第50話:朽木と将軍と言えば幽閉(秀吉視点)(第9章終わり~♪)

 

 <光秀視点です>


 1570年10月

 京の都。二条城



「放て~~~い!」


 ぱぱぱぱ~~ん!


「次。放て~~~い!」


 ぱぱぱぱ~~~ん!



 荒木君の先鋒、中川瀬兵衛のに~ちゃんが大通りを避けて、小路を縫うように前進してくる。


 結構、頭いいじゃない。

 某、IF戦記物の御大が書いた遺作『覇王信長の伝説』という作品に書いてあったイメージと違う。


 あの作品ではガラの悪いオヤジに描かれていたけど、臨機応変に攻めて来る。



 将軍を取り逃がしちゃったから、ちょっと光秀、頭に来てる。

 容赦はしないよん。


 俺たちの後から急いで駆け付けてきた第3大隊の4個中隊を、二条城の周りに展開させる。


 最初の狙撃で半数くらいの物頭以上の指揮官を討ち取った。

 それからわざと突撃させて、その度ごとに一斉射撃。

 大分、戦力削れたね。

 そろそろかな。



「全員着剣! 突撃~~~~っ、前へっ!」


 部隊設立から鍛え上げて来た奴が叫ぶ。

 こいつらは今では軍隊の背骨である下級士官や下士官になっている。

 徒武者や物頭クラスです。


 でも他の兵隊さんと同じ装備です。

 だって見分けがつくと狙われちゃうじゃない。

 下級士官と下士官は大事よ? いなくなると極端に戦力低下しちゃう。新兵さんに指導して戦力を維持するため、健康に気を付けることに気を配らないと。


 そんなのは20世紀以降では当たり前。こうして小隊ごとに戦力が高くなる。


 20世紀小隊は、科学的な戦力維持が必須。迷信とか宇宙人に頼ってはいけない。

「ア~メンソ~メンひやそ~めん」とか祈る奴がいたら、トモダチになる前に銃殺だ。



 すでに士気が崩壊、指揮系統も寸断されている荒木勢は潰走していく。


「このくらいでいいだろう。各自、鉄砲の整備を始めよ」



 でも悔しいな。

 どうやって13人衆の狙撃をかいくぐったんだろう?

 義昭の一行は。




 <秀吉視点です>



 1570年11月

 西近江。朽木

 羽柴秀吉



「なぜじゃ! なぜ、将軍である余がこのような辺鄙へんぴな谷に逼塞ひっそくせねばならん!」


 足利義昭、たしか天海が「最後の将軍」とか言っていたな。

 奴の未来視は外れたことがない。

 いや、光秀がからむと良く外れるか。


「今しばらくお待ちくだされ。織田家は既に多くの敵を四方に抱えました。必ずや上様の調停を望んでくるはず。それまでの辛抱」


 細川藤孝がなだめる。


「ええい。秀吉とやら。なぜあの時、余を西国へ行かせなんだ。古来権勢を誇るものは西国へ逃れ再起を図り、京へ攻め上るのが定石であろう!」


 天海もそう言っていたが、それではこのおれが出世できない。

 このまま将軍に寝返り西国へ行っても、兵も少なく地位もない。

 他の連中に埋もれるだけ。

 それよりも信長様の下で、もっと力を蓄えるのが吉。


 義昭をだまして朽木へ幽閉。その褒美として信長様から褒美として坂本の地に領地を頂いた。光秀の裏をかき奴の失態、おれの手柄としてやった。ザマァみろ。

 褒美は石高14万石。あの光秀よりも多い!

 しかも京に近く、その監視と守備につく大役を任されている。


 信頼されている。

 これを生かさねば。


 天海に言わせると、今後織田家は5つの軍団を編成するという。

 一つは佐久間様。

 今最大の戦力を指揮しているから妥当だ。

 次は光秀。

 奴は安全で何処へでもすぐに直行できる長浜に根拠地を置く。

 3つ目は北の守り。

 柴田様がつく。

 4つ目は滝川様。

 伊勢の国で大軍を編成している。


 そして5つ目。

 これをおれが任されると見ている。


 それにもかかわらず、あの坊主は将軍を西へ連れて行けという。

 だからこれは逆らった。

 俺の方が主人なんだ。

 あいつはおれを出世させる気があるのか、いまいち疑問に思える。


「しばらく。しばらくすれば、一斉に織田家を包囲している有力大名が侵攻を開始するでしょう。それまでの御辛抱でござる故」


 おれはなだめるが、本当に『一斉に』侵攻を開始するのか?

 抜け駆けする者もいよう。

 逆に様子見をしながら、先に侵攻を始めたものを囮にすることも考えられる。


 そしてこのおれは何処へ派遣されるのか?

 多分西だろう。

 それならば播磨から西の大名につなぎをつけておこう。

 いつか信長様に『謀反』するときのために。




 1570年12月

 東近江。長浜



 <光秀視点です>



「光秀様。今年の収穫は14万2055石6斗9合にて。年貢は4割でよろしいでしょうか?」


 寧々ちゃんが鉢巻しながら、手に持った複式簿記をにらみながら俺に報告してくる。


 正史でも秀吉君の領地の内政を見ていたとか。主に人事方面だったというけど、今、光秀の領地の内政を一手に引き受けている。


 なんかねぇ。

 黒古に美容と老化防止とか、いろいろな処置を受けたら、知識方面が異様にチートし始めたんです。

 ちょっと複式簿記の概念を言ったら、完璧なもの作っちゃったよ。


 でも。

 子どもは出来ないんだよなぁ。

 そっちはダメみたい。


 黒古に言わせると「あなたの方が問題なのですわ!」と。

 俺もきっと副作用で子供のできない体になっているのかも。

 養子を取ろうと言っても、寧々ちゃん聞かないんだよね。



「今年は年貢3割で1割は常備軍設立に当てて。武装は冬木軍需工廠から配布させるから」


「わかりました」


 最近ね。

 あのハイパー内政チート武将。

 石田三成をスカウトしてきたんです。現在算術を中心に教育中。


 欠かしてはいけないのは『対人スキル!』。

 これないと他の武将といさかい起して、明智勢がぎくしゃくする。

 まあ福島正則とか加藤清正はいないけど、そのうちガチ武将もスカウトしてくるから、仲良しになれるようにね。


 光秀みたいなコミュ障になってはいけないよ?


 それにしてもなんでしょ?

 長浜が光秀の根拠地?

 で、秀吉君の根拠地が坂本?

 全く逆じゃん!


 役目も全く逆。

 俺は緊急展開派遣部隊的な?

 だから今急遽、騎馬隊を編成している。


 赤色に塗りたいけど、そんな暇ないし第一塗料が高すぎ。

 水銀、この時代では辰砂使うなんてもったいないでござる。そんなのに使うよりも南蛮絞りで銅鉱石から金銀プラチナ精錬するんだ。


 さて。

 どんな色で塗ろうかな。

 騎馬鉄砲隊。

 ロマンだなぁ~♪

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