第22話 横暴な生徒会長、ホントの姿
午後になると生徒集会が行われた。新しい生徒会副会長就任の挨拶の場だ。風紀委員は校内見回りの仕事があるので全員が体育館に向かうわけには行かなかったが、俺は体育館の後ろから生徒を見張る役割を任された。人前に出る友人を見守りたかったのでありがたい。
壇上に俺の友人が上がる。新生徒会副会長の挨拶が始まった。まるで緊張していないかのように振る舞い、他の生徒会役員のようにオーラを放っている。俺の知ってるあいつじゃないみたいだ。
優雅なお辞儀と共にステージ脇に捌ける友人。全生徒から拍手が送られる。普段の全校集会は生徒たちが今にも寝そうな感じで校長とかの話を聞いているから、だいぶ真面目に聞いてもらえている方だと思う。生徒会のカリスマ性もあると思うが。
全校集会が終わり、生徒たちが一斉に帰るより、一息早く俺は風紀室に戻った。生徒の波に揉まれたくなかったから。いつもどおり不良と見回りの仕事をしていると、スマホが鳴った。友人からのメールだ。
生徒会長が、親衛隊を振り払ってどこかへ向かったという。
「すまん、ちょっと用事が」
「は?」
「ほんとごめん! すぐ戻、いや戻れないかも」
「ふっざけ」
おそらくふざけるなって言おうとしていたと思う。エレベーターは動いていない。まだ生徒会長は最上階にいるようだ。エレベーターで上がると、生徒会長が正面から来ていた。さも、何事もないかのようにすれ違う。
そして生徒会長がエレベーターに乗り込むのを振り返って見送ったら、何回のボタンが光るかを確認する。5階だ。この階には生徒会室と風紀室以外の委員会部屋がある。他には空き教室が多く、サボりの生徒が多いという特徴もある。風紀の見回りでよく、この階で生徒がいちゃついているのを見つけては空き教室から追い出すという流れがよくあった。
しかし、このまま俺までエレベーターで生徒会長が降りた階に降りると、エレベーターが止まったときのベルが5階に響いてしまい、追ってきたことを生徒会長に悟られてしまう。俺は階段を忍び足で駆け下りた。
「いない」
誰もいない。この階に入っている委員会は生徒会や風紀と違って授業免除がないから、この時間帯には授業を受けているはずのため、今この階に誰も居ないのは普通のことだ。だが、さっきこの階に降りていった生徒会長までいないというのはおかしい。教室を覗いて回る。どの部屋にも生徒会長はいない。
なんで? 他に俺の知らない部屋があるのか?
「というわけなんだ。俺は転校してきて間もないから、まだ学校の作りをよくわかってないんだよ。教えてくれ」
俺はさっき置き去りにした見回り中の不良と合流して、しこたま怒られたあとで、俺が潜入していることは伏せて、生徒会長が誰かと逢引しているようだと話した。今は校舎の外周を見回っている。
「そう言われたって、俺の能力、一階にあるのと同じ校舎の地図出せるだけだぞ」
「もう一度、よく見比べてほしいんだ。一階の地図は客向けに、大雑把に書いてあるだろ。お前にどういう風に見えているかはわからないけど、細かい違いがないかと思って」
「ちょい待ってろ」
不良は目をつぶり、髪がふわっと重力に逆らって浮く。一発で、今魔法を使っていると分かる。数秒経って、不良が目を開けた。
「分かった」
不良はしゃがみこんで、背の低い木から小枝をもぎ取って、芝生に地図を書き出した。
「階段の横にあるここの空き教室は、教室の中にもう一つ扉があって、物置みたいな小さい部屋がある。きっと準備室として昔に使われてたんだろ」
「やっぱり、廊下からは見えない部屋を使ってたんだ。俺がこの階に着いたときには、すでに会長は奥の部屋に入ってたんだな」
次のチャンスを待つことにしよう。
翌日、チャンスが再びやってきた。まさか連日、生徒会長が謎の人物に会いに行くとは思っていなかった。教えてくれた友人にメールを返信して、一緒に見回りをしていた不良に両手をすり合わせる。
「申し訳ない! 行ってくる」
「おう、あのサボりオレ様野郎の尻尾捕まえてこい」
不良は俺に向かって親指を立てた。昨日は急に走ってどっか行った俺にブチギレてた不良だが、生徒会の仕事をサボって誰かと密会していると思われる生徒会長の話をしたことで、今は応援してくれている。
様々な委員会室がある5階まで階段で登って、階段の影から生徒会長を見張って通り過ぎるのを待つ。空き教室の一つに入っていく生徒会長。俺はすぐに飛び出さなかった。それは正しい判断だったようだ。生徒会長は一度、背後を警戒して振り返った。危なかった。
教室の扉を閉めた生徒会長。俺はその空き教室前まで近づいて、聞き耳を立てる。教室の中から、更に別の扉を開ける音が聞こえた。不良が教えてくれたとおりだった。この教室は更に奥にサブ的な教室がある造りになっていたんだ。便利な能力持ってるじゃないか。
会長が奥の部屋の扉を閉じたのを耳で確認して、俺はそっと教室の扉をスライドさせて、体がギリギリ通る隙間だけ開けて、そっと空き教室に体を滑らせて、静かに扉を閉じた。空き教室と行っても机が均等に配置されているし、壁に掲示物がない点以外は普通教室と変わらない。
奥の教室からは会長の声しか聞こえない。いや、もうひとり分低い声が聞こえる!
