第3話 ステータス

 葵の話を聞いた三人は難しい顔をしている。何しろ神様を探しているとは雲をつかむような話だ。この世界に神様がいるのは事実だが、見たことがある者は三人の中に誰もいない。会ったことのある葵でさえ、会ったあの場所がどこなのか判然としない。


(そういえば神様放って逃げ出してきちゃったけど大丈夫だったかな…。でも神様だって言うし自分でなんとかしたかな。ていうかほとんど私の方を追っかけてきてたような気もするし…。)

 スオウを森に放置して逃げ出したことを思い出して、なんとなく罪悪感を感じた葵だが、でも別に神様も助けてくれなかったしな、と思い至って悩むのをやめることにした。


 そんな中、うーんと唸っていたラークが、なにかいいことを思いついたという表情でぱっと顔を上げた。


「葵、ジョブはビショップだったか?」


 突然そう言われて葵は面食らう。こくりと頷くと、ラークはニヤリと笑った。


「葵、俺たちと来る気はないか?神を倒すなんて物騒なことを言うのはちょっと気になるが、まあすぐ神様の居場所がわかるとは思えないしな。俺達は旅商人だから色んなところに行く。危険も多いんだが、俺達はさっきも言ったとおり攻撃型のジョブしかいない。葵がいるとバランスが良くなって色々とやりやすそうだ。あと、葵がさっきモンスターに投げてたやつ。あれが俺気になってるんだよな。葵が持ってるもの、何か商売になるかもしれないぞ。」


 なるほど、連れがいるのは心強いし自分が役に立てるならそれもいいかもしれない、と葵は思った。


「私は賛成よ。男所帯でむさ苦しいばっかりだったもの。女の子が増えるのは大歓迎。」


 にっこり笑って言ったのはフリージアだった。よろしく、と手を伸ばしてくる。葵は慌てて手を伸ばして握手をした。


「俺も異論はないな。葵がどれだけのビショップかはわからないけど、いるに越したことはない。もし今そんなに強くなかったとしても、一緒に旅をしていけばそれなりになるだろうし。」


 アルスも異存はないようだ。葵はほっとして力が抜ける。こんなところで一人放り出されたらどうなることか。スオウは言っていた。「死ぬことはない」と。だが、その代わり瀕死の状態でも回復してもらえるまで苦しむことになるとも言っていた。できればそんな状態は避けたい。

 葵は席を立ち、


「よろしくお願いします!」


 と三人に頭を下げた。

 三人は顔を見合わせ、笑い出す。


「そんなに肩に力入れなくていいんだぜ、葵。」

「そうよ、もう仲間なんだから。それより仲良くやりましょう。」

「葵は真面目だな…。ラーク叔父さんも少しは見習ってほしいものだが。」


 そういうわけで、葵は運よくすんなりと仲間を手に入れた。四人と一匹はよく食べて次の日に備えることにした。スオウの情報を手に入れるため、この街にしばらく留まることになった。

 宿に向かうと言うのでついて行くと、葵はフリージアと同室になった。アンディは大丈夫だろうかと葵は不安になったが、意外と宿の店主は寛容で、「シーツさえ汚さないでいてくれればそれでいいさ」と、アンディの同室も許してくれた。


 フリージアがシャワーを浴びに行っている間、葵はベッドに座り込んで考えていた。ここはゲームの世界だと言っていた。それなら自分のステータスはどれくらいなのだろうと。ステータスとか見れるのかな、と思った瞬間、目の前にブン!と大きな緑枠が現れた。そしてその中に何やら色々と書き込まれている。

 驚いた葵だが、好奇心のほうが勝った。どれどれと覗き込む。


『大沢葵 ビショップ レベル20 攻撃力89 防御力200 敏捷性80 運300 魔法攻撃102 魔法防御248』


 葵はこれを見て、うーんと唸った。これは葵がプレイしていたキャラクターそのもののステータスだ。毎日プレイして確認していたからよく覚えている。ビショップだから火力が出なくて困る、それなのにゲーム内でフレンドが全く増えなくてソロ攻略せざるを得ず、全然話が進まないのでどうしようと思って眺めていたステータスそのものだ。


「多分、あんまり強くない、よね…。」


 しかもスターチスから付与されたチートスキル、いやゴミクズスキルはアンディのフードを出せるだけである。


「これじゃああんまりパーティの役に立てないかなあ…。」


 葵はぼふん!と大きな音を立ててベッドに背中から倒れ込んだ。

 葵が今使えるのは、回復魔法とバフ魔法、火力の低い攻撃魔法だ。ビショップは強くなると唯一の強力な聖属性魔法が使えるとインターネットの攻略情報で見たが、葵の今の状態では気が遠くなるほど遠い気がする。

 折角パーティの仲間に入れてもらえたのにこのままではまずい、と葵は思った。レベル上げをしなければと思った葵は、フリージアがシャワーから戻るのを今か今かと待ち望むのだった。

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