第8話:外堀埋められる

 

「この度は誠にめでたいですなぁ。寧々殿は、この藤吉郎にとってやはり高嶺の花でござった。足軽大将の杉原家には、某、釣り合いが取れませんでしたな~」


 なぜか、寧々ちゃんと祝言しゅうげんをあげている俺、明智光秀15歳です。


 実年齢45歳にして初婚ですが、嬉しいよりも危機意識がJアラート並みに頭の中をよぎりによぎっています。


 秀吉よ。

 顔はいつものニコニコ猿面だけどな。

 片目のまぶたがヒクヒクしているぞ。


 決して俺のせいではない!

 間違えるな。間違えて天下を取った時に俺を仲間はずれ、いや成敗するなんて考えるなよ~。


 全くもって不安しかない。




 蒲焼の一件以来、ご近所の杉原さんちの寧々ちゃんが、ことあるごとにおうちに来るんだよ。


 弁当作って来たとか、お鍋しているから一緒に食べませんかとか。

 俺は断ろうとするんだが、食いしん坊のアレが、お家にはいるんだよなぁ。


「それは有難い! お邪魔いたしま~す」


 と、勝手にドスドスと冬木の野郎がお呼ばれに応じてしまう。


 時には、床下から


「ご主人様~。私も食べるです~」


 と、蚊の鳴く様な小さな妹系アニメ声が聞こえてくる。


 アゲハは寝床やタンス、薬の調合棚とかを狭い床下に持ちこんで、そこに住んでいる。部屋を用意すると言っても全然言う事を聞かない。


「忍びは常に主の身辺を警護するです」


 と言って、譲らない。


 その居場所が、なぜか俺の居間と寝所の真下に広がっている。この場所が護衛に最適だとか言う。


 真剣に守ってくれているのだから仕方ない。

 寧々ちゃんもアゲハを可愛がるので、色々とガールズトークを展開している。


 だがな。

 ガールズトークのために床下に入っていくなよ、寧々ちゃん!




 そんな生活を3か月。


 ある時、信長が俺を呼びつけた。


「キンカン! 嫁を取れ!」


 あ。

 遂に俺。キンカンというあだ名になりました。


 別にハゲていて、マゲが正月飾りの金柑のように見えたわけではなく。段々と髪の毛の薄くなっちまったんだ。きっとあの糞坊主の仕業。


 それがまるで金柑のような色だと、キラキラネーム好き?の信長君に付けられました~



「何故でございましょうや?」


「お主をもっと働かせるためよ」


 ?

 平常運転の織田信長発言です。

 全く意味が解らね~


「お主。毎日、酉の刻(午後5時)になると、どこにもよらずに真っ直ぐ家に帰ると聞いている。だが夜半まで明かりがついており、中で何やら作業をしていると。今後の献策のために秘密の作業をして居るのであろう。

 体を壊されては困る。もっと織田家のための工夫をせよ。そのための嫁じゃ。杉原の娘を貰え」


 ああ。嫁に家事を任せてもっと働けと。

 信長君にしては家臣想いかと思いきや、功利主義者でございました。


 だが断る


 俺は現在、家事をサブカルの一つと考えている。


 こんな時代だ。

 俺はどうしても、平成・令和の時代の文化を取り入れた生活様式を再現したいのだ! そのような作業を理解してくれる者がこの時代にいる筈がない!


 と思っていた時期が、俺にもありました。


「光秀様!その装束は?この菓子は?そこの絵は何でございましょう!?」


 ……杉原寧々ちゃん。ハマりました。

 ヲタク文化に。


 俺と冬木の作っているフィギュアや、二次元萌えの絵に狂喜し、オムライスにハートマークを、ケチャップがないから木苺のジェルで描いて食わせてくれる。


 しまいにはアゲハのコス作り始めるし。


 外堀がどんどん埋められていきました、はい。


 そしてアゲハが強力な援軍として立候補。

 同年齢のおねいさんがいるのが嬉しかったんだろう。なにせ孤独な忍び。こっちも狂喜乱舞。


 で、信長君。杉原家の事を聞き、俺たちを娶せたのです(涙




「これから寧々は光秀様に生涯ついて参ります。よろしくお願いいたします」


 三つ指ついて、寝所でご対面。

 45歳にしてDT卒業は嬉しいけど、こんなに可愛い嫁だけど。

 1582年に秀吉に殺されるのは何としても避けねば!


 こええよ~。

 逃げ出したい。

 お家に帰りたい。

 あ、ここがお家か。


 今から熨斗のしつけて秀吉君の所に送りつけるとか。

 ……無理ですか、そうですか。



「おい。アゲハ。どうでもいいから、これから寧々ちゃんと夜戦に突入するから退避しろ。ほかで警戒態勢をとれ」


 床下のアゲハに命令する。


「……では、天井にて監視いたしますです。うふっ」


 話の通じない奴は嫌いだぁ~。






 ドンドンドン!


 何だ騒々しい。

 これから初夜だぞ!

 誰かは知らんが、こんな夜中に人の家の戸を叩くな!



「明智殿! お城の石垣が崩れ、死傷者が出ておりまする。大至急登城せよと」


 あ。

 この前の台風で地盤が緩んだな。

 まるで太閤記のような出来事。これから石垣修理かな?


 扉を開けると、猿顔。

 なんだかニヤニヤしているな。

 初夜の邪魔出来て嬉しいか? 秀吉よ。


「わかり申した。火急的速やかに登城いたす」


 猿顔が去った後、後ろを振り向くと、既に着物を用意している寧々ちゃん。


 さすが北政所様。

 手際がいいなぁ。

 秀吉の内助の功。

 光秀の内助の功になっちまいました。


 ごめん秀吉くん。

 今度、いい嫁探そうな。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 次は石垣修理対決です。

 戦場はもうちょっとお待ちください。

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