京都で文化侵略しよう!

第37話:傾奇踊りとMM踊り

 

 1568年2月

 京都。妙覚寺



 先月の本圀寺での戦いは、各地から駆け付けてきた将軍方の武将によって、三好の軍勢が四国へ追い返される形で終結した。


 俺は京都守護の任務で、信ちゃんが滞在する妙覚寺を起点として治安維持にあたっているところ。



「殿さん、少し体がなまって来た。馬と散歩してくる」


 慶次が右肩を回しながら、俺の30cmくらい上にある顔をしかめながら、お出かけ前の声掛けをしてくる。


 なかなか素直でよろしい。

 でも、これ本当に慶次か? あの傾奇者の。


 俺ってさ、結構ひねくれているらしい。

 精神年齢で50年近く生きていて、初めて自覚しました。


 やっぱり

「慶次は傾奇かないと!」

 傾奇くことで身体のなまりを解消してあげよう。


 で、現在少し陰謀中。


「慶次。お前にしかできない重大任務を命じる」


「なんだ? 面白い事か?」


 やっぱり面白くないとやらないんでしょね、こいつ。


「ああ、面白いぞ。ダン……踊りだ。これから教える踊りを、この京の都に流行らせるのだ」


 ゲームなんかじゃ、傾奇踊りってさ。安土桃山時代とか戦国時代末期に流行り始めたとかあるんだよね。


 でも最近のWeb小説って進化したよね。きちんと史実を元にしているらしい。


 出雲阿国が傾奇踊り始めたのは江戸時代になってからとか、びっくりしちゃうよ。

 だから1568年では、ま~ったくないっす。傾奇踊り。


 70年代になれば南蛮衣装なんかも入ってきて、信ちゃんなんか南蛮風の傾奇いた衣装使い始めるけどね。


 ああ、有名な教科書に出ている信長の絵。

 あれって秀吉が塗りなおさせたんだって。もともとの作品は相当傾奇いた衣装だったんだけどね。


 秀吉、何考えてるんだよ?

 絵は大切なんだぞ!

 作家にとっては子供のようなもの。それを勝手に直させるなよ。

 ちょっとだけ秀吉が嫌いになった光秀です。


 でも秀吉には好かれたいから、お口にチャック。



「うむ。面白いぞ。新しい踊りだ。まだ誰も踊った事のないものだ」


「今様か何かか?」


 今様ってあれ。

「人間50年」とか言う敦盛という踊り。

 踊りっぽくないんだよね。令和っ子のおいらにゃ。


 だから、やっぱこれでしょ?



 ◇ ◇ ◇ ◇



「なんであたしも踊らなくちゃなんないのよ! あたしは忍びよ? 目立っちゃいけないんだから!」


「ご主人様が喜ぶから、がんばるです!」


「みんな。コス似合ってるわよ~~♪」


「殿さん。俺だけ、なんだか他の連中と違うが?」


 練習すること1か月。

 俺は遂に、文化的侵略第1弾を始めた!


 この京都の町にMMダン……踊りを広めるんだ!!


「この辺りでいいか。京の都。朱雀大路。幅が広いのでちょうどよい」


 俺が指し示した場所を慶次が周りの通行人を威嚇して確保。

 利家のに~ちゃんが縄を張ってステージらしきスペースを作る。


 今回は最小限のメンバーで行う。

 コスが間に合わなかったんだよ。

 今度、寧々ちゃん呼び寄せてコスを大量生産するか?



「では、参る!」


 俺の合図で一斉に、この時代ではありえない音曲が京の町に流れる。

 アップテンポのメロディを、琵琶かき鳴らし、小鼓こつづみと枠型太鼓を乱打。篳篥ひちりきが高音を奏でる。


 しょうの楽師も参加させたかったんだけど、「私共の楽器ではついて行けませぬ」と断られちゃいました。


 そりゃそうだよね。

 あの「ぷぁああ~」というゆっくりしか吹けない楽器で、ボカロは無理です、はい。


 俺、京都守護になった時から、仕事いっぱいしたんだよ。

 人材集めて訓練を施し、チームワークを高め、自信を持たせる。

 真剣に頑張ったんだ。

 ほめて頂戴。


 え?

 行政の仕事はどうしたのかって?

 適材適所だよ。村井のおじいさまに丸投げしました~。

 俺は俺にしかできない文化的侵略という、高度戦略を楽しんで……げふん。精魂込めて真剣に展開していたんだよ。



 その正念場・晴れの舞台が今日な訳。


 アゲハは、俺のドストライクな銀髪に変わったんで、Aラインの白いワンピースを着させた。

 髪型も今回はストレートに。


 あの傑作、「マンマちゃん、み~つけた」「見つかっちゃった」で消えていくアニメ。俺、あれの大ファンなのでホクホクです。


 でもみんなからは止められた。

「まだ3月でしょ? 風邪ひくでしょ!?」

 と。


 でもアゲハが「いいです。これいいです。これがいいです」と頭をブンブン振って自己主張。

「ご主人様~。アゲハの踊るとこ見てるです」

 と、汗まみれになって練習していた。



 ツンデレ忍者の雪風は、学園ものの定番ブレザー。


 黒古の奴。

 ミシンもないのに半年でよくこれ作ったな。

 第一、 毛織物なんかないぞ?

 ウールっぽく作るとは、相当な腕と見た。



 その黒古はもっと手の込んだ衣装だ。


『初寝みか』風の衣装。

 おい。

 ニット織とかない時代にどうやってその伸縮性を持たせるの?

 縫い針が例の針なんだが、針を刺せば何でもありなのか、お前は!



 慶次は……


 特殊な帽子をかぶっている。

 帽子の前にはツバ。

 鮮やかな青で染めてあり、前にいくつかの飾りをつけている。

 帽子の後ろには毛皮をつけて、毛がなびく様な形でセットしている。


 上着は、これまた鮮やかな青で、やんちゃな学生君が昔着ていた、長~い学ランみたいな服の前を開けて着ている。



 黒古よ。

 なぜ、このランニングシャツは、こんなに肌にフィットするんだ?

 慶次の筋肉が丸見えじゃないか?


 最初見たときは驚いたよ。


 これはもしや。

 あの『叙々炎の不可思議な冒険』に出て来る強烈な個性を持ったキャラ?

 と、聞いたら「わかった? わかった? ねえ、わかっちゃった?」と、両手をグーにして口元へ持って行き、目にお星様飛ばして喜んでいた。


 レイヤーさんたちは『わかってもらえる』こと、超快感なんだろうな。


 ただ、筋肉ダルマの慶次には似合わないが……




 周りの庶民は、奇妙なものを見る目つきで通り過ぎていくだけ。


 だがこれでいいのだ。

 ここからが文化的侵略だ。

 すでに用意してある『かわら版』。

 これで大々的に流行させる。


 絵付きの新聞だ!

 京都の庶民は噂話に飢えている。

 一気にこの噂は広まる。


 MMダン……踊りを広めるのも目的だが、このかわら版自体を流通させることで、『情報』を操ることが出来る!

 決して遊んでいる訳じゃないぞ!



 ん?

 サブカルらしくないって?

 これもWeb小説に書いてあった手法だよ?

 あの『首取る物語』。

 それの進化バージョンだ。


 1つアイデア言ったら、全てを理解して10個もの策を作ってくれる天才策士がいると楽だねぇ~~~~

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