1000文字恋愛小説

@considus

いつも寂しげなあなた

美しい顔立ちをした優しい青年。

私は彼と同じ家に住んでいる。

彼はいつもそばにいてくれて、毎日私に優しく口づけてくれる。

楽しげに微笑む彼の顔を見るだけで私の心は満たされて、とくんと胸が高鳴ってしまう。


けれど彼が不意に見せる横顔はいつも寂しげで、ここではないどこかを見ているように思えてしまう。

いつも彼には微笑んでいて欲しいのに、私ではその心の隙間を埋められない。

口下手な私は彼に優しい言葉をかけてあげることもできない。

臆病な私は彼を優しく抱きしめてあげることもできない。

私は彼の心を満たしてあげることができていない。


だけどそんな私のことを、彼は優しく口づけてくれる。

本当に口づけを必要としているのはあなたの方なのに。

包み込むような愛を必要としているのはあなたの方なのに。

彼は私に何かを要求することもなく、ただ優しく微笑んで私にそっと口づける。

その時の幸せそうな彼の顔は、私の胸に喜びと悲しみを同時にもたらす。


今日もあなたはどこか寂しそうに窓の外を見ている。

あなたのために何かしてあげたい。

あなたのことを慰めてあげたい。

ただ幸せを与えられるだけの私ではなく、寂しがるあなたのために何かをしてあげたい。

だから私はありったけの勇気をふりしぼり、あなたに向かって一歩を踏み出した。

カチャン。


「おっと、ティーカップが床に落ちて割れてしまったようだ…気に入ってたんだけどな」


消えゆく意識に彼の声が遠く聞こえる。


私は、音を立てて割れた。

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