越後の龍を倒す。何かあったら西へ向かえ。そのための機動部隊じゃろう。桶狭間から12年。拾った才能、成果を見せよ」


 そりゃさ。

 最初に大見栄切ったよ。この才能、使って織田家を改革して信ちゃんのためにめいっぱい働くって。

 でもそれは採用試験で面接の時「ちょっとだけ働きます」なんて言えないじゃん!


 あ。そうだ。

「目いっぱい働く」宣言している連中がうちには沢山いる。

 そいつらに丸投げしよう!

 なにも俺が働く必要はない!

 光秀、賢い! 大賢者になれるぞ!

 でも勇者にはなりたくね~。誰かにやってもらいます。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 1672年9月

 加賀国。犀川南岸



「やはり引き返してきました。龍は戦が好きらしいです」


「農民はつらいだろうな。そろそろ稲の刈り入れだろうに。十兵衛よ、貴様はこの戦の世を終わらせるために機動部隊を作ったのだろう? 戦火を消す役目。正しく韋駄天。いや火事場に飛び込む勇者だな!」


 利家のに~ちゃん、君に全部それ任せます。

 この軍団あげるから加賀藩に就職させてください。やっぱ俺、織田家には向いていないっす。第2新卒採ってくれない?


「上杉勢15000。織田の軍勢は32000。いつも敵の3倍で戦に臨む織田家としては、少々不安ですがこれ以上は指揮命令系統に不安があります」


 そうなんだよね。

 謙信の強いとこって自分の指揮が伝達しやすいような規模に軍勢を押さえている事なんだよね。

 自分でも「10000くらいがちょうどよい」と言ったとか。


 でもなぁ。

 その3倍の兵員を集めても、それを撃破するのが軍神だよね。

 だから先に加賀の金沢南方に到達して陣地構築を始めたんだ。野戦築城は専門の部隊を作って置いたから、結構素早くできた。


「渡し船は全て接収。もしもの時には手取川を撤退する用意もできました。浮舟もうまく使えます」


 浮舟って近代軍隊の仮設橋ですね。あれを渡し船でやる。たしか江戸時代もこの付近の川でやっていた。



「謙信の馬印、毘の旗が見えてきました」


「北方の守護神、毘沙門天か」


「龍など大蛇の親戚じゃねぇか。焼いて食ってやる!」


「そうだな。ドラゴンスレイヤーと呼ばれるだろう。貴様らは」


 あえて『光秀』とは言わない!

 俺、戦いたくないから。


「各大隊、準備は良いか?」


 今回は明智機動部隊だけでもマスケット銃が3000丁。

 ハスキー滝川の軍団にも3000丁。

 合計6000丁!

 謙信が真正面から攻撃して来たら、一瞬で軍勢が融けるでしょう。



「殿。越後への調略、成功しました。新発田重家謀反」


「ご主人様~。上杉の越中(富山)と能登の軍勢はこちらへこれませんです」


 そうか!

 謙信も後ろを気にしながら戦うことになった。

 長帯陣していれば、米の収穫が出来ないから上杉家の家計が圧迫される。田んぼを気にしながら戦う足軽の皆様も士気が上がらない!


 これで毛利が動かなければ!


「殿っ! 信長様より命令。至急摂津へ向かえとのこと。毛利の大補給船団が石山へ物資を入れ、一向宗の大規模な蜂起が始まるとの事」


 来たな。やっぱりこうなる。

 お手紙、まだそこら中に飛んでいるのか?

 あそこで将軍捕まえずに、「死んでいました~てへっ」とかできればよかったんだけど。


「よし。皆の者。これより予定通り、北陸大返しを始める。心してかかれい!」


 応!!!!


 秀吉君。

 また君の勲功、取っちゃう感じになっちゃったけどごめんね。

 天下は代わりに取ってあげるから、国譲りするよ。大国主みたいにいじめたり何度も殺したりしないでね。


 6畳1間で子作りに励んで、世界中にサブカル神社作るから。そこに子供たちは就職させるからさ。

 平穏な生活をさせてね。


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