第16話:義昭(まだ義秋で~す)

 1567年8月

 美濃国岐阜城



 やっぱり1年くらい歴史早まっています。

 なんで1567年中に義昭来ちゃうんだよ!

 1568年だろ、68年!


 お市様も1年早く結婚しちゃうしさ。

 そりゃ交渉うまく行ったさ。俺が頑張ったから。てゆ~か、半兵衛っちが頑張ったんだけどね。


 なんで俺ばっか重要な仕事が回って来るんだよ!? 調略なんか秀吉がいるでしょ、人誑ひとたらしのプロ。


 浅井あざい家の内紛に手を回して、長政の父ちゃん、つまり久政おじちゃんの大好きな猿楽師紹介したりさ、連歌の会を毎月開くとか。それは涙ぐましい努力を……


 久政おじちゃん、いい奴なんだよ本当は。サブカル知識と全然違ったよ。内政ばっちりよ。治水灌漑技術この当時の最高水準の技術者呼んで頑張ってた。

 外交も弱腰とか言われたけど、六角と良い関係持っていたから豊かになったわけ。


 それを息子が壊しちゃってさぁ。

 俺、嫌いだ。長政。

 野蛮な奴、嫌いです。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「では、此度の上洛の件。上総介よ、先導せよ」


「ははっ。畏まってござる」


 狩衣(あの公家さんが着ているやつ)着て胸を反らした、えっらそうな小男を前に、信ちゃん平伏。


 あれ、足利将軍家の後を継ぎ第14代の将軍職を足利本家のスペア的な平島公方だっけ? そこの出身、義栄くんと争っている最中。


 向こうは実質的な天下人だった三好長慶の死後、落ち目の三好三人衆という連中に引っ張り出されて推薦立候補しています。


 それに対抗しているんです。

 いや、対抗しないと命危険だから。抹殺されるから。少しでも危険な芽を摘んでおこうと将軍に近い人、減らすんだよね。

 この人、先の第13代将軍足利義輝の弟だからさ。危険なんだよ。



 信ちゃんは上洛したい。

 義秋にーちゃんは、自己防衛のために上洛して将軍になりたい。


 意見一致!

 思惑一致!


 レッツゴー!!


 ということで、これから上洛戦が始まります。


 ……でもね。

 気になることが。


 この義秋のにーちゃんさ。

 連れてくるのは正史では『光秀』なんだよ。


 俺?

 やってないっす。


 だって幕臣じゃないし。

 文化的素養なんかないから、京都にうといし。


 で、連れて来たのが秀吉なんだよ。

 あいつ、俺とおんなじか、それ以上に教養ないでしょ。それとなく聞いてみたんだけどね。


 いつもの大笑いの後、胸を張り「よい家来が出来て、その者が手引きした」とかなんとか。


 誰だよ、そいつ。

 後で会ってみるかな。まずはアゲハに調べさせるかな。




 あ。

 知らぬ間に謁見の儀が終わっちゃいました。

 明日は大評定で作戦方針を説明だとか。信ちゃん、大抵上位下達だから一瞬で終わる?


 でも、最近は意見を求めるようになったね。


 ワンマンは組織が大きくなると嫌われるよ。

 謀反に気をつけてね。

 でも、俺はやんないから。

 だから優しくしてね。

 痛くしないでね。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「キンカン! 貴様は北伊勢に行け!」


 は?

 さっきの将軍謁見のすぐ後、呼び出されました、俺。

 急に何を言うのか?


 これから全兵力を持って、上洛するんでしょ?

 正史での北伊勢攻略この年だけどさ。やっている暇ないじゃん。

 兵力足りない。


 そんな感じで視線を送ると、


「調略じゃ」


 やはりそれくらいでしょ、打てる手は。


 滝川一益が先鋒で第1次侵攻したけど、後続ないと知れば徹底交戦されるよ。この時代は徹底抗戦なんか珍しい。だいたいある程度の所で開城とか降伏。


 だってそれで勝ったとしても、農民疲弊ひへいして反乱祭りで大名やってられなくなる。


 ある程度打撃与えてからの調略ですよ。


 だっ、がっ!

 今回は打撃与えられるの?

 そんなに兵力持って行けないでしょ?


