人欲-3
19時過ぎに会社を出て、目の前のカフェに入りアイスティーを注文する。
プラスチックを通じる冷たさが指の感覚を明確にする。
最近は、「いい日」だなと思っても、そのまま最後まで「いい日」のまま日付が変わることが少ない。
お客さんに言われたことよりも樫木に言われたことばが澱となっている。
新卒から営業で働いて五年が経った。成功すれば「女のくせに」と陰口を叩かれ、チヤホヤされれば「女は得」と言われ、失敗すれば「女だから」と言われる。
この国は女性進出に遅れを取っているときくが、こんな不条理は自分の周りだけならいいのにと思う。ほかにもこんな思いをしている「女性」がいるのだろうか。バカバカしい。
この前読んだ雑誌には成功した女性社長のインタビューが載っていた。ほかのページにも輝く女性の特集が組まれていた。しかしそこには「最近“は”女性進出が進んでいる」と書かれていた。
まるで願望のようだ。実際のところ、進んではいるのだろうが、足踏みしているのだと肌身で感じる。
これ以上はもう、仕事をする気にならず、スマホでレズビアン風俗の店名を検索し、すぐに遊べる女の子を予約した。
こういうときは誰か、わたしのことをよく知らない誰かの体に触れたくてたまらなくなる。
外見の好みはないがレズビアン界隈でボイ系と言われるボーイッシュな風貌の子よりも、フェム系と言われるボイ系の正反対のタイプを選ぶことが多い。
わたしはフェムタチだと自認している。タチとは性行為のときに能動的な側。
「男性らしさ」「女性らしさ」とはなんだろう。
ほんとうは、それぞれの性別など神様のように目に見えない、形がないものなのに、誰かが勝手に思い描いた「男性らしさ」「女性らしさ」を大多数のひとが追い求めている、もしくは追われているだけなのではないだろうか。
きょうの相手は「るみ 二十四歳」。最近は、あんまり年上のレズビアン風俗嬢が新しく入ってこない。
いつも利用する女子会プランのある新宿のラブホテルに向かい、るみを待った。
るみはレモンシフォンのワンピースを着た子だった。身長はわたしと同じ一七〇センチくらいで、わたしよりも肉付きがよかった。
歯を磨いた後、一緒にシャワーに入り、ベッドを共にする。
出会ってすぐのひとと、こいびと同士がするようなことをするなんて妙なことだと自覚がある。
だけど、自分にとってこれがいちばん楽しいこと。この魔法が解ける瞬間、雪山に放り投げられたような気持ちになるけれど。
人間社会に属し、人間を求めているわたしは健全だと自分に言い聞かせる。
きょうは貪るのが面倒くさいから、マグロで過ごした。
何度も何度も快楽に導かれ、無駄と思われることは何も考えないようにした。でも、すぐに「あしたも仕事がんばらないと」という日常に脳が汚される。
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