(2/47)寂しいのですかぁ?

 知らない天井だ……。

 仰向けに横たわるベッドは温かく、俺の横からは何やら安心するような良い匂いが漂ってくる。

 目を覚ますと木で縁取られた窓から月明りがこぼれていた。

 だんだんと明るさに慣れてきて、部屋がぼんやりと輪郭をあらわしてくる。

 左肩越しの窓から注ぎ込む儚い白い光はすぐ下の机を照らし出し、その反射は部屋全体も淡く映し出す。

 知らない机、知らない壁、知らない天井。

 そのまま視線を足元に移すと扉があるが、それも記憶の中からつかみ出せない。

 ……知らない空気だ。

 俺はそんなことを思いつつ夢うつつ寝返りをうった。

 

 ……もにゅ。

 

 おわっ?

 速攻で体勢を元の仰向けの状態に戻す。

 もにゅ?もにゅってなんだ?

 何かいるのか?こわっ!

 生温かくて柔らかいもだった。

 いきもの?

 ……でも、嫌な感じはしなかったかも。

 今度はゆっくりと同じ右側の壁の方へ身体を向けてみる。

 

 ごくり。

 自分の唾を飲む音が大きく響き渡った。

 

 ……いました。

 いきもの、いました。

 その金髪のいきものは、背中を向けながら、すぅすぅと寝息を立てていた。

 呼吸のリズムに合わせるかのように、哺乳類特有の湿り気のある体温が鼻腔をくすぐるような匂いを運んでくる。

 

 ……女の子。

 女の子じゃん。

 毛布に覆われた身体を月光が影を作っている。

 柔らかな丸みを帯びた線が息づかいに合わせ上下する。

 

 シャーロット。

 そう、このはシャーロットと言ったんだった。

 

 頭の中でいろいろな事が結びつき始めようとした、その時。

 シャーロットがこちらを向いた。

 そして月光だけでもわかる少し厚めの潤んだ唇を動かした。


「寂しいのですかぁ?カイさん」

 そういうと両手を広げ、優しいながらも力強く俺の頭を引き寄せた。

 俺はその行動に抗えるはずもなく、ただ従うしかない。

 ふくよかな胸に押し付けられたメガネが曇って視界がぼやける。

 甘い匂いに頭もぼうっとしてきた。

 

 えっと……。

 何でこんなことになってるんだっけ???

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