俺はてっきり、かわいい系の男子と会っていると思っていた。どういう経緯でこんな隠れたところで合わないといけないのかと思っていたんだ。けれどこれは、恋愛とかそういう系統の話ではないのかもしれない。会長の機嫌が悪そうな声が扉の向こうから聞こえる。風紀委員長と話してるときくらい機嫌が悪い。
突然、機嫌がいい魔王みたいな笑い声が聞こえてきた。もうひとりの誰かが爆笑している。俺は扉のほんの少しの隙間から覗き込んだ。
「ひとりでしてみせろ」
「そんなもの、見て楽しいか」
「お前が嫌がる顔を見るのは最高だね」
「悪趣味な野郎だ」
「ふん、やらないならこの学園の生徒を俺の魔法であの世に送るまでだ」
「くっ」
ガタイの良い生徒は片手を持ち上げ、その手のひらには禍々しい何かが浮かび上がっている。生徒会長が床に手をついたまま、ゆっくりとベルトに手をかける。
「遅ぇんだよ!」
ガタイの良い生徒は会長を蹴り飛ばした。上下の歯を見せて楽しそうに笑っていて、狂気を感じる。
ガタイの良い生徒は、蹴られて身を丸めた会長の背中を踏みつける。会長の悲鳴の間にぎりぎりと、骨の軋む音まで聞こえてきた。
俺はたまらず扉を開けた。会長の悲鳴に耐えられなくなったから。ガタイの良い野郎は会長の頭を踏みつける。タックルを決める俺。力が増幅される魔法に寄って、狭い部屋の壁際までガタイの良い生徒が吹き飛んだ。会長に駆け寄りたいところだが、この生徒にとどめを刺さないと不意打ちを食らうかも知れない。
近寄ってガタイの良い生徒の前髪を掴み顔を上げさせる。あれ、こいつの顔みたことあるな。どこで見たんだっけ。
「あ、お前会長の親衛隊にいた」
生徒会長の親衛隊はチワワみたいな甲高い声の生徒しかいない中で、一人だけデカい生徒がいて印象に残ってたんだ。思い出してきた。絶対こいつだ。
「死ぬぞ離れろ」
背後から会長の悲鳴に近い声が聞こえる。慌てて飛び退くと、目の前の生徒が片手を振り上げ、手のひらを俺に向けてきていた。禍々しい何かを手から放つつもりだ。俺は銃を突きつけられた様に咄嗟に両手を上げて、バンザイのポーズを取る。我ながら情けないが、もし銃弾とかだったらと思うと、こうせざるを得ない。
俺にかざしているのと反対の手で、この生徒は会長の横に並んで座るよう指図してくる。床に膝をつくと、ズボンの布越しにひんやりした床の冷たさが膝に伝わった。
「他の生徒達に危害を加えられたくなければ、俺の言うことを聞くんだな。おい、生徒会長様よぉ、何連れてきてんだよ。殺して良いのか?」
「勘弁してくれ、また言うことを聞くから! 生徒には手を出さないでくれ頼む」
生徒会長は、髪が床につくのも厭わずに頭を下げている。
「じゃあ今度は何を頼もうかなぁ。そうだ、新しい副会長ぶん殴って来いよ」
「それは」
「んだよ、殺されるよりマシだろ?」
「ああ」
全てわかった。魔法が使えるようになって生徒会長が代わってしまったという前生徒会副会長の証言。それは強い魔法が使えるこの生徒、会長の親衛隊であるこいつと会長の力関係が入れ替わってしまい、この生徒が全校生徒を人質に会長を脅していたからだ。
生徒会長の本来の性格は今俺が目にしているとおり、学校思いで生徒思い。自分のプライドなんてクソ喰らえな、情に厚い男。人の上に立つ者の理想的な姿を見ているようだった。
「あはぁ、良いざまだな」
親衛隊の生徒は目をひん剥いて笑っている。考えろ俺、この状況を解決する方法を。
この生徒が使う魔法を俺は自分の目で未だ見ていない。だから、実際に見れば突破口が浮かぶはずなんだ。
「てめぇの魔法なんてちっとも怖くないね」
俺はこの偉そうな生徒につばを吐いた。
「んだと」
怒りで頭に血が上った生徒は、俺に視線をロックオン、そして再び手のひらを俺に向けた。目線が先、手のひらはワンテンポ後。こいつの魔法は手から出るものじゃない。手はブラフ。視線さえ目標物を見ていれば殺ることができる筈。
「見切った」
俺は立ち上がり、自分の手で、こいつの目を覆った。相手は手を封じてくると思っていたようだ。必死に目隠ししている俺の手を剥がそうとしてくる。暴れ方が喧嘩慣れしていない。
「魔法で強くなったつもりだったか」
頭を抑え込んでいるついでに、耳に直接話しかけてやる。
こいつは力の使い方を間違えた。こんなアチラコチラに喧嘩売るやり方をしたら、いつかは俺みたいなやつに成敗されてしまっていただろう。
「会長、風紀と先生を呼んで」
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