第12話:ゲームの威力を見よ!
1566年3月
美濃国井ノ口(岐阜市)
「にいちゃん。それはなんだね?」
「へい。遊戯盤です。すごろくよりも面白いですぜ」
「そうかっ! おい、五平、作蔵。やってみるか? 一緒に」
俺は今、行商人に身をやつして潜入作戦を行っている。
日本全国をサブカルで支配する陰謀……げふんげふん。美濃攻略のため、斎藤家の本拠地である稲葉山城の城下町、井ノ口の敵情視察をしているのだ。
何を行商しているかというと、自作ボードゲーム。
金次郎立志伝Ⅵだ。
なぜⅥかは『気分』だ。
それがオタクの習性。
内容は貧農小作農家に生まれた金次郎が、子供ながらに焚き木を集めて、それを背負いながら勉学に勤しみ、豪農となっていくゲームだ。
焚き木集めは決して、幼馴染でケンカが強い黒髪の女の子に手伝わせてはいけない。そんなことをすれば、いずれ自分が巨人化してしまい人類を滅ぼしかねない。
そういう裏ルールもオプションで作ってある。
すでに織田は合戦と調略で美濃の国衆を寝返らせ、着実に美濃斎藤家の勢力をそいでいる。その一環ですよ。家臣総出で色々な美濃の国衆にアプローチしているんだ。国衆なんかそこら中に縁戚関係あるから、それ伝っていくと結構効果的。
「か~っ! 五平がお代官様にご褒美として一町歩(1ヘクタール)いただいただと? それに比べ俺はまた貧農になっちまった!」
「ウヒヒ。おいらは牛馬耕っていう技術を身につけたぞ!」
楽しんでくれて俺も嬉しい。
貧(農)民ゲームという名前をつけたかったが、ゲームという言葉ではわからないからな。これを村長さんや居酒屋に売りつけて流行らせる。
その後もカードゲームTTRPGなどを流行らせ、いつかは全国大会を! そしてその主催者になってぼろ儲け。その金使って超豪華6畳ワンルーム空間を作るのだ!
さあ次は美濃を支配している斎藤家の武将にボードゲームを売りつけるぞ!
◇ ◇ ◇ ◇
「待った! その手待った!」
「お侍様、さっきから『これが最後じゃ』と何回聞いたか。今回はこの手で通させていただきます」
俺は美濃3人衆の一人、安藤守就の屋敷に入り込んで将棋をさしている。
この前、ルールを教えてから半年。相当楽しんだらしい。だが、ネットの、ぽよ将棋というアプリで三段の俺。勝てるはずがない!
「ではお約束通り、竹中半兵衛様に紹介状を書いていただきたく」
「仕方あるまい。じゃがあの男に勝てるかな。こと戦のこととなると張良・孔明の
このおっさん安藤守就の娘婿は、あの有名な竹中半兵衛重治。
つまり秀吉の下で活躍した天才軍師です、はい。
この男がどうしても秀吉(ああ、やっと改名しました~)の引き抜きに応じないとかで、その手助けをせよと信ちゃんの命令。
秀吉が天下取るのに、やっぱ必要でしょ? 天才軍師。
なので半年前に秀吉に「これやっといて。必ず役に立つから。勉強にもなるよ~」とプレゼントしておいたゲームがあります。
『秀吉立志伝Ⅶ』
この『秀吉』という名前のところは、プレゼントする人の名前に変える。それで使いまわすのだ。
もちろんⅦは気分。と、行きたいところだがシリアルナンバーです。
無印はもちろん『光秀立志伝』です。
『信長立志伝Ⅰ』はすでに献上済み。突っ返されましたけど。光秀、カナシイ。
◇ ◇ ◇ ◇
「用意はよろしいか? 秀吉殿。遊戯盤の準備。紹介状。先触れ。全て整っている。あとは秀吉殿の力量にかかっている。頼みましたぞ」
「わかり申した。この程度の児戯は、某には造作もない事。光秀殿の手を借りることもこれで最後じゃ、ハハハハ!」
秀吉は既に7回、竹中半兵衛の隠遁先である、ここ美濃国不破郡岩手に調略に来ている。その前には利家のに~ちゃんが調略をしようとしたけど、逆に調略されそうになる始末。
なんだかこの辺の年号があいまいで、ゲームとWeb小説の知識が混乱しちゃっているんだよな。
昔のゲームでは美濃攻略前に秀吉が調略成功しているけど、最近のWeb小説では美濃平定後だそうで。
だが目の前の状況は、1566年美濃平定直前で、すでに秀吉が調略に来て失敗してる?
