38

彼が私に話しかけてきた。ようやく来たわね。

 

 最近彼が家におらず何かを準備してきているのは知っている。そして私はそれすらも飲み込んで勝つつもりでいる。


『ほらみなさい、貴方は私に守られていればいいのよ』


そう言ってやるつもりだ。


 彼の母は、この宣言をすることを知らなかったらしく凄く怒っている。でも安心しておば様、私は彼をここで倒して、心も体も屈服させてあげますわ。


「さあ、始めましょう」


『『強化(stärken)』』


 子供の頃とは比べ物にならないくらいの速さで彼が踏み込んでくる。初手の意表をついた攻撃としては良い攻撃だ。だけど私の体はそれに反応するくらい成長している。

 攻撃を受け流し、彼に切りかかる。それと同時に彼の足元から短剣が飛んでくる。


おっと


 危ない危ない、意表に意表を重ねたいい攻撃だ。普段から彼を見ている私でなければくらっていたかもしれない。彼の行動を逐一監視していた私からするとそれは初見にはならない。


 彼の一撃が私を襲う。その攻撃は男性らしく重い攻撃で、ただ鈍重だった。その遅さでは私に追いつけない。難なくひょいっと避ける。


 距離ができたことで一拍置かれる。


「なかなかやるじゃない」


「……チッ」


 彼は納得言っていないようだが、彼の動きはとても同い年の男性の動きとは思えない。私のための努力は単純に好感が持てる。


「でもダメ、そんな遅さじゃあ私は捕らえられないわ」


「ふん、ならお前から攻撃してこいよ」


 あら、分かりやすい挑発。何か狙っているのかしら。

 でも私の記憶の中に、彼が私の攻撃に対抗できる手段がないことを考える。もしかしたら最近いなかったのは、その秘策を練っていたのかもしれない。


それは……とても楽しみ


 私のために一体どんな秘策を用意したのか、罠だと分かっていても知りたくなる。魔力を体全体に込める。もし罠だとしても力で全て食い破る。そんなつもりで彼女は彼に攻撃を仕掛ける。


彼の足を狙う、切りつけるが彼は無反応だ。

後ろから背中を切りつける、これも違うらしい。

肩を突きさす、痛そうな表情をする彼、あはっ。もしかして本当に無策なの?


(もし本当に無策だったら、ごめんなさい死んじゃうかも!)


 最期に顔に向かって突きを繰り出す。その一撃は今までの人生の中で最高で最速の突きだった。彼への思いがその一撃を繰り出す。

 彼はその攻撃に無策にも手で防御することを選んだ。そして剣が彼の手を突きさす。


「捕まえた」


「あっ」


 不覚にもドキリとしてしまった。その隙を見逃さず彼は私を片手一本で宙に挙げる。


まずい――!


 このまま背中から地面に叩きつけられたら、少なくとも数秒動けなくなる。その間に剣を突き立てられ詰みだ。少し遊び過ぎたか。

 体を何とかひねり、地面に背中から落ちないよう体制を整える。これを凌げば私の勝ち。


 そして私は、思っていた方向と違う方向に叩きつけられた。


「がはっ!」


 彼の筋力は私の想像を超えていた。私なんて軽々持ち上げられ、あらゆる方向に叩きつけられる。つまり持ち上げられた時点で詰みだった。


ビタンビタン


 何度も叩きつけられ、呼吸ができなくなる。まずい意識が――


 唐突に攻撃が終わり剣が突き付けられる。


「俺の勝ちだ」


 そうして二人の戦いが終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る