「兵力はいかに?」


「一益に兵6000を預ける。それに寄騎せよ」


 6000……

 ゲーム知識では、伊勢国全体で50万石以上あったような。その半分として少なく見積もって25万石。40万石で総動員兵力1万人だから。7000人?


 まさか総動員なんかするはずもなく。

 半分の3500。

 これを織田の6500弱で潰せるか?


 いや潰さなくていいんだよ。こっちにつけば。半数を調略できればなぁ。


「一益に勝三郎(池田恒興つねおき)をつける。あ奴らは北伊勢に縁がある。切り崩させる故、貴様の部隊で一撃後、その威力を背景に調略する」


 なるほど~。さすが信ちゃん。

 戦だけではないね。こういう硬軟混ぜての作戦でなくちゃ勝てないよ。


「はっ。承知仕りました。この光秀、一命をとして北伊勢を攻略……」


「そうではない。お主の使命は、一撃を加えるだけじゃ。北伊勢の攻略は一益の仕事。貴様はすぐに取って返し、5日のうちに観音寺攻めに参加せよ」



 ほへ?


 今、手元に地図なんかないけど、どう考えても100kmくらいあるよね、伊勢亀山付近から鈴鹿山脈大回りして関ヶ原抜けて南近江行くのに。


 それ鉄砲担いでよいコラショって。

 この時代の街道なんか、石がゴロゴロ、穴がボコボコ。荷駄連れていくから一日20km行軍すればヒイコラしょ。


 急いで5日だけどね。向こうで死闘を繰り広げるんでしょ?

 やだよ、そんな苦労。したくな~い。


 なにか逃げる手は……



 そうだっ!

 今後の戦略を考えると、六角が甲賀に逃げ込んでしぶとく交戦を続けたから信長の戦略的自由性が制限された。だから信長包囲網で苦戦したんだっけ。


 だったら先に、この時期甲賀を押さえればいい!

 ここも調略と合戦の併用で。


「信長様。某に名案が」


「ん、申せ」


 ここはこの策が有意義であることを強調、その後、危険極まりないことを説明。そして最後に「できないかもしれないけど、その時は許してね」的に予防線を張る。


「上洛後のことにございまする。京の都と岐阜との交通線の安全が最重要。そこに脅威を与えるもの。それすなわち比叡山と南の守り。比叡山は今後の課題ですが、今せねばならぬのは六角の完全消滅による、南の安全確保。これ無くして上洛後の戦略は展開できませぬ」


 信ちゃん、黙ってしまい「続けよ」という目つき。


「観音寺城攻めは織田勢総力を挙げても不可能と見ます。よって義秋様からの大号令を発布。周辺諸将の来援を待ち、取り掛かるのが吉。

 その間に古来から将軍や管領の逃げ場となっている甲賀を押さえまする。これで逃げ場を封じ、適当な条件を持たせて仲介者に降伏を呼びかけまする。

 ことに隠居の六角承禎と当主義治との離間策。それから蒲生を離間させまする。そのための伝手として、伊勢の関氏と神戸氏を真っ先に降伏させまする。うまく行くかは某の実力次第。また、蒲生を説き伏せる事が出来るかがカギとなります。準備は入念さが必要ですが」



 そして、ダメだったらふつ~に観音寺城攻めましょ、と言おう。それを言おうとしたら信、先回りして……


「よし。キンカン。お主に甲賀を任せた。しかし観音寺城は並行して攻める。鉄砲隊は犬(前田利家)に任せて近江へ寄こせ」



 はひ?


「調略なれば鉄砲隊は要らぬ。北伊勢を平定後、一益が北伊勢を押さえる。その分の補完として鉄砲隊を観音寺攻めに使う。キンカン、お主は単身、蒲生をはじめとして甲賀の国衆を押さえよ」


 ま、待ってください。

 単身赴任?

 部下を取り上げて、成績不振の地方の子会社に出向させられて、いつ帰って来れるかわからない的な?


「しかし、そのような短期間にての調略は……しかも戦力を背景としたおどしも無く……」


「命じた。二度とは言わぬ」



 ああ。神様。仏様。

 あ、違った、俺、無神論者。

 ああ、稲生様!

 ヘルプ~~~


 光秀、知ってる。

 信、できないと思ってる。でもやらせる。鬼~~~~~!!!!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 上洛戦まで行きませんでした。

 主人公だけ、のけ者です。

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