第2話 同級生のお友達。

身長の高い,黒髪ロングの美人。

そんな風に呼ばれていることを知っている。

口数は少なく,頭も悪くない。

運動だって,人より出来る。

私を形作る要素は,いつも人間関係で裏目に出た。

同性も,異性も。

友達なんていた試しが無い。

私のことを,好きだといってくれるのは,ただ1人だけ。

たった1人の家族も,他人もなにも変わらない。

猫目の大きな目は,余計に人を寄せ付けないようだった。


「重い…」


運悪く,日直だった私。

数学のワーク回収を,授業中に命じられてしまった。

個別に声をかけないと出さない人のせいで,時間もかかった。

とにかく職員室までが遠い。

階段の最後の一段を下りた時,そこそこ大きな衝撃が私を襲う。

何事かととっさに目を閉じたとき,しまったと思った。

予想通り,出席番号順に並べていたワークは,私を囲むようにバラバラと散らかる。


「いっ……前,ちゃんと見て」


私の生まれながらの硬質な声が,誰もいない階段に静かに響く。

少しの柔らかみもない言葉と声に,またかと私は思った。

私は前を見て,ゆっくりと歩いていた。

そして,死角から誰かが飛び出てきた。

ただ,それだけの話だったけど。

この場合,相手が不機嫌になるか,恐々としながら謝られるか。

その2択。

どちらも望んではいない。

私は取り敢えず,落ちた荷物を拾うことにした。


「…っあ,ごめん一花さん!」


その声を聞いて,私は手を止める。


「私を知ってるの? …若槻」


名字でなく名前を呼ばれた事に驚いた。

そして,私にぶつかった相手が,若槻だった事にも。


「まぁ,隣のクラスだし。ごめんワーク,俺も運ぶよ。ケガしてない? タックルかましてほんとごめん」

「大丈夫。並べ替えなくちゃいけないし」

「そこまでしなくてもあの先生は怒んないよ。ほら,貸して」


ワークを全て引ったくられて,私は若槻の隣を歩く。


「若槻も,廊下とか走るんだ」

「あー怒ってる?」

「怒ってない。ただ意外だっただけ。皆にとっての王子様は廊下なんて走らないらしいから」

「いや,まぁ…よっぽど走らないけど」


会話が続いて,不思議な気分になる。

誰かに自分から話し掛けるのも,珍しいことだった。

さくっと着いた職員室で,数学担当の先生に手渡す。

適当に頭を下げて戻ると,まだ若槻がいた。


「何で走ってたの」

「え?」

「さっき,何か言いかけたでしょ」

「あー。友達が他校の有名な子と知り合いらしくて,今日何人かで遊ぶらしんだよ。そこに無理やり参加させられそうになってて」


逃げたんだ。

私は耳だけで聞きながら,ふーんと思う。

合コンも,今の時代遊ぶと名前を変えるらしい。

若槻が女の子ホイホイに使われるのも,分からないわけではない。


「今日乗り越えれればいいんだけど」

「…じゃあ」


今日の放課後は,暇なんだよね。


「今日1日,私の友達をしてくれない? 放課後,付き合ってよ」

 

経験したこと無いことも,たまにはしてみたい。


「さっきのお詫びにでも」

「…ん,いいよ」


考え込むような様子を見せた若槻は,短く了承した。

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