もしかして、これヤバイ状況?
歴史、早まっちゃってる?
俺のせい?
違うと言って~~!
歴史が早まってしまい光秀、歴史知識チートが出来なくなっている件。
◇ ◇ ◇ ◇
「ま、参りました……」
お~い、秀吉く~ん。
半年のアドバンテージ、どうしちゃったのよ? 四半刻(30分)と持たずに、完敗だよ。
余裕の優男、竹中半兵衛。何事もなかったように扇子使ってゆっくりと冷を取る。きっと顔には出さないけど、嬉しいんだよな。
この対戦型、半兵衛立志伝Ⅷ。
君にあげた秀吉立志伝バージョンを、秀吉君向けチート仕様にしたんだけどね。
たとえば、中村の大政所、仲おっかさんの所で一晩寝ると全回復出来るとか、チート仕様にしたんだ。
なぜそれを使わない!!??
し、仕方ない。
このままでは信ちゃんのかんしゃくが爆発する。俺は背負ってきた別のボードゲームを目の前に置いた。
「流石、美濃にこの人ありと知られた今孔明殿。このような簡単な遊戯は幼稚でありましたか。では仕切り直し。今度は鬼難しいゲームを……」
「鬼難しい? げいむ?」
ははは、ついつい令和言葉を使っちまったい。
とにかくルールブックの
そりゃそうだ。
そのゲーム。スウェーデンのヘンタイ的なやり込みゲームを作ることで有名なパラドックスなゲーム会社の、鉄の心臓4という奴の戦国バージョンだ。
補給兵站はもとより、技術革新兵器開発教育思想。その国の特産製品などが隠しパラメータで動いている。
これを趣味人である俺は、時には徹夜、長い時は五徹、六徹をして有志が作ったMODによるMMOで、無数の強豪を撃破してきた。
やり込みでは誰にも負けん!
「これはすごいですね。
「正二十面体のサイコロ五個を使います。1/10000の数値までは出せます」
そう言ってあの冬木製作所(単なる元馬小屋だが)で正確無比に加工制作した五個のサイコロを手渡す。
これまた
「やりたくなりましたね。御一緒いたしましょう」
ということでゲームを始めました。
◇ ◇ ◇ ◇
「参りました」
ゼイゼイ……
か、勝った……
延々、10日間。
秀吉に食事作ってもらい、病弱な半兵衛っちを寝かせている間に、作戦練って、データ集計。前のターンの結果から次の初期データを算出。
これもうやりたくないっす。
遊びだから作ったけどね。
遊びだからやりたいけどね。
真剣勝負は・・・
「拙者、やりたくないでござる!」
さっき半兵衛っち、起きてきましたよ。
これから
「さあ、ゲームを始めよう」
とか言ったら、ノーゲームノーセンゴクやめて、尾張へ逃げかえります。
と思っていました。
それが先程の
「参りました」
ですよ。
「これはあなたが作った物でしょう。私はこの遊戯の中に、戦の神髄を見ました。つまり作ったあなたは戦の神髄を知っておられる」
急に居住まいを正し、俺に礼を取った。
「喜んで織田家、いえあなた様、明智十兵衛光秀様にお仕えいたします。ぜひ某に戦の神髄を指南していただきたく」
え?
戦?
の?
神髄?
なにそれ、美味しいの?
隣から槍が何本も突き刺さるような鋭い視線が来ているような気がするけど、今更「秀吉を手伝って天下を取らせてあげてね」とか言っても無駄?
◇ ◇ ◇ ◇
令和光秀。
大物続々手に入れるけど、つ、使いこなせるのかぁ??
「次は墨俣~、墨俣~。お急ぎの方は長良川にいかだをうかべてくださ~い」
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