4 アップデートの日(3)
『ジークは、息絶えた。』
え……?
画面には、その一言だけが表示されていた。
どういうこと?
スマホを持つ手が震える。
息絶えたって……どういう意味?
え?そういう意味?
嘘。
そんなはずないでしょ。何かもっと別の意味が……。
タップで進んでいく物語は、頭の中には入ってこない。
「え……?」
何?
何?これ?
これって何?
震える指で画面を触り続ける。目の前を、王太子とヒロインの泣き顔や笑顔が通り過ぎていった。
王太子を守るように、走り寄り、突き飛ばして……。
それで?
それでどうしてこうなるの?
頭の中が真っ白になる。
こんなの、信じない。
信じない。
あり得ない。
それからの記憶は薄い。
記憶として、残しておきたくないのかもしれない。
大学を何日も休んで、ゲームに明け暮れた。
レベルが足りなかったのかもしれない。選択肢を間違えたのかも。ううん、もしかしたらもっと前のステータスなんかが、あの展開に繋がってしまったのかも。
どこかに。
どこかに、あの人を生きたままハッピーエンドに導く方法が。どこかに。
けれど、何日やっても何週間やっても、そんな展開はなかった。
何度も訪れる『息絶えた。』の文字。
「やだ……」
この人は全てを助けてくれたの。私の全てを。
受験を乗り越えるときも、誰かとケンカした時も、初めての一人暮らしの夜も。ジークが居たから乗り越えてこれたの。
それなのに。
どうして、私は助けられないの?
そうだ。
パソコンを立ち上げ、公式サイトを見る。
あの、アップデートのお知らせから、音沙汰はないようだ。
攻略サイトはどうだろう。
どこかにあるんじゃないだろうか。あの人を助ける方法が。助ける方法を見つけた人が。
枯れ果てたと思った涙がまた流れ出すのをそのままに、攻略サイトを開く。
ふ、と、交流掲示板が目に飛び込んできた。
「ジーク……さまの……しを……いた…………」
息が、止まるかと思った。
「やだ」
立ち上がる。
「こんなのやだ」
カーテンの隙間からは朝日が飛び込んできていた。
いつだかはわからないがそれは冬の平日の朝だった。
「がっこう……」
そうだ、がっこうにいけば、これをやっているともだちがいる。
震える手でトートバッグにスマホを入れ、迷いながら見渡すも、他に何を入れていいかわからず、そのままスマホだけを入れたトートバッグを持って外に出た。
「………………」
無言で歩いた。
無言で歩いて、それから。真横から何か大きな衝撃を受けた。
私の記憶はそこまでだ。
なんでこうなっちゃったのかわからない。
もしかしたら、ジークルートなら、主役のジークは生きていたのかもしれない。ハッピーエンドだったのかも。
1、2ヶ月待てばよかったのに。
もう少し冷静でいたなら。
せめて睡眠をとっていたら。
客観的に見れば、いろいろと考えられる。
でも、その時の私には、心の支えが消えてしまったその事実だけがあった。
この結果しかなかった。
そう、私は死んだんだ。
◇◇◇◇◇
リアルにゲームですっごい落ち込んでしまって、もう立ち直れない〜……楽しめない〜……うわあああああんってなっております。そんな気持ちで膝を抱えて作品を書いているわけですが……。
作品自体は、悲恋ものでもひねった設定があるわけでもなく、目指す先はほのぼのラブストーリーです。安心してお読みください!
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