第13話 社交界デビューですわ

オットーがアンポワネット家で働くようになってから3年が過ぎた。

アンポワネット家筆頭執事であるスチュワートの下、住み込みでマナー・教養・仕事内容などを詰め込まれているのだ。

普段はアンポワネット家の仕事を、週末は父の仕事を手伝うという超過酷労働っぷり!

10歳の子供にここまで働かせるなんて、一歩間違えば(間違えなくても)児童虐待だ、


オットーの吸収のスピードは驚異的だ。

彼は記憶力が秀でていて、一度聞いたことは決して忘れない。

特に私に関することならどんな些細なことも記憶しているのだ。

私の好きなお菓子、嫌いな野菜、衣装の好み、行動パターン、好きな下着の柄まで理解している。

ストーカーも真っ青だ。

あれ?自分の好きな下着のことなんてオットーに言ったっけ?


オットーの父リーダーの事業も順調だ。

もともと人を惹きつける魅力があったのだろう。

依頼者も登録者も順調に増えているようだ。

オットーはこの事業名を「ギルド」と名付けた。

実はこの事業が異世界初の「冒険者ギルド」となったらしい。

美人の獣耳受付嬢がいるギルドとして、国内外からも注目されているのだ。


ギルド設立を皮切りに平民の冒険者たちが増加したようだ。

依頼数もうなぎ登り。

なんと半年足らずで、アイゼンベルグ王国で最も稼ぐ組織になった。

なりたい職業ランキングで冒険者が上位にランクインし、「女の子が憧れる職業ランキング」でぐーたら主婦を抜いてギルド受付嬢が第3位に選ばれたのだ。

ちなみに第1位がチート聖女、第2位が美人薬師だったらしい。


リーダーは時の人として雑誌でも紹介され、今度長者番付にも選出されるとの噂だ。

そういやリーダーの名前ってなんだっけ?まっいっか。



・・・・・・・・・・・



今日は私の社交界デビューの日。

父の出資したギルドが有名になった記念に、パーティを開くことになったのだ。

今まで私は、悪役令嬢語のこともあって社交界デビューを遅らせてきた。

しかし、アンポワネット家主催となると逃げ場はない。


社交界デビューって、最も悪役令嬢が活躍するイベントじゃない!

全くいい予感がしないんですけど!


部屋に戻ると満面の笑みでドレスを持って、私が戻るのを待っていたマーサ。

さすがにオットーはいないようだ。


マーサは様々なドレスや装飾品を準備している。

どうやら私を着せ替え人形と間違えているらしい。


それから一時間余り、私はまるでマーサのおもちゃ。

ブツブツ言いながら何度も何度も私を着せたり脱がしたりしている。

このままでは埒が明かないと判断した私は、マーサが選んできたドレスの中から一着を選ぶことにした。


そこにいつぞやの選択肢が現れる。

この選択肢は、他の人には見えず私だけ見える。

乙女ゲームのように、選択肢を選ばないと先に進めないという代物だ。

どうやら私にこの選択肢の中から選べというのだ。

現れた選択肢は3つ。


1.これであなたもクールビューティ!真っ黒なドレス

2.セクシーさを協調!全身シースルーのベージュドレス

3.末代まで語られるインパクト!怪獣の着ぐるみ


どれも選べるかー!!


1.なんで主催のパーティで全身ブラックコーディネートなのよ!

2.これってただのネグリジェですよね?

3.これ着てパーティ出たら家ごと没落するわ!てゆうか何でマーサこんなの持っているのよ!


相変わらず悪意しか感じられない魔の選択肢。

一番ましなのは1の真っ黒なドレスだけだ。


仕方なく私は1番を選択。


「お嬢様ならこのドレスを選んでくれると思っていました。」

真っ黒なドレスを選択すると、マーサは嬉しそうな顔をする。


一体あなたは普段から私のことをどう思っているのよ。


早速私は黒いドレスに着替え、装飾品も黒に統一した。

これってマジでアカンやつじゃない?


ドレスアップが終わった私を見て、マーサの強烈な一言が炸裂する!


「お嬢様素敵です。まるで暗殺者のようです。」

感想で暗殺者ってどういうこと?

陛下も出席するパーティですよね?会場で捕まらない?


「ホーッホホホホホホ!私ほど黒のドレスが似合う令嬢はいないですわね。(ねぇ、違うドレスに替えない?)」


「左様でございます、お嬢様。そのダークな着こなし、このマーサ今までお仕えしてこれほど嬉しいことはございません。」


ちょ、ちょっと何泣いてるのよマーサ。

本気で泣きたいのは私なのよぉ!

さすがにこのままパーティに出るのはマズイ、ここはお母様に相談しましょ。


母の部屋に向かう途中、兄のアルベルトに遭遇する。

いつもなら私を見るとハグを求める兄だったが、この時ばかりは反応が違っていた。

私と全く目を合わせようとせず、どことなく会話すら避けようとしている。


「や、やあメリー。今日のドレスは一段と禍々しいね。」


ドレスの感想が禍々しいってどういうことよ!

私も好き好んで着ている訳じゃないのよ。


アルベルトは、それだけ言うとそそくさとその場を離れた。

どうやら今日もパーティをサボるらしい。



母の部屋の前を通ると、「げっひー」「ぐっひー」と叫び声が聞こえる。

どうやら母はまだコルセットを装着している最中らしい。


諦めて父の書斎に行くと、すでにパーティ用の衣装に着替えた父が書斎の前で佇んでいた。

丈の長い赤のタキシードジャケットに黒のパンツ。

スマートでイケメンな父に赤はとても映えるのだ。


父も私に気付いたみたい。父の方から私に寄ってきた。

早速私のドレスについて聞いてみよう。


「お父様、私の衣装をどう思われますか?」


「うーん、メリーたん。可愛い髪型でちゅね。」


聞いているの服のことだし。

中年の赤ちゃん言葉は痛々しい。

もう金輪際使うのをやめて欲しい。

これさえなければ、知的でかっこいい父なのに。


「冗談はさておき」

どこまでが冗談?


「良く似合っているよ。まるで魔女みたいだ。」

それって明らかに誉め言葉じゃないよね?


結局衣装を替えることが出来ないまま、パーティの時間となってしまった。

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